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■日時:2018年10月8日 カテゴリ:水素燃料電池車
 
【燃料電池車 VS 純電気自動車(EV) どちらが普及する?】
 
今回のブログでは、よく日本の報道で取り上げられる燃料電池車(FCV)と純電気自動車(EV)は将来どちらが普及するの?という論点について、燃料電池車の経済性の分析と純電気自動車の特性から考察していきます。
 
・現在の燃料電池車(FCV)の経済性分析
まずは燃料電池車のコスト組成についてみてみましょう。下の図は米国エネルギー庁(DOE)が公開している情報に基づいて弊社がまとめたものですが、Miraiなどの燃料電池車乗用車では燃料電池システムコストは約233米ドル/kW(年産1000台と仮定した場合)で全車体コストの過半数(Miraiは73%)を占めています。これは一般的なガソリン車のエンジンコスト比15%、電気自動車の動力電池システムのコスト比40%と比べても高い水準と言えます。一体燃料電池システムのうちどこの部位が高コスト要因なのでしょうか?燃料電池システムのコスト組成を見てみると、燃料電池スタック(電池セルの集合部位)が約60%を占めています。さらに燃料電池スタックのコスト組成を見てみると、kWあたりのコストはそれぞれ高い順に双極版が50米ドル、電極膜が33米ドル、白金触媒が34米ドル、ガス拡散層が18米ドルとなっています。燃料電池スタックに使用される双極板はカーボンファイバーなどの素材によって構成されているため高く、電極膜もMEA(プロトン交換膜)という特殊な化学膜を使用しているため小スケールでの生産では高コストとなります。白金触媒は当たり前ですが高価な白金を多量に使用するため高コスト要因になっています。
 
 
・将来の燃料電池車の経済性分析
それでは燃料電池車の普及が進み、量産体制に入った場合はどうでしょうか?
下の円グラフは同じくDOEの公開データをまとめたもので、それぞれ年産1000台、10万台、50万台の場合の燃料電池スタックのコスト組成の変化を示しています。この図では、生産量が増えるにつれて電極膜、ガス拡散層やガスケットなどのコストは圧縮される一方で双極板、白金触媒は依然として高コスト要因であることが分かります。これは上述にも説明した通り、双極板や触媒はカーボンファイバー、白金といった素材自体の単価が高いため量産によるコスト低減効果が小さいためです。
この問題を解決するための一つの方法として、現在白金触媒の白金部位を芯全体ではなく触媒芯棒の表面部位にのみ使用することで白金の使用量を減らすなどの取り組みが行われています。
 
出所:米国エネルギー庁(DOE)公開データより弊社まとめ
 
量産化による燃料電池の全体のコストはどのように変化するかを示したのが下の棒グラフです。このDOEの公開情報によれば、年産50万台で燃料電池システムコストは50〜63米ドル/kWにまで減少すると予想されています。また、DOEは同時に燃料電池車がガソリン車や電気自動車に比べて価格競争力を持つコストとして50米ドル/kWをベンチマークに掲げています。日本の経済産業省が発表している水素エネルギーと燃料電池の戦略的ロードマップによると、2030年までの燃料電池車の年間普及台数は80万台となっており、もしこの目標が達成されDOEの筋書きが正しいとすれば2030年までには燃料電池車はガソリン車や電気自動車と比較してもコスト競争力がある段階に入ると考えることができます。
おいおい本当かと疑問に思われる方のために、次に燃料電池車と電気自動車の電池システムのコスト比較について述べていきます。
 
出所:米国エネルギー庁(DOE)公開データより弊社まとめ
 
・燃料電池 VS 純電気自動車
下のグラフは水素協議会(Hydrogen Council)が発行する公開調査レポート「Hydrogen Scaling up」のうち燃料電池車と純電気自動車の電力容積コスト(kWあたりのコスト)の比較をまとめたものです。
この報告書によれば、2030年時点のコスト前提(電気自動車バッテリーコスト:100米ドル/kW、燃料電池コスト:40米ドル/kW、水素タンクコスト:24米ドル/kW)では、純電気自動車の30kWバッテリー(2016日産リーフのバッテリーのサイズ)の容積コストは、同様の容量を持つ燃料電池電気自動車(FCEV)より約35%安い。しかし燃料電池の電池容量の増加によるコストは動力電池の容量増加によるコストよりも低いため、電力容量が増加するにつれてFCEVのコストはより安くなり、約55kWでは、双方の電池部位のコストは均衡点に達します。これは走行距離に変換すると300kmに相当します。それ以上の容量ではFCEVはBEVよりも安価になり、1,000km走行距離になるとFCEVは約55%のコスト優位性を有すると述べられています。
 
つまり、このシュミレーションの条件下では300km以下の短距離走行では電気自動車が、300km以上の長距離走行では燃料電池車が適していると考えることができます。
 
所:水素協議会(Hydrogen Council)、「Hydrogen Scaling up」
 
中国の燃料電池産業ではこのシュミレーション通り、燃料電池車は物流車や公共バスなど長距離運行を目的とした商用車が圧倒的に普及しています。業界的にも短距離走行の車輌は電気自動車、長距離走行の車輌は燃料電池車というように共存する見方が有力になってきています(下の図はトヨタ自動車中国の公開資料より)。
所:トヨタ自動車研究センター(中国)公開データ
 
・飛行機こそ燃料電池が最適?
また、これらの見方とは全く別に、そもそも水素は質量あたりのエネルギー密度が最も高い燃料であり、水素燃料電池は重量に制限がある飛行移動体こそ適しているという見方も一部あります。実際、無人飛行機などの技術が進んでいる中国では、燃料電池を搭載した無人飛行機の応用例などが実在しています。通常30分程度が飛行時間の限界である下の写真のような無人飛行機も燃料電池を搭載することで2時間飛べるようになるとのことです。2030年以降はあちこちにこのような燃料電池を搭載した無人飛行機が飛んでいる、といった光景が見られるかもしれません。また、もしかしたら有人飛行機へ応用するケースが見られる日もそう遠くないかもしれません。
 
中国寧夏省銀市にあるメガソーラー基地の点検作業を行う水素燃料電池を搭載した無人飛行機
筆)INTEGRAL Co., Ltd  2018年10月8日
 
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