

中国は石炭の生産大国であり、石炭の価格は比較的低く、原料は豊富であるため、石
炭ガス化による水素製造コストは水素製造方法の中でも最も低い。しかし石炭ガス化
の水素製造の工程は比較的長いため大規模な製水装置(>1000Nm3/h)が必要にな
る。
一般に天然ガス資源が乏しく水素需要が大きい地域では、石炭ガス化水素技術が理想
と言われています。製造コストは広東省の実績ベースで0.6-0.9元(10-15円)/Nm3。
・天然ガス水素転化
中国の水素ガス需要は分散しており、一つ一つの需要規模が小さいのが特徴で、低投
資低消費の天然ガスの蒸気転化水素技術は中小規模の水素需要地に適している。
一般に天然ガスが豊富な地域では、天然ガスの蒸気を水素に転化するのが理想と言わ
れています。製造コストは広東省の実績ベースで1.2-1.9元(19-31円)/Nm3。
・メタノール分解
メタノールは石炭化学工業の初期製造工程で大量に生成される(石炭と水蒸気を反応
させると一酸化炭素と水素が発生し、一酸化炭素は水素処理することでメタノールに
転化され、様々な化学製品の原料となる)ため、中国国内では非常に安価に流通して
います。このメタノールを分解処理することにより水素が生産できる。製造コストは
広東省の実績ベースで1.8-2.5元(29-41円)/Nm3。
・水電気分解
現在水電気分解による水素製造コストは非常に高く、製造コストは広東省の実績ベー
スで2.0-4.0元(33-65円)/Nm3。となっています。しかしながら、中国は太陽光・
風力・水力発電における送電・蓄電能力不足により発電機会の損失が大きく(棄光・
棄光・棄水と呼ばれる)、これら再エネ由来の余剰電力を使って水素を製造すること
は本来捨てるはずであった電力で水素製造を行うので経済的合理性があります。ま
た、発電したエネルギーを水素という2次エネルギーとして保存する(Power to
Gas)ことは蓄電の観点からもメリットがあります。
他の水素製造法と違い、唯一水素ステーション内で水素を製造することができるた
め、水素の輸送コストがかかりません。そして、発電から水素製造までのプロセスで
一切の炭素排出が無いことも重要です。このような利点により、再エネ由来電力によ
る水電気分解法は将来における重要な水素供給手段の一つです。
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②水素ステーション運行の経済分析
最後に中国における水素ステーション運行の経済分析について説明します。水素ス
テーション運行における主なコストは水素調達コスト、水素輸送コスト、水素ステー
ション設備コスト、人件費、減価償却費になりますが、下の図の表は前者三つのコス
ト要因をまとめたものです(単位は比較し易くするためNm3からKgに変えていま
す)。
このコスト表から色々なシュミレーションができ、例えば
水電気分解の場合:28.9元
水素タンク車20MPa輸送の場合:13.4元
水素ステーション運営コスト(200Kg/日の場合):23元
合計コスト:65.3元
工業ガス由来の水素の場合:11.3元
水素タンク車20MPa輸送の場合:13.4元
水素ステーション運営コスト(500Kg/日の場合):18元
合計コスト:42.7元
これに上記人件費、減価償却費などが上乗せされます。
現在北京、上海では水素ステーションの水素供給価格は40〜70元/Kgとなっており、
補助金無しでは運営はかなり厳しいのではないかと思われます。別のブログ記事でも
上海靖遠路水素ステーションの運行状況について訪問した内容を紹介しています。
弊社の考えでは、水素の生産コストについてはこれ以上低減できる余地が少なく、液
体水素輸送への切り替えと1日あたりの水素供給量を増やすことが今後のコスト低減に
重要になってくると考えています。液体水素輸送については現在明確な標準が無く、
事実上不可能となっています。仮に今後液体水素輸送が可能となり、1日あたりの供給
量が1000Kgまで増えた場合は
工業ガス由来の水素の場合:11.3元
低温液体水素による輸送:3.3元
水素ステーション運営コスト(1000Kg/日の場合):11.5元
合計コスト:26.1元
までコストが下がることになり、採算が取れる可能性が出てきます。
しばらくは時間が掛かると思いますが、それまでは中国の水素供給のインフラ
の政府補助金や基金による投資などによって運行が支えられていくことでしょう
筆)INTEGRAL Co., Ltd 2018年11月5日
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