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■ブログ日時:2018年12月20日 カテゴリ:水素燃料電池、風力発電、太陽光発電
12月15日に中国科学技術部(日本でいう文部科学省にあたる)は「国家重点研究計画における再エネと水素エネルギー技術に関する2019年度重点9分野」のパブコメ(専門家の意見募集)を行いました。本政策は「国家中長期科学技術発展計画要綱(2014年〜2020年)」、「エネルギー発展戦略行動計画(2014年〜2020年)」、「十三五国家科学技術革新計画」」などの国家政策に含まれる「再エネと水素エネルギー技術」重点分野の具体的な研究項目と目標を示すもので、今回は2018年〜2022年の重点研究項目が発表されました(5年毎に更新)。
重点9分野は、①再エネの自主研究・開発能力の大幅な向上、②風力発電の強化、③太陽光発電の先進技術の導入、④太陽熱、地熱、バイオマス、海洋エネルギーの高効率利用技術、⑤水素エネルギー技術開発と産業化の促進、⑥再エネ大規模発電によるグリッド・パリティの実現、⑦大面積区域への暖房供給、⑧化石燃料の大規模代替、⑨エネルギー構造改革と気候変動対策のためのインフラ基盤の設立 に分けられ、合計38の重点研究項目から構成されます。注目すべきはこの中でも水素エネルギーに関する重点研究項目は9項目を占めており、中央政府が水素エネルギー分野でのイノベーションを特に重要視していることが読み取れます。
今回のブログでは、各重点研究項目の概要とその策定の背景について説明していきたいと思います。
水素エネルギー関連の重点研究項目は以下の9項目です。
- 車用膜電極及びロット作製技術
- 自動車用燃料電池空気供給機(空圧機)の研究開発
- 自動車用燃料電池水素ガス再循環ポンプ
- 70MPa車載高圧水素タンク技術
- 車載液体水素技術供給技術
- 燃料電池車向け水素の浄化技術
- 水素ステーションにおける高安全固形化水素の供給技術
- 70MPa水素ステーション用加圧・充填のコア設備
- 水素充填コア設備の安全性能テスト技術・設備
これらの項目は現在の中国水素・燃料電池産業のボトルネックになっている項目と言っても良いでしょう。
現在中国では燃料電池スタックの核心材料(膜電極(MEA)、双極板)の国産化の動きは一部の企業に限定され、性能面でも海外主要国の水準とは依然差があります。現在市場に投入されている燃料電池車のスタックの核心材料はほぼ海外技術に依存しており、燃料電池システムはそれら海外技術をインテグレーションしたものに過ぎません。
また、空圧機、水素再循環ポンプ、水素検測器などのシステム補機系等の国産品は特に欠如しており、性能でも海外製に比べて大きな差があります。
中国の車載水素タンクは35MPaが採用されており、70MPaの水素タンクに関しては技術の蓄積が不足している状況です。一回の充填でより多くの距離を走行するにはより多くの水素が必要になるので、タンク内の水素密度を上げることが必要になります。水素密度を上げると、タンクの安全性を確保する必要があるため炭素繊維の加工技術もより複雑になります。現在の中国の70MPaの国産水素タンクの開発は初期の段階にあります。
水素供給のインフラ面では、低コストな水素供給技術の開発が求められています。現在の高圧水素タンク輸送は既存の天然ガス輸送の技術が使用でき、特別な設備も不要なため最も利便性が高い輸送手段となっていますが、一度に運べる水素の量が少ないため長距離の輸送になるほどコスト割高になります。このため一度の輸送で10倍もの量の水素が運べる液体水素貯蔵・輸送技術の開発が急がれており、現在江蘇省張家港にある企業(富瑞など)などで液体水素の貯蔵技術の開発が進んでいます。
また、現在の中国の主要な水素供給源は天然ガス、化学石油工業由来の副産水素ガス、石炭水素ガス化となっていますが、天然ガスや副産水素ガスには燃料電池に悪影響を及ぼす微量の硫黄成分(H2Sなど)、一酸化炭素などが含まれていると言われています。燃料電池車向けの水素は高い純度(コンマ下3桁)が必須であるため、生産地点におけるPSA処理技術(H2SやCOなどを選択的に吸着して高純度の水素を得る方法)の向上及び水素品質検査技術の開発、標準策定が必要とされています。
水素ステーションでは、水素の貯蔵装置、充填装置の核心材料は海外製への依存が大きく、低コスト化のため国産化が急がれています。また、充填方法や充填水素量の検査、安全性に関する標準は極めて不足しており、水素ステーションの新規建設の障害になっています。
今回の科技部の発表では、これらの中国水素エネルギー産業のボトルネックを解消するための具体的な指標を示したと言えるでしょう。
以下、参考までに各研究項目の研究指針と目標の概要についてまとめてみました。
①車用膜電極及びロット作製技術
研究内容:商用車用のプロトン交換膜燃料電池の高性能、長寿命膜電極の量産技術を開発する。
目標指標:
プロトン膜プロトン伝導電気抵抗≦0.02Ωcm 2、
水素浸透≦2mA/cm 2、
化学機械混合耐久性≧20000サイクル、
膜電極活性面積≧200cm2、
Pt載量≦0.4 mg / cm2、
電気出力性能≧2A/cm2@0.62V、≧0.3A/cm2@0.8V、
抗反極時間≧100分(75℃、0.2A/cm2)、
抵抗200回の反極電流の循環後(- 10℃、0.2 A/cm 2、15 s)、
膜電極性能損失≦5 %、寿命≧2万時間(燃料電池バスの労働状況によって5000時間、性能衰退≦2.5 %)、
膜電極生産速度≧20枚/分。
②自動車用燃料電池空気供給機(空圧機)の研究開発
研究内容:自動車用燃料電池空圧機の革新技術の研究を行う
目標指標:
定額流量≧2.5 g/s、
圧縮比≧2.5、
出口圧力変動偏差≦3 %、
ノイズ≦80 %( A )、
振動最大RMS加速≦10g (振動等級はISO16750に適合すること)、
アイドリングは定額の回転速度に応じて時間≦3 s、
出口空気の油含有量≦0.03 mg/ Nm3、
制御器入力出力≦14 kW、
寿命≧5000 h、
起動停止回数≧10万回、
コンプレッサーシステム重量≦15キロ。
③自動車用燃料電池水素ガス再循環ポンプ
研究内容:自動車用燃料電池水素ガス再循環ポンプの革新技術の研究を行う
目標指標:
出口圧力≧0.2 bar@ 1400 L/min、
システム効率≧60%、
ノイズ 70 dB(A)、
寿命≧5000 h 、
作業メディア温度- 30~90℃、
作業メディアの湿度0%~120% RH、
内部結氷による回転阻害の保護機能を備える。
結氷が溶けた後に正常に運行することができる。
ノイズ 70 dB(A)、
寿命≧5000 h 、
作業メディア温度- 30~90℃、
作業メディアの湿度0%~120% RH、
内部結氷による回転阻害の保護機能を備える。
結氷が溶けた後に正常に運行することができる。
④70MPa車載高圧水素タンク技術
研究内容:我が国の70 MPaの炭素繊維水素タンクの水素密度が低い、タンク弁部分は輸入依存している問題に対し、高密度車載高圧水素貯蔵技術の研究を展開する。
目標指標:
炭素繊維水素タンクの公称作業圧力70 MPa、
質量水素貯蔵密度≧5.0 wt%(タンク口の弁を含む)、
圧力循環回数≧7500回、
安全性能はUN GTR13要求を満足すること。
製品の技術基準を確立すること。
質量水素貯蔵密度≧5.0 wt%(タンク口の弁を含む)、
圧力循環回数≧7500回、
安全性能はUN GTR13要求を満足すること。
製品の技術基準を確立すること。
⑤車載液体水素技術供給技術
研究内容:重量車輌向けに大容量液体水素貯蔵・供給システム、高密度液体水素貯蔵・供給核心技術の研究を展開する。
目標指標:
単台の車載システム水素供給能力≧30 kg、水素供給速度≧10 kg/hを提供する。
液体水素貯蔵・供給システムの質量貯蔵密度≧6 %wt、
液体水素貯蔵・供給システムの質量貯蔵密度≧6 %wt、
1回液体水素充填後の水素放出を起こさない時間≧5日(あるいは日蒸発率≦6 %)。
車載液体水素貯蔵・供給システムの安全技術の規範を制定する。
車載液体水素貯蔵・供給システムの安全技術の規範を制定する。
⑥燃料電池車向け水素の浄化技術
研究内容:我が国の工業(高)純水素中のH2Sなどの有害雑質が車用燃料電池の寿命を低下、固体粒子が水素充填機の信頼性を低減するなどの問題に対して、燃料電池車用水素の低コスト純化技術の研究を展開する。
目標指標:
水素中の総S量(H2S計)≦0.004 ppm、
ホルムアルデヒド≦0.01 ppm、
総ハロゲン(ハロイオン計で)≦0.05 ppm、
NH3 ≦0.1 ppm、
CO≦0.2 ppm、
ギ酸≦0.2 ppm、
顆粒物≦1.0 mg/kg、
純化コスト≦2.0元/ kg H2、
水素品質のオンライン監視を実現する。
⑦水素ステーションにおける高安全固形化水素の供給技術
研究内容:我が国の水素ステーションにおける高安全水素供給の需要に対して、我が国の優位な資源に基づく高安全な固体状態水素貯蔵・供給技術の研究を展開する
目標指標:
固形水素貯蔵容器の蓄積水素密度 ≧55 Kg/m3 @10 Mpa、
静的圧縮供給水素圧力 ≧70 MPa、
水素供給速度 ≧1 kg/min。
静的圧縮供給水素圧力 ≧70 MPa、
水素供給速度 ≧1 kg/min。
⑧70MPa水素ステーション用加圧・充填のコア設備
研究内容:70 MPa水素ステーション用加圧充填核心設備の技術研究を展開する
目標指標:
水素充填機:圧力70 MPa、
水素充填精度 ≦1.5 % 国家標準と国際主流標準に適応すること
部品の国産化率 ≧80 %、
水素ガスコンプレッサー:コンプレッサーの排気圧力≧87.5 MPa、
排気流量 ≧毎1時間200標準立方メートル(進気圧力15 MPa時)、
軸出力 ≦46.5 kW、
水素ガス圧縮機は連続無故障運転時間 ≧500 h
部品の国産化率≧90 %。
排気流量 ≧毎1時間200標準立方メートル(進気圧力15 MPa時)、
軸出力 ≦46.5 kW、
水素ガス圧縮機は連続無故障運転時間 ≧500 h
部品の国産化率≧90 %。
⑨水素充填コア設備の安全性能テスト技術・設備
研究内容:水素ステーションの重要部品の漏洩、断裂などの問題に対して、相応の安全性テスト技術の研究を展開する
目標指標:
(1)高圧水素環境損傷検出装置における密封材料:水素圧力140 MPa、温度0~200 ℃、水素環境内部の動態力施行装置距離≧20 mm ;
(2)水素環境服役性能検査装置:圧力120 MPa、テスト温度- 60~150 ℃、水素自動循環周波数≧3回/分、
(3)高圧水素ショック(食)/自燃検査装置:圧力120 MPa、テスト温度-60~150 ℃、最大水素流量≧60 m/s、
(4)高圧水素環境の典型的な密封材料性能データベース、関連検査評価方法及び技術基準を確立する。
(2)水素環境服役性能検査装置:圧力120 MPa、テスト温度- 60~150 ℃、水素自動循環周波数≧3回/分、
(3)高圧水素ショック(食)/自燃検査装置:圧力120 MPa、テスト温度-60~150 ℃、最大水素流量≧60 m/s、
(4)高圧水素環境の典型的な密封材料性能データベース、関連検査評価方法及び技術基準を確立する。
筆)2018年12月20日 INTEGRAL Co., Ltd
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