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■ブログ執筆日時:2018年12月25日 カテゴリ:水素燃料電池
【中国のFCレンジ・エクステンダー(電電ハイブリッド燃料電池車)って何?】
今年も早いものでもう年末ですね。私がいるここ中国上海では年末の雰囲気はまだ出ていなく(中国の元日は春節(旧正月)で2月上旬頃)、中国燃料電池産業は毎日のように新しいプロジェクトがニュースで報道されています。さて、最近中国同産業でよく耳にする電電ハイブリッド燃料電池車とは何かという質問を受けることがありまして、今回のブログでは中国の電電ハイブリッド、すなわちFCレンジ・エクステンダーとは何かについて分かり易く説明していきたいと思います。
FCVは大きく分けて三つのカテゴリに分類することができます。
すなわち、「標準FCV」、「プラグ・イン式FCEV」、「FCレンジ・エクステンダー」です。
標準FCVとは燃料電池を燃料源として車の駆動エネルギーを出力するタイプの燃料電池車のことを指し、トヨタMiraiやホンダClarityがこのタイプにあたり、日本などでは燃料電池車といえば一般的にはこのタイプの車のことを指します。
図1:燃料電池車には3種類ある。

図出典:Marius Walters, et al. Fuel cell range extender for battery electric vehicles. IEEE, 2015
このタイプのFCVは燃料電池単独でエンジンを駆動できるため、エンジンシステムに付属する駆動バッテリーは燃料電池に比べてかなり小さいのが特徴です。駆動バッテリーは減速時にエネルギーを回収するなど、ハイブリッド車の技術が活用されています。このハイブリッド車の技術は日本発祥の非常に画期的な技術であり、現在中国における燃料電池車でこの技術が活用された車輌はまだ登場していません。
通常車の駆動と燃料源としての役割をバッテリーのみで行うと電池のサイズが巨大になり、乗用車などの限られたスペースでは電池のサイズに制限があり、走行距離が短くなってしまうという課題があります。また、車の廃棄後にバッテリーはリサイクルしにくいなどの環境面での問題もあります。
こういった意味でも、MiraiやClarityの燃料電池とバッテリーのハイブリッド構造は限られたスペースにも収まるコンパクトなサイズと、ガソリン車と同等の走行距離を走ることができ、日本が誇る素晴らしい技術の結晶と言うことが出来ます。
図2:標準FCV 左:トヨタ Miral 中:ホンダ Clarity 左:現代汽車 NEXO

プラグ・イン式FCEVは基本的なシステム構造は標準FCVと類似しています。車の駆動出力は燃料電池がメインとなり行われます。しかし、バッテリーはエネルギー源としての役割を果たすため標準FCVに比べてやや大型であり、外部電源からプラグ・イン方式で電気の充電を行うことができることが特徴です。燃料電池は水素ステーションから水素を充填することができます。
今年11月13日にメルセデスベンツが世界に先駆けて欧州で発売を開始した「GLC F-CELL」がこのタイプに相当します。水素残量が不足しても、家庭内や充電ステーションで充電することができるので、水素ステーションが不足している環境にも対応できます。個人的には充電と水素充填を分けるのは面倒なのではないかとも思いますが、現状水素ステーションなどの水素供給インフラが十分に整備されるにはまだ当面時間がかかることが見込まれるため、それまでの変遷期ではこのようなタイプのFCVも需要があるのでしょう。
図3:メルセデスベンツ GLC F-CELL
出典:https://insideevs.com/mercedes-benz-glc-f-cell-phev/
さて、ここからが本題で中国FCレンジ・エクステンダーの説明に入ろうと思います。
レンジ・エクステンダー(Range Extender)燃料電池車とは上記二種のFCVと違い、バッテリーにより車のエンジンを駆動します。燃料電池単独でのエンジン駆動は行うことができません。よってバッテリーのサイズは標準FCVやプラグイン式FCEVに比べて大きいのが特徴です。一方、燃料電池は30〜50kWの小型サイズのものが一般的です。通常、プラグイン式のように外部充電は行わず、水素充填により燃料補給を行います(充電接続口はバックアップ電源用であり)。駆動はバッテリーをメインとして出力し、燃料電池を駆動補助及び燃料源とすることでEV車の弱点であった走行距離を大幅に増大することができます。通常中国のレンジエクステンダー燃料電池車は一回の水素充填で300〜500km程度走行することが可能です。
図4:FCレンジ・エクステンダー

図出典:Marius Walters, et al. Fuel cell range extender for battery electric vehicles. IEEE, 2015
現在中国で運行しているほぼ全ての燃料電池車がこのタイプに相当します。因みに中国自動車上市登録情報検索サイトで調査したところ、中国では2015年7月から2018年6月までに合計83車種の燃料電池車が新エネ車推薦車目録に登録されていますが、ほぼ全てがレンジ・エクステンダータイプの燃料電池バスか商用輸送車でした。
図5:左:Yutongバス(走行距離500km、FCスタック60kW) 右:JD.com物流車(走行距離150km(バッテリー)+150km(FC)、FCスタック30kW)


図:中国2018年に追加された新エネ車推薦車目録のうちFCVのデータ

出典:統計データ、図 当社調べ、編集
レンジエクステンダー燃料電池車の最大の長所は既存のEV車をそのままFCレンジエクステンダーのシステムを組み入れるだけで、走行距離を大幅に伸ばすことができる点です。さらに、中国の場合はバッテリーコストは欧米、日本に比べて安く、75kW 1.5トンEV輸送車に使われる駆動電池のコストは約10万元(約160万円)です。30kW 3.5t燃料電池輸送車の燃料電池コストが約40万元(約640万円)ですから、燃料電池が駆動バッテリーに比べて如何に高コストかお分かりになると思います。
図6:左:EV、標準FCV、FCレンジ・エクステンダーのコスト/距離比較 右:3つの分類の特徴

図出典:Salman, P. et al. Hydrogen-Powered Fuel Cell Range Extender Vehicle –Long Driving Range with Zero-Emissions. SAE Technical Paper, 2017-01-1185, 2017
ならば標準FCVでなくともレンジエクステンダーのFCVで十分なのではないかという説が中国にはあるのは事実です。私自身も輸送車やバスなどの大型の車両では車体自体が大きいため電池サイズの制約が比較的少なく、コストが低いレンジエクステンダーが適しているという見方は合理にかなっていると思います。しかし駆動バッテリーは燃料電池に比べて寿命が短い、商用車のように長距離・長時間走行が前提となる車では車の寿命期間にバッテリー交換する必要が出てくるなど不十分な点もあります。
また、乗用車のように小型で電池サイズに制約がある場合はやはりMirai、Clarityのような標準FCVが理想的と考えます。何れにせよ、短中期的には今後も中国ではレンジエクステンダータイプのFCVの開発が先行するでしょう。しかし燃料電池車の普及に伴い燃料電池コストが下がれば、乗用車向けの中国産の標準FCVも登場する日がくるかもしれません。
2018年12月25日 中西豪(INTEGRAL総経理)
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