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■執筆日時:2019年1月18日 カテゴリ:水素、風力発電、太陽光発電
 
【水素の未来を考える(第一部)】
 
今回のブログでは、中国における水素の未来について考えてみたいと思います。中国が現在国の戦略的振興産業と位置付ける水素・燃料電池産業、そしてここ10年以上世界のトップを走り続けている再エネの導入量、この二つの大局的な動きにはどのような関連性があるのでしょうか。また、中国が描く将来の再エネ・水素経済とはどのようなものなのでしょうか。これまでに行ってきた中国再エネ、水素産業の調査から得られた情報・観点からこれらの問題について考察して行きたいと思います。第一部では水素が注目されている背景、中国における水素製造、用途、並びに中国政府の狙いについて、第二部では水素の貯蔵・輸送について水素サプライチェーンのあり方について考えを書いていきたいと思います。
 
まずはビッグ・ピクチャーから。そもそも再エネ・水素経済推進の根本的な動機は、化石燃料への依存による二酸化炭素等の温室効果ガスの排出を抑制すること、またそれにより地球温暖化の抑制、および(中国では特に)大気汚染の緩和を図ることです。日本の場合はこの他の理由としてエネルギー安全保障の観点からも水素にかける期待は大きいですが、このことについては第二部で触れたいと思います。
 
下のグラフはIRENAが2018年に発表した、2010年〜2050年の世界のCO2排出量の予測です。緑色のピーク線はパリ条約における目標を達成するために世界が地球温暖化に向けた対策を実施した場合のCO2量、黄色は現行政策を維持した場合のCO2量になります。
 
分野別に見ると発電、交通、産業セクターから排出されるCO2は特に多く、発電所と交通の分野については再エネの化石燃料との代替により最も削減余地が大きいことを示しています。そして、削減可能なCO2排出量のうち、94%が再エネの導入により削減できるとしています(図1)。
 
図1、IRENA(2018年)2010年〜2050年の世界のCO2排出量の予測
(出典:IRENA(2018))
 
この統計は世界は2020年頃にCO2排出量のピークを迎え、再エネの世界のエネルギー消費量に占める割合は現在の18%から2050年には65%に達する必要があることを示しています(図2)。また、再エネ発電量のうち、風力発電と太陽光発電が大部分を占めています。
 
図2、IRENA(2018) 2015年〜2050年全消費電力における再エネの割合予測
(出典:IRENA(2018))
 
これほど莫大な量の再エネを一体どのようにして化石燃料と代替し、経済に安定的に供給していくのでしょうか。
 
これら再生可能エネルギーの発電は化石燃料による発電と異なり、発電量が天候条件や時間帯により大きく変動するという特徴があります。このためエネルギー需要地に近いところで発電された再エネは、当地で必要な分だけ安定的に発電するということができず、このままでは余剰電力を生じたり、電力不足が生じる恐れがあります。この問題を解決するには、再エネの発電で余ったエネルギーを貯蔵し、必要な時に供給できるようなエネルギー・キャリアが必要となります。このようなエネルギー・キャリアとして従来活用されているのが”電池”です。しかし、電池は体積あたりに貯蔵できるエネルギー量が化石燃料などに比べて遥かに小さいため、サイズが大型になり利便性に欠けます。また電池は時間の経過と共に自然放電するためエネルギーの長期的保存ができない、劣化が早く寿命が短い、リサイクルし難いなどの問題もあります。近年電池も進化し、鉛蓄電池から現在はリチウムイオン電池など蓄電容量、寿命が大幅に向上していますが、商業・工業施設など中・大型のエネルギー需要地でMW級の再エネ発電を行うようなケースではやはり十分とは言えません。
 
ここでやっと”水素”の登場です。水素は気体燃料の中では体積エネルギー密度が最も大きく(図3)、電池と異なり自然放電などのエネルギーロスがないため、大容量のエネルギーを長期貯蔵することができます。
 
図3、電池と水素のエネルギー体積密度
また、他の気体燃料と異なり、エネルギーを取り出す過程で一切炭素が排出されません。このような特徴が、将来莫大な量の再エネを”電力グリッド”と並び”水素グリッド”(図4)を通じてエネルギー需要地に供給するための理想的なエネルギー・キャリアとして水素が国際的に注目を集めている理由なのです。
 
図4、分散型再エネは”電力グリッド”と”水素グリッド”を通じ電力需要地に運ばれ、消費される
(出典:Toyota Global Site公開情報)
 
このような背景の中、中国は世界屈指の水素生産資源に恵まれ、同時に世界最大の再エネ発電設備導入量を持つ国(詳細はこちらのブログ記事参照)でもあります。さて、中国はどのように水素を見据え、どのように水素を活用していく考えなのでしょうか。前置きが長くなりましたが、ここからは中国の水素製造の実態について見ていきましょう。
 
中国標準化研究院と全国水素エネルギー標準化技術委員会が「中国水素エネルギー産業基礎施設発展ブルーブック」にて公表しているデータによれば、2016年の中国水素製造量は2100万トンに及びます(図5)。内訳は石炭ガス化が第一位の1302万トン、続いて天然ガスの水素転化が399万トン水電気分解が21万トン、その他が378万トンとなっています。IRENAによれば2016年世界の水素製造では天然ガス由来が最も多く(48%)、次に石油(30%)、石炭(18%)となっているので、石炭産出大国である中国らしい実態となっていることが分かります。なお各水素製造技術については別のブログで紹介していますのでご参照ください。
 
このように生産された水素は、化学工業(アンモニア、ポリマー、レジンなど)、石油精製(水素クラッキング、水素処理)、鉄鋼(還元、ブランケッティングなど)で主に消費されています。石炭ガス化や天然ガス転化により生成された水素ガスはそのままでは純度が低く、一酸化炭素、二酸化炭素、硫黄成分などの不純物が混合しているため、PSAと呼ばれる(触媒を使って混合物から水素だけを取り出し純度を上げる方法)処理が必要になります。しかし、燃料電池車や定置型燃料電池に使われる燃料電池(特にPEMFC)は一酸化炭素、硫黄などに極めて敏感であり、微量で容易に腐食劣化を起こしてしまうためこれらの方法で製造された水素は理想的ではありません。また、水素ガスの製造段階で多量の炭素が発生してしまうことも懸念事項です。この過程で発生する二酸化炭素はCCSという技術により混合ガス中から回収され、圧縮し液状にした後に地中深くの岩盤層に貯留されます。
 
現在中国では、燃料電池用には通常工業副産ガス(硫黄が含まれることのない工場のもの)をPSA法による高純度処理した水素が使用される傾向があります。また、中国は世界最大の棄風、棄光、棄水(詳細はこちら)を抱える国でもあり、これらの再エネ余剰電力を活用した水電解水素が将来の燃料電池の主要な水素源となることが期待されています。
 
図5、2016年中国の分野別水素生産量(万トン)
(出典:中国水素エネルギー産業基礎施設発展ブルーブック(2018年)より弊社図作成)
 
このように、製造された水素は需要側の純度要求により使い分けられ、将来的には異なる水素調達源毎に消費用途が棲み分けされていくことが予想されています(図6)。
 
図6、異なる水素調達源製造方法毎に消費用途が異なる
(出典:中国水素エネルギー産業基礎施設発展ブルーブック(2018年))
 
また、中国水素エネルギー産業基礎施設発展ブルーブックによれば、2017年における中国の石炭ガス化による潜在的な製造能力は24.38億トン/年天然ガス水素転化は5.01億トン/年工業副産ガス由来の水素が67.3万トン/年(うちコークス炉56.64万トン/年、プロパン脱水素2.25万トン/年、苛性ソーダ由来副産ガス8.41万トン/年)と公表されています。
 
また、棄水、棄風、棄光再エネ由来の水電解水素については、現在の棄水、棄風、棄光量から算出できる理論的な製造量は179.82万トン/年にまで登ると公表(図7)しています。もしこの20%にあたる36万トンが水素燃料電池車に消費されると仮定すると、年間で約15万台もの燃料電池商用車の需要をカバーすることができことになります(1台あたり平均水素6.5Kg/日消費すると仮定)。中国政府は2030年までに水素燃料電池車を100万台普及させることを目標にしていますが、今後も再エネ発電設備の導入はまだまだ増加していくことを考慮すると、これら再エネ由来の水素だけでもかなりの割合の燃料電池車に対して水素を供給することができると考えられます。
 
このように恵まれた再エネ資源を持つという観点からも、中国政府が非常に水素に注目している理由が分かります。2019年は河北省張北市沽源において、世界最大となる10MW風力発電利用電解水素製造実証プロジェクトがスタートする予定となっていますが、弊社は2018年に実証試験場を視察しており、設備などの詳細は別の調査レポートで紹介しています。同プロジェクトでは年間約1500トンの水素が生産され、張家口冬季五輪に向けて開発が進んでいる張家口再生可能エネルギーモデル地区張家口市内の水素ステーションに供給される予定となっています。
 
図7、2017年中国の水素製造潜在能力(石炭、天然ガス由来除く)
(出典:中国水素エネルギー産業基礎施設発展ブルーブック(2018年)より、図弊社作成)
 
 
 
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