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■執筆日時:2019年2月3日 カテゴリ:水素燃料電池
中国企業が日本との提携に期待しているもの(FCV編 )】 
 
中国企業は具体的にどのような領域で日本企業との提携を期待しているのか?というテーマについて、弊社が直接中国企業オーナー達との会話で聞いた話や、弊社自身の分析を通じて今後テーマ別にして連載して参ります。
 
今回はFCVの燃料電池システムについて。
 
この分野に関して中国企業が日本の技術に期待しているのは、家庭用乗用車から中型以下の燃料電池商用車に関する燃料電池の部材と製造技術です。日本のFCVの強みは単純に出力が高いからではなく、サイズを最小化・軽量化しながらも高い耐久性・信頼性を持ち、高性能が出せる技術の結晶にあります。
 
例えば日本のMiraiやClarityは双極板に金属板を使用しています。一方で中国はカーボン(グラファイト)又は複合材(ポリマー・グラファイト)を用いることが主流です。金属板の方がカーボンよりも高い電導性を持つため高出力(二〜三倍)が出せる一方、酸などに腐食されやすく耐久性ではカーボンに劣ります。中国製はほぼバラードの技術が中心になっており、輸送車やバスなど大型車両向けに設計されているので体積出力よりも寿命や安定性が重要になるのでカーボン製を採用しています。大型トラックやバスでは空間的制約が少ないため、燃料電池が多少大きくても駆動電池と合わせて総合出力でスペックが出せれば良いという考えです(中国のFCVレンジエクステンダーについての記事もご参照ください)。水素循環ポンプもMiraiに採用されているものは加湿機能を併せ持つため、サイズが大きい加湿器が不要でありシステムの小型化が実現されています。また、金属双極板も対腐食性技術の発達に伴い、近年耐久性が大幅に向上しています。
 
つまり、日本のFCV技術はそもそも家庭用乗用車向けに開発されてきた経緯があり、これらの日本が誇る技術の真価が発揮されるのは大型車両よりも中型以下の車両なのです。
 
勿論、日本製のMEAやガス拡散層などそれ自体が性能も耐久性も世界水準ですので、大型車両への応用にも適しているものもあります。この部分も中国企業側の関心は高いですが、燃料電池の中核となる技術であるが故に敏感な領域であり、技術提携の実現が難しい領域と考えられます。
 
水素ステーションが目覚ましく急増する中国(別記事参照)では中長期的には乗用車FCVも今後の市場性が見込めるため、一部の長期的視点を持っている中国企業は今から日本の技術を取り入れたいと思惑しています。乗用車用の燃料電池システムの技術は中大型車よりも技術的に遥かに難易度が高く、逆に言えば技術力で大きな差が出せるからです。
 
下の図はHydrogen Councilが発表している燃料電池、EVとバイオ燃料の交通セクターにおける応用分野の棲み分けを表したものですが、燃料電池は中型〜大型乗用車、タクシー、配送用車両、バス、トラック、電車、飛行機の分野での応用が適していることを示しています(中心青緑部)。個人的な見解としてはこの表は、水素ステーションの増加、燃料電池の高性能化、コストが下がるほど燃料電池のセグメントは左下、右上に拡大していき、図中の車両は経時と共に徐々に右に動いていくと考えています。よって中型の乗用車、特にタクシー配送用車両など一日の走行距離が大きく、かつエネルギーの充填頻度が高い車両は将来的にFCVの応用が期待できると考えます。但し、EV用の電池も高性能化が進んでいますので(水色セグメントが右上に拡大)将来的にはこの領域はEVとFCVがそれぞれ拮抗(共存)する領域になると考えています(EVとFCVの共存に関する記事はこちら)。
 
図1、燃料電池の交通セクターへの応用分野
(出典:Hydrogen Council (2017)より)
 
説明が長くなりましたが、一部の中国企業(上海汽車など)は既にこの領域に目を付けており、将来的な市場性を見込みFCV乗用車の開発に力を入れています。
 
図2、上海汽車のFCV乗用車
(出典:上海汽車提供資料より)
 
ここで説明している中国企業側の需要は全てのケースに当てはまるものではないですが、今後トレンドになるであろう一つの観点として覚えておいていただけたらと思います。
 
参考までに中国FCV関連企業が日本との提携に関心のある領域について、弊社のこれまでの調査・インタビューなどを通じて得られた情報を分析しまとめたイメージ図も掲載しておきます(*あくまで弊社の調査から得られた情報に基づいてまとめたものであり、一般性を保証するものではありません)。
 
図3、中国FCV関連企業が日本との提携に関心が高いと思われる領域
 
以上、今回はFCVに関する記事でした。
弊社は現在中国企業側の生の提携要望を記載したビジネスマッチングシステムも1月末からスタートしており、今後も中国側の日本への期待をテーマ別に分けてブログにて連載していきたいと思います。
 
春節後はビジネスマッチングの投稿案件も増やしていきますので、どうぞご期待ください。
 
 
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