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■日時:2019年4月26日 カテゴリ:水素燃料電池
 
【中国燃料電池用の水素供給の今後の動向についての考察】
 
今回は水素・燃料電池普及のための鍵となる中国の水素供給の今後の動向について筆者自身の考察をご紹介したいと思います。
 
中国の水素発生源については、弊社の別の記事でも紹介していますので合わせてご参照ください。中国標準化研究院と全国水素エネルギー標準化技術委員会が「中国水素エネルギー産業基礎施設発展ブルーブック」にて公表しているデータによれば、2016年の中国水素製造量は2100万トンに及びます。
 
中国は豊富な水素資源を保つためFCVの普及で大きな優位性があるという説が巷のメディアではよく言われていることですが、筆者はこの意見には部分的に正しく、部分的に間違っていると考えています。何故ならばこの2100万トンの水素はその殆どがFCVとは異なるアプリケーションを目的に消費されている水素製造量のことであり、FCV用にはこれとは別のリソースから製造する必要があるからです。
 
このことについては前回記事でも述べていますので割愛します。
 
 
さて本題ですが、現在中国FCVに使われる(水素ステーションに供給される)水素の製造源として、大きく分けて①工業副産水素(By Product)②再生可能エネルギーを利用した水電解水素(Power to Hydrogen)③石炭、天然ガスからの改質水素(Coal/Gas to Hydrogen)の三つに分けられます。
 
まず、工業副産水素についてですが、以下に副産ガスが多く産出されるエリアを図にまとめてみました(図1)。
 
図1:2017年の中国工業副産水素の生産分布
図を見ればお分かりの通り、現在の中国の副産水素ガスは中国沿岸部に集中している傾向があります。副産水素ガスは通常、産出プラントから近くの水素ステーションに20MPa高圧水素ガストレーラーで輸送されます。高圧水素ガストレーラーで一回で輸送できる水素量は200-250Kg程度と言われていますので、長距離輸送では高コストとなることから現在は市内輸送にのみ利用されています。仮に半径100Km圏内での輸送をカバーできるとして、輸送可能エリアを示したものが図1左の円で囲った部分になりますが、沿岸部以外はカバーできるエリアは限定的であることがお分り頂けると思います。
 
 
このことから、筆者は今後短中期では(向こう5〜10年は)沿岸区域でのFCV水素供給は安価(製造コスト:8-14元/Kg 出典:Success Hydrogen社公開データ)で比較的高い純度の水素がとれる工業副産水素が主力供給源になると見ております。
 
但し、工業副産水素は全体の量では大きいですが、一つ一つのプラント単位で産出される量はそれほど大きくはなくスケール化が難しいということ、安定供給が難しいこと、純度に関して言えば苛性ソーダ由来の副産水素ガスを除いて99.999%レベルでの高純度水素を精製するのは難しい(できても高コスト)こと、などから今後中期長期でより安価で安定供給が可能な水素供給源に置き換われる可能性もあると考えています。
 
 
続いて、再エネの発電機会損失分の電力(棄電)を活用した水電解水素の製造ポテンシャルについて述べていきます。
 
図2は中国の主要な棄電発生エリアを図でまとめたものです。
 
図2:2017年の棄電による潜在的水素生産能力分布
 
 
図を見てお分かり頂ける通り、棄電を構成する棄風、棄光は主に中国北東部〜北部〜北西部に集中しており、棄水は四川省と雲南省に集中している傾向があります。
 
よって、この莫大な量の棄電由来の水素をどうやって数千km離れた都市まで運ぶかが課題となります。また、そのような長距離の水素輸送に経済性を持たせる輸送手段の確立が求められています。このような輸送手段として現在中国では低温液化水素による専用トレーラーによる水素輸送、液体有機水素キャリア(LOHC)を活用した輸送、アンモニア水を活用した輸送などが検討されていることを別記事で紹介しています。
 
筆者は因みに、この棄電由来の水素製造は今後最も経済合理性を持った水素製造の手段になるポテンシャルを秘めていると考えています。
 
一番大きな理由としては製造コストの安さがあります。
 
一般に水電解による水素製造は高コストであると言われていますが、一元的にそう解釈するのは誤りです。水電解水素の製造コストのうち、電力コストが最も高コスト要因になっていることは周知の事実ですが、逆に言えば電力コスト次第では製造コストを大幅に低減できる可能性があります。
 
一般に中国の工業用電力のコストは0.6元(約10円)/kWhですが、深夜などのオフピークアワーでは電力は最低0.3元(約5円)/kWhになります。また、Success Hydrogen社の公開データよれば、上述の棄電利用により発電された電力は最低0.1元(約1.6円)/kWhで利用可能と言われています。
 
また、同社の経済性比較のデータによれば、このように安い電力資源にアクセスでき、300/Kgの製造能力のある PEM型大規模水電解水素を行うことにより水素製造コストは10元/Kgにまで下がり、上述の工業副産水素の水素製造コストよりも安く、純度の高い水素が調達できることになります
 
まだ補助金政策など政府支援政策が明確になっていない現在でははっきりした普及のタイミングは分からないところはありますが、筆者の個人的な見解としては棄電発生源に近い都市(四川省、雲南省、河北省、山西省、遼寧省、甘粛省など)では比較的早い段階から水電解による水素供給が普及する可能性があると考えています。
 
 
最後にCoal/Gas to Hydrogenについて述べたいと思います。
 
図3:2016年の中国の石炭・天然ガス由来の水素製造能力
 
図3の通り、Coal/Gas to Hydrogenでは、内モンゴルを中心として北部から北西部が最もポテンシャルが大きく、最大の水素製造ポテンシャルを秘めています。
 
しかし、上述の棄電由来の水素製造と同じく、ここで製造した水素をどうやって数千km離れた水素消費都市部まで輸送するかが課題となります。また、各地方政府は石炭、天然ガス由来の水素は製造過程で二酸化炭素が排出されるため持続可能性に乏しく、なるべく使用を避けたいといった考えを持っています
 
このことから筆者は、今後Coal/Gas to Hydrogenは上述の工業副産水素、棄電由来の水素がアクセスできない限られたエリアで、生産量も限定的に普及していくと考えています。
 
2019年4月26日 INTEGRAL Co., Ltd
 
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