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カテゴリ:水素燃料電池、新エネ車 日時:2019年7月29日
 
【海外FCプレーヤー達の中国水素燃料市場参入戦略】
中国水素燃料市場の潜在的需要の大きさに、海外企業も、もちろん注目しており、様々な企業が、中国進出を試みています。ハイテク事業にあたる水素燃料電池事業における海外企業の中国市場への進出には、参入コストと参入スピードに加えて、製造コストと技術・ノウハウの流出防止のバランスを見ながら考え、決定していく必要があります。現状、主要な燃料電池関連プレーヤーの中国市場への参入の実例を見ていくと、大きく分けると以下の4つの形態があります。
 
1:輸出
(例)Power Cellは、中国自動車メーカーの武漢泰歌水素エネルギー自動車有限会社(Tiger)に2017年より燃料電池スタックを輸出しています。
海外で製造した商品をサプライヤーとして、中国市場へ商品を提供していくという最もリスクの低い形です。ただし、これは、輸出コストや関税、昨今の米中摩擦や日中間の政治リスクを伴うことになりますし、多くの水素関連装置メーカーは、中国よりも本国の労働コストが高いため、中国現地で生産するよりもコストが掛かってしまう可能性があります。そしてまた、中国市場への製品のローカリゼーションが中々進まず、大きな市場シェアをすぐに獲得するのは難しいと考えられます。
 
2:現地パートナー企業と協働
(例)Hydrogenicsは、中国国内の中大型車(バス、トラック等)におけるシステムインテグレーターとのプラットフォーム構築を重視し、複数のインテグレーターと協働しHydrogenicsの燃料電池システムを市場に導入していくために、認定インテグレータープログラム(CIP)を設立しています。
(例)Ballard(下記参照)
中国市場を知り、既に販売網を持っている現地パートナー企業とOEM契約や戦略的提携を結ぶことで、燃料電池システムなどの製品のローカリゼーションを早く進めることにより、輸出よりも迅速に市場シェアを獲得できる可能性があります。また燃料電池スタック製造技術などの技術移転費や、ローヤルティなどの副次的な収益を得ることも期待できます。ただし、同時に、自社のもつ最先端技術がパートナー企業へ流出するリスクがあり、自身の持つ技術・ノウハウなどの知的財産をしっかりと管理していくことが重要になってきます。またパートナー選びにおける見極めも重要になります。
 
3:ジョイントベンチャーを現地パートナー企業と設立
(例)Ceres Powerは、2018年に中国最大手の自動車部品メーカー Weichaiと中国市場に向けた長期戦略的資本提携を発表しています。その中で、燃料電池製造におけるジョイントベンチャーの設立を発表しています。
(例)Ballard(下記参照)
パートナー企業とより密接に資本提携などで結びつき、中国国内にジョイントベンチャー企業を設立することで、現地生産を可能にし、より早くより大きく市場シェアの獲得を目指すための手法になります。輸送費や関税が掛からないうえ、現地企業として政府より、補助金を獲得する機会もあり、比較的安価な中国の労働力を使用することもでき、海外生産よりも製造コストを抑えることが出来ます。しかし、技術流出や、ジョイントベンチャー企業のコントロールをめぐるリスクは大きく、適切なパートナー選び、長期にわたる明確な事業戦略の構築が必須となります。
 
4:現地子会社を中国国内に設立する。
(例)該当するプレーヤー無し。
技術流出のリスクを避け、現地製造の恩恵を受けることが出来るのですが、資本投資のリスクが大きく、現地のノウハウやネットワークも一から構築して行かなければなりません。欧米諸国とビジネス文化や法制度・規制が大きく異なる中国において、中国での参入経験がない海外企業が単独で燃料電池・水素関連装置の製造を、行うことは、失敗のリスクが大きいと考えられます。
 
以上の4つの選択肢を考慮すると、今後成長が見込まれる水素事業・燃料電池市場へ参入しシェアを獲得する為には、現地パートナー企業を見つけ、ライセンス契約やジョイントベンチャーを設立することが、合理的であると考えられます。
ここで、中国燃料電池市場参入の例として、二つの海外の燃料電池企業を上げようと思います。
 
Ballard…カナダの燃料電池メーカーで、アメリカ、ヨーロッパなどに加え2015年より、中国に進出してる。
 
Hydrogenics…水素ステーション建造も手掛けるカナダの燃料電池メーカー、2015年より中国に積極進出している。
 
カナダの燃料電池企業の2社は、中国の商用車向けの燃料電池市場を主なターゲットとして、同時期に市場に積極的に参入し始めました。Ballardは、現在、大型自動車向けにディーゼルエンジンを生産する中国最大手の自動車部品メーカー Weichaiと戦略的資本提携を2018年に結びました。その提携の中で、山東省にジョイントベンチャーを設立し、次世代の燃料電池スタックの製造を中国内で開始することを発表しました。Weichaiのもつ中国内のエコシステムを利用して、市場シェアを拡大しようとしていることが考えられます。また以前よりBroad Oceanとも戦略的資本提携を結んでおり、Ballardの燃料電池システムを、Broad Oceanの子会社であるShanghai Edriveが中国内でOEM生産しています。Ballardの決算報告書によると2018年において350万ドルの売上をこのプログラムより、技術移転に関する収益として得ているとのことです。それに加えて、BallardはSinosynergyとのジョイントベンチャーのBallard synergyに燃料電池スタックのOEM生産を委託し、同じく協業先の上海重塑Refireなどを通じてシステム化を行い、主要な自動車メーカーに販売することで市場への迅速な参入に成功しています(図1)。現在市場にあるFCVの7割はBallard Synergyのスタックが採用されていると言われています。
 
図1、Ballardを取り巻く中国内のエコシステム
 
一方でHydrogenicsは、北京の燃料電池メーカーの北京億華通(SinoHytec)と戦略提携を結んでいます。多くの自動車製造メーカーを顧客として持つSinoHytecと組むことで、中国の中大型車市場に特化した新しい燃料電池システムを、共同で、開発し提供することを目的としていると考えられます。また、2017年より、福建省の燃料電池用コンプレッサーメーカーの福建雪人(Snowman)と戦略的資本提携を結んでいて、自動者製造会社大手の吉利自動車(Geely)関連の基金の出資の元、Hydrogenicsは株式17.6%をSnowmanに売却しています。Snowmanとの資本提携を通じて、またSnowmanとGeelyの関係性を取り込み、Geelyを自身のエコシステムに組み込む狙いがあると思われます。
 (両社の中国での事業活動・戦略の詳細についは、2019年海外プレーヤーの中国水素燃料電池戦略で述べています。)
 
以上のように、両社とも、OEM含む現地パートナーと提携を結び、現地で燃料電池システムを生産する体制を築いていますが、両社の中国市場への参入の仕方には大きな違いがあります。一言で言えば、BallardはHydrogenicsよりもリスクを大きく取っています。Ballardは燃料電池のコアとなるスタックの製造をOEMまたはジョイントベンチャーを通して、中国現地で製造している。一方で、Hydrogenicsはスタックの製造は海外の自社工場で行っています。
 
一見すると、核となる燃料電池スタックの製造技術の流出を嫌う保守的なHydrogenicsに対して、迅速な市場参入を重視し、MEAなどの部品供給、スタックの製造技術移転費、並びにOEM契約における製品販売ローヤルティで収益を上げ、その収益を研究開発に回す好循環を戦略的に作り出そうとするBallardの2社の性格の違いが窺えます。
 
また、積極的な参入布石を敷く一方で、Ballardは、スタックの核となるMEAの製造に関しては、カナダである自社工場で行っており、重要な技術の流出を防ぐリスクヘッジも同時に行なっていると見ることができます。
 
こうみると、MEAを海外で製造し、スタックを中国で製造することが、中国市場参入における燃料電池製造において、バランスよく知的財産を管理する上での有効な戦略と見えるのですが、現在中国では、SinoHyKeyなどのMEAを製造する中国国内現地企業が相次いで登場し始めてきています。【中国MEA国産化の動きが加速、新規参入相次ぐ 将来競争激化か】
 
そうなると、MEAも中国内で製造する国産の燃料電池スタックが、コスト面では大きなアドバンテージを持つことになり、海外からの先進技術を保有する技術者を取り込むことで急速に技術レベルを向上している国内プレーヤーの現在のトレンドを鑑みると、今後MEAを海外で作るという戦略が通用しなくなる可能性もあります。さらに中国政府の補助金や関税などがMEAなどの革新部材を現地で生産する企業を優遇する方向に向かうリスクも考えられる(補助金の詳細については、2019年中国水素・燃料電池産業の最新動向調査に詳細を述べています。)ので、技術流出のリスクを最小限に抑える何かしかの方策を講じて、いずれは中国現地での生産に踏み切る戦略を検討していく必要が出てくると考えられます。
 
今後、Ballard含め、その他の海外企業が、どのような中国現地パートナーを選び、革新部材含む完全な現地生産へ向かうのか、どのようにして、自社の先端技術を守りながら、中国市場参入を加速させていくのか、そのような視点で現地の市場・政策の動向を見極めながら海外プレーヤを注視していくことが、中国水素事業・燃料電池市場参入への戦略を練る上で重要になってくるでしょう。
 
最後に、簡単に、現在中国市場に参入してきている、その他の企業を紹介しておきます。
Ceres Power…イギリスの燃料電池技術・エンジニアリング会社。主にはSOFC(固体酸化物形燃料電池)燃料電池を製造しています。中国最大手の自動車部品メーカー Weichaiと中国市場に向けた長期戦略的提携を発表しています。
 
Nedstack…オランダのPEM燃料電池メーカー。主にシステムインテグレーター向けにPEM燃料電池スタックを設計、製造しており、PEMスタックをモバイルから大規定置型まで幅広い種類に実装しています。燃料電池スタックの提供者として、2018年に、現地企業と協力して、江蘇省張家港市に燃料電池システムの組立工場を設立しています。
 
Proton Onsite…20年以上の研究開発に基づいた高度なPEM電解技術を持ったアメリカの世界最大の水素製造装置メーカー。2017年にノルウェーNel ASAに買収され子会社化されています。中国市場に関しては、2016年に、広東国鴻水素エネルギー科技有限公司(SinoSynergy)と仏山市と雲浮市に、FCVバスを配備する為に、メガワット規模の大型PEM電解槽を独占供給する契約を結んでいます。
 
PLUG POWER…アメリカの燃料電池メーカー。フォークリフト、予備電源などに向けて燃料電池を製造するほか、水素ステーションの開発などをおこなっています。また商業用車においても、燃料電池システムを提供しています。フォークリフト用のMEAの大半は武漢理工大学系列の武漢理工新能源(最近、武漢理工氢電科技という新会社も設立)が供給している。
 
PowerCell…スウェーデンの高出力密度を有するPEM燃料電池スタック・システムのメーカー。定置型から自動車、船舶用など、幅広い用途に向けて、スタック・システムを製造している。2017年より、武漢泰歌水素エネルギー自動車有限会社(Tiger)から燃料電池スタックの発注を受けています。
 
McPhy…水素の固体貯蔵の技術開発を発端にフランスで2008年に設立された。水素における製造・貯蔵・配給における分野で幅広く活動し、水素装置の設計・製造・統合を手掛けています。アルカリ電解槽を中国の発電所に提供する形で、中国市場に参入しています。
*Ballard、Hydrogenicsを中心に各社の中国における活動内容詳細については、弊社レポート2019年海外プレーヤーの中国水素燃料電池戦略をご覧ください。
 
 
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