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■日時:2019年11月5日 カテゴリ:水素燃料電池
【CHFE2019(中国国際水素エネルギー・燃料電池技術製品展覧会)に訪問しました。】
10月26日(土)から28日(月)まで、広東省仏山市で開催された第3回中国(仏山)国際水素エネルギー・燃料電池技術製品展覧会(The 3rd International Hydrogen Energy & Fuel Cell Technology and Product Expo Foshan-China、略称:CHFE)に、訪問してきました。
このフォーラムは、UNDPと中国汽車工業協会(CAAM)の共同開催のフォーラムであり、UNDPと中国汽車工程学会(SEA China)主催の9月に如皋(ルーガオ)で開催されたFCVCと並ぶ、中国国内の代表的な水素エネルギー産業における2大フォーラムの一つです。例年国内外から、多くの主要プレーヤーのCEOや政府関連の重要人物が講演されています。

写真:講演会場
今年は、例年よりも規模が大きく、建物2館にまたがり展開されていました。200以上の企業が参加し、212の展示ブースから構成され、総面積15,000㎡におよぶ、大規模な展示となり、土日を含んだ開催にも関わらず、3日間で5,000人の来場者が訪れたとのことです。


写真(左):西館入口 写真(右):東館の会場入口付近
会場入口は、西館からと東館からに分かれ、2階も含めて、2か所の燃料電池パビリオンと、2ヵ所の関連装置のパビリオンと、1ヵ所の南海地区と外国企業で構成されるパビリオンの5つの屋内展示とバスなどを展示した屋外展示からなる構成となっていました。その中でも、私の印象に残ったものを紹介していこうと思います。
(また先月行われたFCVC2019の様子はこちらのブログ [FCVC 2019(国際水素燃料電池自動車会議) に訪問しました] にて紹介させていただいております。)
1:Refire



写真:Refireの展示ブース
多くのメーカーが、シンプルに燃料電池システムを展示する中で、燃料電池システムメーカーのRefireは、展示用に装飾した乗用車をブース内に展示することで、他社の展示ブースとの差別化に成功し、訪問者の目を引いていました。日本人の訪問者の方の中でも、Refireを見に来たという方もいらっしゃったので、中国国外からの注目度も高いかと思います。同時期開催の東京モーターショーにて、Ballard社のスタックを使ったRefire製の燃料電池システムを搭載した三菱ふそうの燃料電池小型トラック “Vision F-Cell”が展示され、こちらも話題を呼んでおり、Refireのシステムメーカーとしての地位が、向上していくことが予期されます。(Refireほか中国燃料電池システムメーカー等については、こちらのレポート 【2019年中国水素・燃料電池産業の最新動向】にて詳しく述べています。)
2.SinoHykey


写真(左):SinoHykeyの展示ブース 写真(右):SinoHykeyのMEA
通常、小さなブースでは、人目を引きにくいので素通りしがちなのですが、国内MEAメーカーのSinoHykeyは注目を集めていました。カナダのBallardの元CTOが立ち上げた会社であり、今後、海外MEAメーカーに対抗する中国MEAメーカーの一つと考えられます。それを聞きつけた人たちが、ブースに一目見たいと集まったのかもしれません。(Ballardに関する中国市場戦略・考察詳細については、こちらのブログ【海外FCプレーヤー達の中国水素燃料市場参入戦略】とレポート【2019年海外プレーヤーの中国水素燃料電池戦略】をご参照ください。)
3.Air Liquide


写真(左):Air Liquideのブース 写真(右):Air Liquide Houpuのディスペンサー
こちらは、Air LiquideとAir LiquideとHoupuの合弁会社Air Liquide Houpu Hydrogen Equipment(出資比率:Air Liquide51%, Houpu49%)のブース。大きいブースということで、訪問者も比較的多く、存在感がありました。ジョイントベンチャーのポイントは、何なのかと、ブースのスタッフの方に伺うと、「Air Liquideとして製品を輸入するよりも、中国国内で、ディスペンサーなどの装置を製造した方が、関税や輸送費などコスト面で安くつくので、市場参入における優位性がある。」と言われるように、短期的に考えると、Air Liquideは、この合弁会社を通して、水素ステーション建設運営事業に参入していこうと考えているのでしょう。先日、この合弁会社は浙江省にて、Sinopecのガソリンスタンドをもとに統合型水素ステーションの建設を完了させたと発表しています。一方で、長期的に見ると、石炭開発会社のYankuang Group(兖矿集团)や上海での物流会社STNEと協定を結んでいることから、合弁会社を軸に、中国水素エネルギー市場のバリューチェーンの川上、川下の両サイドから参入を積極化させてきており、将来的には、Air Liquideがもつ液体水素貯蔵・輸送技術を用いて、水素輸送事業で中国に参入していこうとしているのでは無いかと考えられます。Air Liquideの中国の動きについては、今後も注目していきたいと思います。(Air Liquideについては、こちらのレポート 【2019年海外プレーヤーの中国水素サプライチェーン戦略】をご参照ください。)
4.Hyfun



写真(左):Hyfunのブース 写真(中央・右):Hyfunのディスペンサー
では国内の水素ステーション建設におけるAir LiquideのライバルとなるHyfunはどう考えているのかが気になり、Air Liquideブースの斜め向かいに位置するHyfunブースを訪れ、スタッフの方に話を聞いてみると、「この水素ステーション・関連装置の領域に新規プレーヤーが参入してくるのは、これから成長していくであろう市場においては、当然の事なので、気にしていないよ。」と強気なコメントを聞かせていただきました。Hyfunは国内における水素ステーションの建設・運営の実績に自信を持っており、現在の建設計画も下記写真が示すように多いので、スタッフのコメントは、その経験と自信に裏付けられたものなのだろうと思われます。

写真:Hyfunの水素ステーションの建設実績と計画
また、上海交通大学の科学センターのテクノロジープラットフォームをベースに、合弁会社H2Store(氢储上海能源科技有限公司)(出資比率:Hyfun20%、国氢控股有限公司40%、上海倍玺能源科技中心40%)を設立し、水素輸送事業にも乗り出しており、ブースでは、そちらの広報も積極的に行われていました。

写真:H2Storeの水素固体貯蔵・輸送における説明用パネル
水素化マグネシウム(MgH2)を用いた、固体水素貯蔵技術をもとに水素貯蔵・輸送ビジネスをスタートし、水素エネルギーの輸送ビジネスに参入していこうと考えているようです。隣接ブースのAir LiquideやGUOFUHEE(江苏国富氢能技术装备有限公司、*旧名:张家港富瑞氢能装备有限公司(Furui))は、将来、中国で水素の液体輸送ビジネスを展開していくのではないかと考えられますので、この展示ブース界隈で、水素輸送ビジネスにおける、静かなる戦いが、既に始まっているようでした。(中国の水素サプライチェーンに関する内容は、こちらのレポート 【2019年中国水素サプライチェーンの最新動向】にて詳細を述べております。またこちらの【2019年海外プレーヤーの中国水素サプライチェーン戦略】もご参照ください。)
5.中国市場参入を目指す海外プレーヤー
海外企業も多く出店しており、ひとつのパビリオンを形成していました。一つの判断基準としてなのですが、出展ブースの大きさや、配置スタッフの人数などで、中国市場へ参入に対する積極度を測ることができるのではないかと考えられます。その中でも印象に残った3社を取り上げてみます。

写真:東レの展示ブース
日本企業も数社展示に参加していましたが、もっとも大きなブースを構えていたのが東レでした。大きいブースを構え、受付にコンパニオンも配置していることから、同社の中国市場に対する本気度が窺えます。今後、どのような中国企業に、同社の製品が、中国企業へ提供していくのか、注目して行きたいところです。


写真(左):faurenciaの展示ブース 写真(右):faurenciaのスタックとタンク
一方で、フランス企業のfaureciaも中国FCV市場への新規参入の意思を強く見せており、車載タンク(35MPa)やスタックを積極的に売り込んでいました。スタッフの方も「まだ中国FCV市場での実績は無いが、これから、この市場に積極的に参入していきたい。」と仰っていました。今年6月に、フランスにおける水素貯蔵タンク開発のためのR&Dセンターの設立を発表している同社のタンクは、業界基準より、軽いことが強みであり、また75MPaの車載タンクも擁しており、今後その車載水素貯蔵タンクにおける技術的優位性と、1992年より参入している排気コントロール製品やシート製品等の車用部品の領域での中国内でのネットワークを軸に、中国FCV市場に参入していくのではないかと考えられます。


写真(左): 斗山(Doosan)のブース 写真(右): 斗山(Doosan)の燃料電池搭載ドローン
韓国企業の斗山(Doosan)もブースを大きく構え、積極的な姿勢がうかがえます。如皋(ルーガオ)FCVC2019で中材科技(Sinoma)と共同でドローンを出展していたように、今回も、燃料電池搭載のドローンの展示を行い、訪問者の目を引いていました。今年においては、全国各地の自治体で、水素エネルギー発展政策が相次いで発表されているのですが、その中で、FC商用車だけでなく、ドローンなどの無人機、定置型燃料電池、FC船舶、FC路面電車など、アプリケーションの多様化を推進していくという記載が目立っており、上海金山地区や広東省でも、FC無人機の実証プロジェクトが計画中になっています。そして、中国の民間用ドローン市場は、成長を続けており、その市場規模は、2018年には134億元そして2019年には200憶元を超えると見積もられています。(*中商情报网、2019年6月24日、2019世界无人机大会召开 一文看懂无人机市场现状及发展趋势(附图表)参照。) その中国の政策的背景と市場規模に目を付け、斗山(Doosan)は、燃料電池搭載ドローンを、中国市場に売り込んでいきたいと考えているのではないでしょうか。
6.FCバス・FCトラックの屋外展示



写真(左):屋外展示 写真(中央):FeichiのFCバス 写真(右):STNE(深圳)のFCトラック
屋外展示においては、10のブースで、FCバスやトラックが展示されており、その姿は圧巻でした。やはり、水素エネルギーを使用しているバスというと、車体のカラーを、青色を基調にしたり、青色を取り入れた車両が多い印象を受けました。
STNE(深圳)の運送用トラックも展示されていましたが、こちらは、展示用というよりは、外観から察するに、既に何度も輸送に使用されているトラックのようでした。STNEは中国最大のFCV物流プラットフォームであり、JD.comやAlibaba傘下の盒马やIKEAなどに、FCトラックをリースしており、2018年末までに、上海にて、JD.comに物流車として70台のFCトラックを投入しています。また、2018年9月には、Refireと1,000台の物流車の市場投入・商用化において提携を結んでいることに加え、同年にAir Liquideとも資本提携を結んでおり、水素エネルギー産業の川下で積極的に動いているプレーヤーの一つであり、今後も注目すべきプレーヤ―だと考えます。



写真(左):YUTONGのFCバス 写真(中央):YUTONGの屋外展示ブース内に展示されるCenstarのディスペンサー 写真(右):Censtarの屋内展示ブース
YUTONG(宇通)が他社のCenstarという会社のディスペンサーを一緒に展示していましたので、Censtarのブースにまで行き、なぜなのか伺ってみると、両社は、本社が近くにあり、YUTONGの水素ステーションのアフターケアのサービスをCenstarが行っていて、両社の関係は良好であり、屋外で一緒に展示しているとのことでした。中国の水素エネルギー業界においては、バリューチェーンの上流・下流のローカルプレーヤーが、地域性に基づいて、同郷の会社や比較的、活動地域が重なる業者と協働、協力することが良くみられ、その一例を見ることができました。(地元企業の連携の例としては、こちらのブログ 【安徽省の主要燃料電池メーカー明天氢能(Mingtian Hydrogen Energy)視察】もご参照ください。)
7.スタッフ不在のHydrogenics

写真: 協力関係にある深圳文圣科技有限公司のブースでHydrogenicsも展示しているものの、どちらのスタッフも不在であり、閑散としていた。
1カ月前に行われた如皋 (ルーガオ)でのFCVCに引き続き、カナダのHydrogenicsのブースには、スタッフの姿がありません。2019年9月に、アメリカのエンジンメーカーのCumminsに買収され、中国コンプレッサーメーカーのSnowmanとの資本提携関係が解消されたことや、または、中国燃料電池メーカーのSinoHytecとの提携が上手くいっていないこともあり、(SinoHytecは燃料電池スタックの内製化を積極推進しており、株主向け報告書によると、2018年にHydrogenicsからのスタックの購買額が、約2,985万元であるのに対し、2019年(1~3月)において、約317万元と、前年を大幅に下回るペースで減少しています。) 中国企業との関係が薄れ、中国市場へのモチベーションが薄れてきているのでしょうか。それとも、買収の影響などで、単純に展示などに人員を避ける状況ではないのか、理由や背景は分かりませんが、今後も引き続き彼らの中国での動きには、注視して行きたいと思います。(Cummins買収以前のHydrogenicsの中国市場戦略については、こちらのレポート【2019年海外プレーヤーの中国水素燃料電池戦略】をご参照ください。)
この度の、展覧会においては、各企業の出典の積極度や、スタッフとの会話により、定性的な情報も入手することができ、非常に有益であったと考えています。2020年2月26日(水)~28日(金)に東京で行われるFC EXPO 2020にも、弊社は訪問したいと考えております。もしかしたら、そちらで皆様とお会いできることができるかも知れませんね。
2019年11月5日 鶴田 彬 (Integral 副総経理)
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