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■日時:2019年11月14日 カテゴリ:水素エネルギー
[考察]Air Liquideの中国水素エネルギー市場進出におけるSinopecとの提携のインパクト
 
先日、2019年11月6日に、フランスのガス供給会社Air Liquideと中国最大の石油供給会社のSinopec(中国石化)が、中国での水素エネルギー分野において、協力を強化していくことを目的とした覚書を締結し、今、話題となっています。この締結に際し、Sinopecは、今後、水素エネルギー会社を設立すると報告されており、その会社の株式の一部をAir Liquideが所有し、Air LiquideはSinopec側に、自身のもつ水素サプライチェーンにおける技術・ノウハウを提供していくとのことです。
 
写真:Air LiquideとSinopecの覚書締結の様子
 
今回のSinopecとの提携がAir Liquideの中国進出戦略にとって、どのような意味を持つのかを考察するにあたって、まずは、これまでのAir Liquideの中国の水素エネルギー分野における進出戦略を振り返っていきたいと思います。
 
Air Liquideはパリに本社を置く、フランスのガス供給会社ですが、水素ステーションを、2018年までに、世界で120ヵ所導入したり、水素評議会(Hydrogen Council)の発足メンバー企業の一つであるなど、グローバルに、水素エネルギー業界をリードする企業です。彼らの中国市場への参入戦略を見ていくと、水素エネルギーのバリューチェーンにおける上流、中流、下流の全てにおいて、中国企業とパートナーシップを提携していることが分かります。
 
水素サプライチェーンの各ポイントを押さえていくことで、Air Liquideの持つ液体水素技術を活かし、将来的に中国において、液体水素貯蔵・輸送ビジネスを構築して行きたいのではないかと考えられます。この液体水素技術に関しては、中国企業は、まだ技術的に後れを取っており、国内の標準策定もまだ完了していないことから、現在主流となっている高圧水素貯蔵・輸送における中国市場と比較すると、競合が少なく、Air Liquideなどの外国企業が参入しやすい市場と考えられます。加えて、中国においては、液体水素は、水素の大規模大量輸送においては、高圧水素よりも、経済性に優れていると考えられており、国土の広大な中国において、将来的に、液体水素輸送の需要が高まる可能性は大いにあり、その潜在的需要にAir Liquideが着目し、中国での水素エネルギーバリューチェーンの構築を進めているのではないかと考えられます。
図:水素エネルギーバリューチェーンにおけるAir Liquideを取り巻く中国ローカル企業 (*出典【2019年海外プレーヤーの中国水素サプライチェーン戦略】)
 
そこで、Air  Liquideの中国水素サプライチェーン戦略を理解する上で、彼らの代表的な、中国における3つのパートナーシップにおける取り組みを、紹介していきたいと思います。
 
1.合弁会社Air Liquide Houpuの設立
2019年4月25日に、同社は、Houpu Clean Energy(厚普清洁能源股份有限公司)とAir Liquide Houpu Hydrogen Equipment (出資率:Air Liquide 51%、Houpe 49%) を設立しました。この合弁会社は、Air Liquideのもつ水素ステーションの専門技術・ノウハウとHoupuの持つ天然ガスステーションの領域での経験・リーダーシップとディスペンサーなどの中国国内での製造能力という両社の強みを活かし、水素ステーションを中国に配備していくことと、Air Liquideの技術を活かしたディスペンサーなどの装置を、中国国内で製造・提供していくことを目的としています。
 
この提携の短期的な目的としては、中国国内で、安価に装置を製造することで、Air Liquideは、水素製造装置におけるシェアを獲得することが出来ることがあげられます。また、先日、10月16日はAir Liquide Houpu 最初の水素ステーションも浙江省で完成しており、水素ステーション事業分野においても、Air Liquideの進出を加速化させることができます。
 
写真: Air Liquide Houpuが手掛けた最初の浙江省嘉善嘉通統合型水素ステーション
 
一方で、長期的に見ると、Houpuが本社を置く、四川省は、水力エネルギーが豊富にあり、弊社の推定によれば、現在使用されていない棄水によって、32.5万トンもの水素の製造ポテンシャルを有しています。将来的には、この資源を水素に変え、水素需要の高い地域へ販売したいという需要が生まれる可能性が高く、そこにAir Liquideは目をつけているのではないかと考えられます。(棄水における水素製造についての詳細な情報につきましては、弊社レポート【2019年中国水素サプライチェーンの最新動向】をご参照ください。またこちらのブログ【中国燃料電池用の水素供給の今後の動向についての考察】でも棄電による水素製造について述べています。)
 
Houpuの水素ステーション関連装置の入札の動きを見ていると、長江デルタ地域周辺に集中していることから、将来を見据え、Air Liquideはこの地域にまず、水素エネルギーの受け皿となる、水素ステーション等のインフラを整備し、後に、自身のもつ液体水素貯蔵・輸送技術を用い、四川省から水素を長江デルタ地域に輸送するビジネスを構築したいのではないかと考えられます。長江デルタ地域は、2030年までに500ヵ所の水素ステーションと20万台のFCVの配備を計画しています。(長江デルタ地域に関する詳細な情報については、弊社レポート【2019年中国水素・燃料電池産業の最新動向】をご参照ください。)
 
また、先日の仏山で行われたCHFE2019(中国国際水素エネルギー・燃料電池技術製品展覧会)にも、Air Liquide Houpuはブースを出展していました。そちらの様子はこちらのブログ【CHFE2019(中国国際水素エネルギー・燃料電池技術製品展覧会)に訪問しました。】で確認できます。
 
2.物流会社STNEとの提携
水素エネルギーバリューチェーンにおける川下においても、Air Liquideは積極的に進出しており、2018年に、上海のFC物流トラックのリース会社STNEと、FCトラックの配備推進を目的とした提携を結び、STNEの株式11.11%を取得しています。Air LiquideはSTNEに対し、資金と技術・専門知識をSTNEに提供し、上海以内で、水素ステーションの配備をSTNEと進めると考えられます。
 
STNEは、これまで、JD.comやAlibabaグループのHemaやIKEAなどに、FCトラックをリースしており、またSTNEの子会社の2社は、自身のFCトラックのリースを推進するため、上海に水素ステーションを建設しており、2019年8月までに、累計200トンの水素を無事故で提供してきた実績を持っています。
 
写真:STNE子会社の嘉氢(上海)実業有限公司が運用する上海江橋水素ステーション
 
この提携において、Air Liquideは、上海市内での水素ステーションの配備を加速化させることに加え、STNEの持つ上海での水素ステーションの運用データ・ノウハウを入手することができ、かつSTNEの子会社が建設中の水素ステーションに、Air Liquide Houpu社の関連装置を納入することもできるという点で有益だと考えられます。実際に、Air Liquide Houpuが、STNE子会社の水素ステーションに装置を納入することが決定しています。
 
長期的な視点で見ると、水素エネルギー需要を作り出していることになるSTNEと提携を結ぶことで、今後、Air Liquide Houpuと連携して、上海を含んだ、長江デルタ地域の水素ステーションの配備を加速化することができると考えられます。上海外の長江デルタ地域でAir Liquide Houpuが建設した水素ステーションをSTNEが使用することで、STNEはビジネスを拡大することができ、それに伴い、長江デルタ地域における水素エネルギー需要が成長していくことが考えられ、これは、将来のAir Liquideの水素輸送ビジネスを、需要面で支える基盤となってくるのではないかと考えられます。
 
3.Yankuang Groupとの提携
写真:Air LiquideとYankuang Groupの提携締結の様子。
 
2019年の1月4日には、石炭化学会社のYankuang Group(兖矿集团)と水素エネルギーのインフラ構築における協定を結びました。こちらは、Air Liquideが、バリューチェーンの上流において、水素資源を抑えるための協定と考えることができます。Yankuang Groupは、山東省を中心に、中国の広範囲において、豊富な石炭資源を擁し、石炭ガス化による水素製造技術も擁しています。その抱えた石炭資源を水素に変換して販売する上で、Air Liquideの水素サプライチェーンにおける技術・ノウハウが必要になり、今回の提携に至ったと考えられます。
 
山東省においては、10万台のFCVを2035年までに、配備することが計画されており、その市場の成長に着目しつつ、Air Liquideは内モンゴル地区などにあるその他のYankuang Groupのもつ豊富な水素資源(石炭)にも着目し、長期的には、この水素資源を輸送することで、水素輸送ビジネスを、盤石にしていきたいのではないかと考えられます。
 
以上3点で見てきたように、Air Liquideは短期的には、水素ステーションの建設において、水素関連装置を販売することで、収益をあげながら、バリューチェーンの各所に介入し、上流では、資源を確保していき、中流・下流では、水素ステーションを配備しインフラを整えながら、需要を成長させ・確保することで、将来的に液体水素輸送ビジネスを展開していこうとしていると思われます。それを踏まえた上で、この戦略に、今回のSinopecとの提携が、どのようなインパクトを与えるかを考えて行きたいと思います。
 
4.Sinopecとの提携がAir Liquideの中国戦略にもたらすインパクト
まず短期的に見ていきますと、Sinopecが水素ステーションを構築する際に、Air Liquide Houpuの装置を販売・納入することができます。先ほど紹介した、Air Liquide Houpuが手掛けた最初の浙江省の統合型水素ステーションは、もともとあったSinopecのガソリンスタンドに、水素ステーションの機能を統合した形で完成しました。このような形で、Sinopecは今後、自身の持つ30,000ヵ所に及ぶ、ガソリンスタンドに、水素ステーション機能を付与していくと考えられ、その装置提供元は、Air Liquide Houpuになる可能性が高く、そこで、Air Liquide Houpuは収益をあげることができます。
 
写真: Air Liquide Houpuが手掛けた最初の浙江省嘉善嘉通統合型水素ステーション。3社のロゴが並ぶ。
 
そして長期的に見ていくと、この提携は、Air Liquideの中国長期戦略、液体水素輸送ビジネスの二つの点で、規模をもたらすと考えられます。まず、第一に、中流・下流において、Sinopecは約30,000のガソリンスタンドを擁しており、その一部が、統合型水素ステーションに代わることで、多数の水素ステーションが完成し、Air Liquideは、水素エネルギーの販売先を確保することができます。次に、Sinopecは年間約3百万トンの水素生産能力を持っており、その多大な水素資源を、Air Liquideの液体水素輸送ビジネスに組み込むことができる可能性があります。この2点を持って、Air Liquideの液体水素輸送ビジネスを、スケールアップし強固にすることができます。
 
それに加えて、国営企業であるSinopecとの関係性を利用し、中国国内での液体水素輸送・貯蔵における実証プロジェクトにも参加し易くなると考えられ、早期に実証プロジェクトに参加することで、液体水素に関する産業標準策定に、参画する狙いもあると考えられます。そうすることで、将来の液体水素市場での中国国内での地位をより強固にすることができると考えられます。
 
以上が、このAir LiquideとSinopecの提携における私の考察になります。また、競合である、Air ProductsやLindeのリサーチも現在進行中であり、その内容は、こちらのレポート【2019年海外プレーヤーの中国水素サプライチェーン戦略】に随時追加更新予定であります。またAir Liquideに関しても、より詳細な情報を記載しており、こちらも随時更新予定となっておりますので、宜しければご参照ください。
 
 
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