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■日時:2020年1月21日 
中国EVの父、万鋼氏が語る今後の新エネ車補助金政策の動向について
 
中国電気自動車百人協会(中国电动汽车百人会)の第6回年次フォーラムが、2020年1月10日から12日に、北京にて開催され、そこで、全国政治協商会議(CPPCC,中国人民政治协商会议全国委员会)の副議長であり、中国科学技術協会の会長である万鋼氏(中国名:万钢)が、中国の新エネルギー車における補助金について、2020年終了までに、変更を加えるべきではないと発言したことが業界内で話題を呼んでいます。
 
1.万鋼氏について
写真: 万鋼氏
出典: 新华网股份有限公司 HP
 
前述したとおり、万鋼氏は、現在はCPPCCの副議長と中国科学技術協会の会長を務め、かつ2008年から2018年まで、長期にわたり中国科学技術部の部長を務めていた人物であり、依然として新エネルギー車業界内で強い発言力を持っていると言われています。その為、今回の万鋼氏の発言は、政府の今後の政策・意向を反映しているのではないかと考えられています。実際に、2014年の天津で開かれた中国自動車産業発展(泰達)国際フォーラム(国汽车产业发展(泰达)国际论坛)では、当時、中国科学技術部の部長を務めていた、万鋼氏は、新エネルギー車の補助金に対して、2020年までに、廃止する見通しを示唆する発言を残しており、後述しますが、2019年3月には、その意向を受けた補助金政策が発表されていました。このように、万鋼氏の新エネルギー車産業における発言主旨というのは政府の意向に寄り添ったものになるので業界内での注目度が非常に高くなっています。
 
2.近年の新エネルギー車に関する補助金の傾向
 
2019年3月に、財政部らによって発表された「新エネルギー自動車普及応用財政補助政策の一層の整備に関する通知(关于进一步完善新能源汽车推广应用财政补贴政策的通知)」によりますと、移行期間後 (2019年3月26日~6月25日) 、各地方政府は新エネルギー車 (新エネ公共バスと燃料電池車は除く) に対して、補助金を提供するべきではなく、販売補助金に使用するであろう資金を、現在の産業発展のボトルネックとなっている水素充填インフラや関連運営サービスの支援に向けられるべきとしていました。その中で、EVに対する補助金は減額され、技術基準は引き上げられました。また、この移行期間中に販売された燃料電池車の補助金においては、2018年の標準の0.8倍で補助を行い、移行期間後の燃料電池車と新エネ公共バスの新しい補助金基準は、今後発表予定となっており、この暫定的な0.8倍という補助金基準が、今後調整(下方調整)されるだろうと考えられていました。しかし、この度の万鋼氏の「新エネルギー車の補助金の調整はなされるべきではない」という発言があったため、業界内では、2020年度も燃料電池車への補助金は前年水準を維持されるのではないかという認識に変わってきています。(2019年における水素燃料電池に関する補助金・政策の詳細については、こちらもご参照ください→2019年中国の水素燃料電池の動向)
 
3.万氏の発言内容
写真:壇上でスピーチする万鋼氏
出典: 第一电动网
 
万鋼氏は、スピーチの冒頭で、中国の自動車市場が2018年と比較しながら、2019年において市場の成長は低迷していると指摘しています。スピーチの中で、2018年と2019年の1月から11月の同期間を比較して、自動車の生産高と販売額がそれぞれ△9%、△9.1%下落していることを報告しています。そして、その主要な要因として以下の3点を説明しています。
 
  1. マクロ経済的要因として、景気低迷の圧力と貿易摩擦の外的要因
  2. 排出規制強化の過程における、政策、市場、企業間での調整の乱れによる、旧規制に対応した旧型の在庫過剰と新規制に対応した新型の準備不足
  3. 新エネルギー車への補助金削減における一定の消費影響(移行期間終了後の7月以降の販売の落ち込み)
 
その上で、新エネルギー車における市場志向の発展を促進していくための施策として、5つのポイントからを方策を紹介しています。その5つのポイントとは、
 
  1. 戦略的リーダーシップを堅持し、高質な産業発展を実現する。
  2. 新エネルギー自動車のモデルチェンジ・アップグレードの方向性を把握する。
  3. 新興産業のエコシステムを構築し、業界を超えたビジネスの融合・発展を推進する。
  4. 水素と燃料電池自動車の発展を協調的に推進する。
  5. 政策の革新を強化し、協力を推進する。
でした。
 
その最後のポイントにおいて、新エネルギー車にとって良い市場環境を構築する為の一つの手段として、「新エネルギー車の発展期待の積極的安定化」とし、その中で、彼は、「中間的な補助政策の制定や、補助金や技術指標においても新たな調整は行うべきではない」と述べています。企業に、補助金獲得後に市場の要求に応えるために、製品を計画し、研究開発をする時間とエネルギーを与えるべきと考え、また、新エネルギー車における税控除は2025年まで継続すべきと述べています。
 
4.この発言が業界内に与えるインパクト
では、万鋼氏のこの発言がFCV業界に与えるインパクトを考察していきたいと思います。まず、なぜ彼が、このような補助金を維持すべきという発言を行ったのかを考えてみましょう。2019年の同第5回フォーラムの万钢氏の発言を振り返ると、彼は、補助金に関しては、2020年の発言と異なり、補助金が2020年に廃止された後の制度の為に、優遇税制について学ぶことの必要性を述べていました。つまり、この一年間で、先ほど述べたように、産業成長の停滞が垣間見え、現時点での補助金の撤廃・削減は好ましくないと判断するに至ったと考えられます。
 
中国自動車工業協会(中国汽车工业协会)の発表によると、2019年の新エネルギー車の生産数は124.2万台(前年比△2.3%)、販売数120.6万台(前年比△4.0%)と昨年に比べ減少し産業全体が停滞していることが窺えます。内訳をみると純電気自動車の生産数は102万台(前年比+3.4%増)、販売数は97.2万台(前年比△1.2%)、プラグインハイブリッド車の生産数は22.0万台(前年比△22.5%)、販売数は23.2万台(前年比△14.5%)、FCVの生産数は2,833台(前年比+85.9%)と販売数は2737台(前年比+79.2%)となってります。FCVを除き、総数を含む、新エネルギー車の販売数は減少傾向にあり、これに削減傾向の補助金政策が影響していると考えられます。この停滞については、万鋼氏並び水素燃料電池産業に強い影響力を持つと言われる、現在の中国科学院技術科学部院士で、中国電気自動車百人協会(中国电动汽车百人会)の副議長である欧陽明高(中国名:欧阳明高)氏も、同大会のスピーチの中で、補助金の削減による産業の痛みについて触れていることからも、補助金の削減が業界に与えたインパクトは小さくなかったと考えられます。
 
加えて、補助金制度の移行期間後の7月からの新しい補助金政策について、政府は公表しておらず、それが市場に混乱を招いたことが窺えます。万鋼氏もスピーチ内で触れていますが、まず消費者心理として、7月までの移行期間まで(特に6月に)の駆け込みの購買契約があったと思われます。日本での消費増税前にみられた購買心理と同じように、補助金がなくなる前に、購入しようという動きです。ですので、販売数は以降期間後の7月以降下落し、前年を下回り始めます。さらに、新たな補助金政策が発表されず、購入コストの計算など、状況がクリアにならないため、製造元への発注が7月以降停滞していたことが考えられます。これらの補助金政策の削減と新補助金政策の未発表における負の影響を受けた状況が7月以降続いていたのが、2019年の中国のFCV産業の状況でした。
 
グラフ:2019年における中国の新エネルギー車販売台数月別推移
出典: 中华人民共和国工业和信息化部、グラフは筆者作成。
 
一方で、FCVの需要がなくなって、産業の成長が本当に停滞しているのかというと、FCV産業の成長におけるボトルネックの一つとされていた、水素ステーションの数は着実に増加し、中国内でのインフラ整備は進んできています。万鋼氏もスピーチの中で、「現在、130以上の水素ステーションが計画・建設され、そのうちの61の水素ステーションが完成し、52の水素ステーションが稼働しています。」と報告しています。この水素ステーションの増加数から考えると、インフラ整備が進み、FCVの需要は今後もより高まってきているが、補助金に関する状況が不明瞭なため、2019年の後半においては、購買・製造が停滞していたと考えられます。
 
ですので、この発言は、2019年後半の、FCV産業の停滞原因を解決するものとして、ポジティブな影響をFCV産業に与えると考えられます。実際に、万鋼氏のこれまでの発言を鑑みると、これまで彼の発言は政府の動向を反映してきている為、2020年以降も政府は補助金制度を維持するのではないかという見方が強くなってきています。恐らくは、政府が近日中に、正式に補助金制度に関する発表を行うと考えられ、現状の補助金基準が維持される可能性が高いと思われます。そうなると、いままで、滞っていた製造・購買が加速化すると予測されます。特に春節明けから、2020年2月以降のFCVの生産数・製造数は伸びてくるのではないかと思われます。今後の生産数・販売数の動向に注目して行きたいですね。
 
また万鋼氏は、スピーチの中で、「新エネルギー自動車産業発展計画(2021-2035年)(新能源汽车产业发展规划(2021-2035年))」の策定を急がなければならないと述べており、2019年12月には、政府は、同計画についてのパブコメ募集における草案を発表しており(《新能源汽车产业发展规划(2021-2035年)》公开征求意见)、補助金の政策と合わせて今後の計画策定・発表が待たれるところであります。
 
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