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■日時:2020年1月23日 
[考察] Air Productsの水素エネルギービジネスにおける中国進出戦略
 
前回、Air LiquideのSinopecとの提携の考察を述べる際に、Air Liquideの中国の水素エネルギー分野における進出戦略について説明させていただきましたが、今回は、Air Liquideの競合となるアメリカのガス会社、Air Productsの中国進出戦略について考察・説明していきたいと思います。(Air Liquideの中国進出戦略については、こちらのブログをご参照ください→ [考察]Air Liquideの中国水素エネルギー市場進出におけるSinopecとの提携のインパクト
 
 
図: Air Productsが描く中国における水素エネルギー戦略  (*出典【2019年海外プレーヤーの中国水素サプライチェーン戦略】)
 
これまでの中国水素エネルギー市場での動きを見ると、Air Liquideと比べAir Productsは中国進出に際し、保守的なアプローチをとっていると思われます。中国の水素エネルギー分野においては、ここまで、Air Productsは、地元企業と共同して合弁会社の設立や水素ステーションの建設などといった大きな資本投資は行っていません。しかし、後述しますが、Fullcyo(中科富海)との提携などを見るに、将来的に、中国で、液体水素の貯蔵・輸送ビジネスを生み出したいと考えているようです。
 
先ほど紹介したAir Liquideのブログでも述べましたが、中国では、液体水素は、水素の大規模大量輸送においては、高圧水素よりも、経済性に優れているという見方が業界の主流であり、国土の広大な中国において、水素アプリケーションの普及と共に大量の水素を省外から調達する必要がでてくることを考慮すると、将来的に、液体水素輸送の需要が高まる可能性は大いにあると思われます。Air Liquideと同様に、Air Productsは、中国内での、水素エネルギーバリューチェーンに沿ったエコシステムの構築を徐々に進めています。彼らの、エコシステムの構築の仕方は、Air Liquideと比べると保守的で、直接的な大規模投資は避けていますが、ディスペンサーなどの彼らの装置を導入しつつ、Air Productsのもつ、専門知識・技術・ノウハウ・経験を通し、国内企業をサポートすることで、良好な関係性を構築し、将来の液体水素輸送ビジネスに備えるというアプロ―チを取っているように見えます。
 
それでは、Air Productsの中国水素サプライチェーン戦略における鍵となると思われる代表的な取り組みを紹介していきたいと思います。
 
1.広東省におけるFullcryoとの提携
2018年の9月に、Air Productsは、北京に本社を置き、大型水素液化装置などにおける研究開発・製造を行うFullcryo (中科富海)と広東省中山市における水素インフラ開発の加速化に向けた提携を行っており、現在、Fullcyroの中山市の生産拠点に中国最初の商業用液体水素ステーションの建設にむけて、Air Productsの装置を提供しています。
 
写真:Air ProductsFullcryoのパートナーシップ締結の一場面

 

この提携におけるAir Productsの動機を考察すると、まず短期的には、彼らのもつ水素ステーションにおけるノウハウとディスペンサーなどの装置とFullcryoのもつ中国内でのネットワークをもって、FCVの普及率が高い広東省での水素ステーション配備を加速化させようという狙いがあります。(2017年1月から2019年6月において、広東省のFCV累積販売台数は、全省・都市の中で最高となっています。*INTEGRAL調べ)また、Fullcyroは低温液体水素における技術を有し、中国政府との繋がりも深い為、Air Productsが液体水素のビジネスを広東省で開始するには最適なパートナーの一つと言えます。

 

そして中・長期的にみると、Fullcryoの水素ステーションが、液体水素の実証プロジェクトに、競合他社に先立って使用され、Air Productsは中国の液体水素実証プロジェクトにおいて実績を持つことが出来、これがその他の外国籍企業と、今後液体水素のビジネスで競合する際に有利に働く可能性があります。また、近い将来、FCVの数が増加するにつれ、広東省にある珠江デルタ地域は、水素エネルギー不足に直面する可能性があります。(山東省が24万トンの副生水素がある一方で、広東省の珠江デルタ地域は6千トン*INTEGRAL調べ) この水素エネルギー需要に対する供給不足が、液体水素貯蔵・輸送ビジネスの需要を生み出します。

 
 

Fullcryoは江蘇省と浙江省にも液体水素の実証用水素ステーションを有している為、そちらでもAir Productsが支援に参加する可能性があります(広東省・珠江デルタ地域における政策などについては、弊社レポート[2019年中国水素・燃料電池産業の最新動向]をご参照ください。)

 

2.山東省におけるWeichai Powerとの提携

写真:Air ProductsWeichaiの協議風景
 
2018年6月に、Air ProductsはWeichai Powerと水素ステーションの装置供給を含む水素エネルギー供給における協力提携を結んでいます。そして、山東省の潍坊市における最初の固定式水素ステーションに、ディスペンサーを供給しました。Weichaiは、山東省の持つ豊富な水素資源を利用し、潍坊市を水素エネルギー都市へとリードし、Weichai水素燃料工業パーク建設に向け大型投資を行いました。現在までに3か所の水素ステーションと60台のFCバスがWeichai Powerと中通グループによって設計され、2019年より運行されています。
 
この提携にみるAir Productsの動機としては、短期的に見ると、装置の供給だけでなく、Weichaiに水素エネルギー供給サービスを提供したいと思われます。また中・長期的にみると、山東省は2020年までに10の水素ステーションを建設する計画を持っている為、そこでAir Productsの装置を導入しようと考えている可能性が高く、かつWeichaiは中国におけるFCV業界のリーティングカンパニーであることから、中国の水素エネルギー産業の様々な機会に、この提携が繋がっていくことが期待できます。(山東省の政策につきましては、弊社レポート【2019年中国水素・燃料電池産業の最新動向】をご参照ください。またWeichaiはカナダのFCメーカーBallardとの戦略提携を結んでいます。その詳細につきましては、弊社ブログ【海外FCプレーヤー達の中国水素燃料市場参入戦略】と弊社レポート【2019年海外プレーヤーの中国水素燃料電池戦略】をご参照ください。)
 
3.国家能源集団との協力関係
写真:国家能源集団の子会社NICEと覚書を締結
 
Air Productsは国家能源集団との直接的な提携は結んでいないものの、いくつかのグループ子会社と戦略的提携を結んでいます。例えば同グループの研究開発機関NICEと、水素戦略・技術開発における協力覚書を2016年に締結、また、2018年には子会社の神華新エネルギー有限公司(神华新能源有限公司)の手掛ける江蘇省如皋(ルーガオ)市の水素ステーションに装置を提供しているなどしています。
 
この協力関係でのAir Productsの動機は、短期的には、国家能源集団をサポートしながら、装置を導入・販売できることになりますが、長期的に見ると、もっと大きなAir Productsの中国戦略ビジョンに繋がっていきます。国家能源集団は水素源を多く所有しています。まず、国家能源集団は、年間400万トンの水素生産能力があるといわれ、江蘇省などに、大規模水素生産工場を建造する計画を持っています。また、同社は、大量の再生可能エネルギーを有しており、2018年においては、35.89GWの風力発電容量を持っており、これは、当時の国の総風力発電量の訳20%に当たります。この再生可能エネルギー発電には棄電の問題が伴いそこに水素生産の需要が生まれます。彼らが、今後、水素生産能力を拡張し、水素ステーションの配備を勧めれば、より多くの水素輸送ビジネスの機会が生まれることになり、ここにAir Productsが、両社の良好な関係性を通して、参入する機会があります。
 
以上のように、Air ProductsはAir Liquideと比較すると、保守的な動きをしているように見えますが、各パートナーを見ていきますと、中国水素エネルギービジネスにおけるビジョンは大きいものと思われます。また、中国国内の液体水素の標準発表などの、どこかのタイミングで、市場により積極的に参入をしてくることも考えられます。液体水素の産業標準が発表された際に、各社がどう反応するのか、Air Productsがより参入を加速・積極化させるのかという視点で、中国水素エネルギー産業を見てみるのも一つの有益な視点だと考えます。これまで、リスクを避けてきた企業がリスクを取るということは、それだけビジネスの成功率が高まったと考えることができるからです。今後のAir Productsの動きに注目していきたいですね。
 
また、Air ProductsとAir Liquideの中国進出戦略の詳細につきましては、弊社レポート【2019年海外プレーヤーの中国水素サプライチェーン戦略】に、記載していますので、宜しければ、そちらもご覧ください。こちらのレポートは、随時更新中で、Lindeに関するリサーチも現在進行中であり、レポート更新の際には、メルマガなどを通してアナウンスさせて頂きます。
 
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