中国再生可能エネルギーの全発電設備容量に占める割合は太陽光エネルギー(太陽光発電、太陽熱発電)が9%、 風力発電が10%、水力発電が18%で合計37%を占め、再生可能エネルギーの総発電設備容量は約711GWとなっています。これはどれくらい大きな数字かと言うと、日本の発電設備容量が約250GWですので、約2.8倍に当たります。
一方で発電電力量に占める割合では太陽光エネルギーが3%、風力発電が5%、水力発電が18%で合計25%の1775TWhなっています。日本の年間発電量は1000TWhですので、水力発電一つだけでも(年間1259TWh)日本の総電力需要を補うことができることを意味しており、中国の再生可能エネルギー資源がいかに巨大であるかお分かり頂けると思います。また、再エネ推進国であるドイツの再エネの前発電電力における割合が30.6%、アメリカが13.6%、日本が15.6%ですので、再エネの普及率という点でも中国は主要国の中では比較的進んでいる方と言えます。



それでは最後に中国政府の再エネ導入目標と達成状況について見ていきましょう。
下の図を見ると、2010年までは再生可能エネルギーの大半は水力発電で、2010年から2015年には、水力と風力がそれぞれ約100GW増加、太陽光は導入が始まり、約40GW増加しています。
2016年になり、中国は2020年までに水力発電で340GW、風力発電で210GW、太陽光発電で105GWn導入する目標を抱えていますが、実際に中国の再エネは2015年以降も順調に導入が進み、2018年末時点で水力、太陽光は2年前倒しで目標が達成されています(太陽光は3年前倒し)。
さて、ここから本題に入ります。
このように、順調に発展が続いているように見える中国再生可能エネルギーですが、課題が無いわけではありません。
このように急速に再エネ発電設備の導入を進めた結果、今度は送電線インフラ不足による送電能力不足と、再エネの特徴である発電の自然変動性(太陽光発電は天候に左右され、風力発電は時間帯により風況が変動するなど、人為的に発電量をコントロールすることが難しい)がもたらす電力需給の解離により、発電した電力を電力需要地に運び、消化することができないという問題が発生しています。
つまり再エネを発電したのは良いが、肝心のその電力を運ぶ電線インフラが不足している。電線があったとしても、発電量が電力需要地が必要とする実際の電力需要を上回るため、大量の余剰電力が発生してしまう、ということです。
このように中国では再エネの発電能力があるにも関わらず、実際は発電設備が利用されない(人為的に発電を停止している)ことがあります。このような発電機会のロスは「棄電(棄風、棄光、棄水)」と呼ばれ、中国再生エネルギーの大きな課題となっています。
下の図は2017年の中国全国各省で発生している棄光率、棄光率を示した図になりますが、再エネ導入量が特に多い西部、東北地域で特に集中していることがお分かり頂けると思います。
2020年現在は、2017年より急速に進んだ送電インフラ網の構築によりこれらの地域の棄風率、棄光率は徐々に改善されてきているものの(棄風率全国平均 2017年:12%、2018年:7%、棄光率全国平均 2017年:6%、2018年:3%、出典:国家能源局)、上記再エネの自然変動性による電力需給のギャップは再エネ発電設備の規模が大きくなれば大きくなるほど顕在化してきています。
このままでは今後中国の再エネの総発電電力に占める割合が今後30%,50%と増えていくにつれて、これら数%の変動でも将来莫大な再エネの余剰電力が発生することになります。
この問題を解決する一つの候補として、電池による余剰電力の蓄電が挙げられますが、現在の技術では電池のエネルギー蓄電容量には限界があり、ギガワットを超えるような再エネ発電ファームの蓄電設備として利用するのは現実的ではありません。また、電池は自然放電もあるので、長期間の電力貯蔵には向いていません。
さて、ここでようやく水素の登場になります。
水素は気体燃料の中では体積エネルギー密度が最も大きく、電池と異なり自然放電などのエネルギーロスがないため、大容量のエネルギーを長期間貯蔵することができます。また、水素は他の気体燃料と異なり、エネルギーを取り出す過程で一切炭素が排出されません。このような特徴から、莫大な量の再エネ余剰電力を長期間保存し、電力需要地に輸送した上で必要な時に電力として取り出す、といった使い方が可能になります。つまり、水素は、再エネの普及が進んだ将来、最適なエネルギーマネジメントシステムの構築に不可欠であり、再エネの理想的なエネルギー・キャリアとして注目されているのです。
よって、再エネが普及した将来は、電力は既存の電網グリッドを通じて電力需要地に運ばれる一方で、エネルギー需給のギャップで発生した余剰電力は一時的に水素に変換され、水素グリッドを通じて必要な時に電力需要地で消化されることになります。つまり水素グリッドは電力グリッドと対立するものではなく、相互補完しあいながら、将来の最適なエネルギーマネジメントシステムの中で共生していくいくことが期待されています。
になります。特に四つ目の理由を正しく理解することにより、中国における水素エネルギーの推進は単なる新興産業の育成ではなく、国家戦略にまで話が及ぶことがご理解頂けると思います。これらの理由の詳細については第二部で記載していきたいと思います。また、この記事と合わせて現在の中国の水素供給ポテンシャルについて述べている別記事(水素の未来を考える)も合わせて参照頂くとより理解が深められると思います。
2020年3月31日 中西 豪(Integral 総経理)