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■ 日付: 2021年2月3日
【中国の定置用燃料電池(熱電気コジェネ)の政策動向と産業発展展望】

本ブログでも度々ご紹介してきましたように、近年、中国では商用FCEVと水素ステーションの開発が加速しており、水素燃料電池産業は注目を集めています。また、水素燃料電池のアプリケーションは多様化しており、間もなくその最盛期を迎えることになると考えられます。2020年には、中国政府による重要な動きが、定置型燃料電池(FC)に対し見られました。3 月に、科学技術部(MOST)は、水素エネルギーの主要技術の一つとして、初めてFCコジェネレーションを提案したのです1。MOSTは、水素燃料電池アプリケーションに対する技術的進歩の方向性を指摘しており、これは、FCコジェネレーション産業が有望なスタートを切ることを示していると考えられます。
中国における FCコジェネレーションの政策はどのようになっているのか、また、この産業はどのように成長していくのか。この疑問に答えるために、本稿では、国家レベルと省レベルの政策を検証し、政策と社会動向を踏まえた業界の展望の分析を行います。
【FCコジェネレーションに関する政策・プロジェクトの現状】
国家レベルでは、水素燃料電池の政策はモバイル用途に焦点を当てており、定置用途に関する政策は、比較的少数で、産業を初期の研究開発段階と想定したガイダンスや技術志向の政策が主である。
2020 年 3 月、MOST は中国の水素技術の将来のために最も重要な政策ガイダンスの一つである「2020 年度再生可能エネルギー・水素エネルギー技術国家重点専門プロジェクト応用ガイダンス」(「可再生能源与氢能技术」重点专项 2020 年度项目申报指南)1 を発表し、その中で、以下の3つの FCコジェネレーション関連技術の性能指標を詳述しました(表 1 参照)。
- PEM FC-CCHP
- SOEC FC-CHP
- FC-CHCHP対象のシミュレーション、システム組立、エネルギー管理の技術
表 1.PEMFC-CHP と SOEC FC-CHP の技術性能指標

これまでの政策においては、政府は、FCコジェネレーション技術の開発における一般的な意向を示しただけで、それ以上の政策的作業を行っていなかった。それとは異なり、MOST のガイダンスは、特定のFC-CHP/CCHP技術の開発における投資を誘致することができる、国による初の効果的な政策と言えます。
省レベルでは、政策発行と実証プロジェクトの開始という観点から見ると、2018年後半からFCコジェネレーションがトレンドとなっていると言えます。これまでに19の省・市が定置用FCに関連する政策を発表しており(図1参照)、以下の2つの主要なアプリケーションに焦点を当てています。
- 家庭用、公共用(学校、病院)、商業用(ショッピングモール、オフィスビル)の FC-CHP システム。
- 発電所や通信局のための分散型リソースおよびバックアップ電源。
図 1 FCコジェネレーションの関連政策を実施している19 省・市

出典:Integral
比較すると、沿岸部の省・都市は、内陸部に比べて FCコジェネレーションやその他の定置用アプリケーションの利用を積極的に推進しています。その理由の一つとして、沿岸部には副生水素の資源が豊富にあることが考えられます(図2参照)。政府は、副生水素を活用することで、工業セクターにおけるエネルギー効率を向上し、二酸化炭素排出量を減らそうという意図を持っていると言えます。
図2 2017年の中国における副生水素生産量の地域別分布

出典:Integral
そして、政府の計画に合わせて、FCコジェネレーションの実証プロジェクトが沿岸部のいくつかの省にて計画・実施されています。例えば、遼寧省営口市では、中国の化学企業(Ynnovate) と他の欧州企業(Nedstack、AkzoNobel、MTSA Technopower など)が、EU の資金援助を受けた2MW PEMFC-CHPデモプロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトは、塩素アルカリ工場から発生する副生水素を再利用して、電気、熱、 水を生成して自給することを目的としています。浙江省では、中国企業(巨化集団) と日本企業 2社(丸紅、日揮ホールディングス)が共同で、巨化集団の苛性ソーダ生産の脱炭素化を目的とした、同様のプロジェクトを計画中です。2
FCコジェネレーションへの財政支援については、内陸部の四川省と貴州省の2 つの省が実証事業のための具体的な補助金を出しているのに対し、他の省・市は、特別の財政支援計画を持っていません。これは、この二省が、将来的には交通運輸セクターだけでなく、多くの産業セクターに、「棄水を利用し水電気分解で生産した、大量の水素の消費を促したい」という意図を持っていることが考えられます。
国と地方レベルでのFCコジェネレーションの関連政策の出現は、政府が交通輸送分野だけでなく、様々な分野での多様な水素燃料電池アプリケーションへの関心を高めていることを示しています。
【FCコジェネレーション産業の既存の課題と展望】
中国政府は FCコジェネレーション産業の成長をリードするために一歩を踏み出しましたが、この産業の繁栄のためには、多くの課題を解決しなければなりません。主要な2つの課題として、具体的な実施措置と財政的インセンティブがないことがあげられます。効果的な政策ガイダンスがなければ、民間企業は将来のリターンが不透明であるため、FCコジェネレーション産業の先発企業になりたがりません。同様に、政府の補助金がなければ、電力価格が低いこともあり、民間企業において、FCコジェネレーションを導入し発電しようという動機が生まれにくくなります。さらには、FCコジェネレーションに関する知識の不足および不十分なエネルギー変換率ゆえに、現在の段階では消費者市場は小さい状態にあります。
以上のような障害はあるものの、FCコジェネレーションは定置用FC の次世代技術として期待されており、政策や社会の動向を考慮して産業分野に広く適用されることが期待されています。
第一に、FCコジェネレーション技術の採用は、中国において第二の排出量を誇る工業セクターでの、エネルギー節約と、排出量削減という国家戦略に沿ったものである。特に、FCコジェネレーションを導入することで、化学製品メーカーが副生水素を再利用して、自家利用の電気と熱を生成し、化学製品生産におけるエネルギー効率を向上させることが可能です。FCコジェネレーションは電気と熱のグリーンな生産を実現し、化学製品生産と長距離送電ロスに関わる総排出量を削減することができます。
第二に、FCコジェネレーションは、石炭火力からクリーンエネルギー発電への移行期に、華南・華東地域の電力不足の解決策としての役割を果たすことができます。2020年の後半、一部の南部の省(浙江省、湖南省など)の工業メーカーは電力供給不足に悩まされました。3 これは、政府の電力消費計画に基づくもので、石炭火力発電が抑制され、代替エネルギー源による発電電力にも限界があることから生じたものです。そのため、政府は電力不足に対処するために、工業セクターに分散型リソース(分散型電源)の採用を奨励しています。そして、理想的な分散型発電技術として、FC コジェネレーションは、工業メーカー、特に電力供給が不足する可能性の高い沿岸部に位置する副生水素供給業者を中心に、人気が出る可能性があります。
第三に、FCコジェネレーション技術は、世界的に展開されているサステイナビリティの目標に合致しています。中国の2060年までのカーボンニュートラルターゲットとグロバールに展開するサステイナビリティのトレンドを受けて、大手化学メーカーは、CSRおよび環境に優しいメーカーとしての企業イメージの構築を目的とし、FC コジェネレーションシステムを採用する傾向が生まれると考えられます。
以上、まとめますと、国や地方レベルの政策指導、カーボンニュートラル目標、世界的なサステイナビリティのトレンドなどを考慮すると、2020年に有望なスタートを切った中国のFCコジェネレーション産業は、着実に成長していくことが期待されます。
References
- MOST. 2020-03-23. 科技部关于发布国家重点研发计划“制造基础技术与关键部件”等重点专项2020年度项目申报指南的通知.
- 人民网. 2020-12-24. 巨化集团与日本企业签署合作项目.
- 凤凰网. 2020-12-16. 多年不见!湖南、浙江多地“拉闸限电”,什么原因?
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