この記事を共有する:
記事の閲覧数:175
 ■ 日付: 2021年5月14
【中国の水素サプライチェーンの今後(1)---製造】
 
 
2020年は多くの業界にとって厳しい一年だったが、水素業界は中国政府からいくつかの良いニュースを受け取った。国家レベルでは、省政府がエネルギー統計の報告システムや改正エネルギー法に水素を含めることで、水素をエネルギーとして法的に認めている。地方レベルでは、ますます多くの政府が水素および燃料電池自動車産業の開発計画を発表している(図1)。
 
図1
 
地方自治体に共通しているのは、長期的にはpower-to-gasを推進し、再生可能エネルギーを活用したゼロカーボン水素製造を行うことである。最もクリーンな燃料である水素は、2060年までにカーボンニュートラルを達成するという中国の野望に貢献できるというのがその理由である。【エコチャイナ:炭素排出量取引がいかに低炭素経済を育むか】。もうひとつの重要な理由は、水素が、再生可能エネルギー発電の不安定性によって引き起こされる棄電や不均衡などの課題の解決策となることである。【中国が水素エネルギーを推進する4つの理由(その1)
 
今後30年間で、燃料電池用水素の製造にはどのようなエネルギー源が利用できるのか?脱炭素化にはどのようなビジネスチャンスがあるのかを探ってみる。
 
3種類の水素
 
 水素製造には、製造過程で発生する排出物をもとに、グレー、ブルー、グリーンの3種類に分類される。
グレー水素は、化石燃料から生成され、大量の二酸化炭素を排出する。
ブルー水素は、化石燃料や化学物質(苛性ソーダ、プロパン、エタンなど)から生成され、炭素回収・貯留(CCS)技術の実施により、低炭素基準値(14.51kgCO2e/kgH2)*を満たすものをいう。
グリーン水素は、再生可能エネルギーから生成され、炭素排出量が4.90kgCO2e/kgH2*以下で、最もクリーンな水素。
*排出量は、中国水素連盟の最新団体標準「低炭素水素・クリーン水素・再生可能水素の規格と認証制度」に準拠している。
 
水素製造の3つの開発段階
 
 我々の仮定によれば、中国は2020年から2050年の間に、ブルー水素やグレー水素からグリーン水素製造への移行において、3つの発展を遂げることになる(図2)。
 
図2
 
短期的(2020-2025年)には、不純物や排出物が少ないことから、化学物質(主に苛性ソーダ、プロパン、エタン)を原料とする工業複製水素とグレー水素が主要な供給源となろう。
 
図3
 
現在、水素の約98%が工業用原料として使用されており、グレー水素が主要な供給源となっている。グレー水素の製造コストが最も低く(約10人民元/kg)、全国的に見ても豊富な化石燃料を有するにもかかわらず(図4)、特に山東省、江蘇省、広東省、遼寧省などの沿岸部では、排出ガスや不純物の問題から、グレー水素は燃料電池への応用には適しておらず、持続可能ではない。
 
図4
 
最新の国家報奨政策である 「燃料電池自動車実証応用の開発に関する通知」【報奨政策分析】 では、15kgCO2/kgH2未満の水素製造には3人民元/kgの報奨を受けられるとされているから、大量の二酸化炭素を排出するグレー水素の製造は奨励されていない。この点では、ブルー水素とグリーン水素のみが、この排出規制基準を満たすことができる。将来的には、国の政策を基準にした報奨金額で同様の地方の報奨政策が打ち出されることが期待できる。この場合、ブルー水素とグリーン水素のサプライヤーには6人民元/kgの報奨金が与えられ、これは廃棄電力資源を利用したグリーン水素の製造コストの40%に相当する。 
 
 また、最新の国家規格であるPEM型燃料電池車燃料(GB/T 37244-2018)では、不純物を含む水素が所定のレベルよりも高いと、燃料電池に損傷を与え、寿命を縮める可能性があるため、6種類の不純物がppmレベル以下になるよう規定されている。精製技術と不純物検査技術の未熟さが、グレー水素を燃料電池に応用する際の2つの主な障壁となっている。 
 
図5
 
その代わり、圧力変動吸着法(PSA)処理後の副生水素は、不純物の少ない99.99%-99.999%の純度に達し、PEM型燃料電池車の使用に適している。中国では、浙江省、江蘇省、山東省などの華東地域が化学品を原料とする工業副生水素の供給で主導的な役割を果たしており、広東省、遼寧省がこれに続く (図6) 。現段階では、塩素・苛性ソーダメーカーが副生水素の主要サプライヤーである。今後10年間で、プロパン脱水素(PDH)とエチレンの化学メーカーは、副生水素の主要サプライヤーとして、塩素・苛性ソーダメーカーを追い越すと予想される。なぜなら、電解ソーダ工業はすでに成熟しており、PDHとエチレン産業は大きな発展の可能性を秘めているからである。
 
図6
 
理論的には、水素を精製する際に余分な温室効果ガスは発生しない。最大の欠点は、副生水素の供給が需要に応じて行われないことである。具体的には、実際の水素需要ではなく、主要な工業製品の需要によって決定される。この場合、水素の供給は、化学工業の生産量に応じて変動するため、不安定で限られたものとなる。
 
 同時期に、廃棄電力資源から少量のグリーン水素を製造し、実証プロジェクトに供給する(図7)。例えば、河北省では、2022年の北京冬季オリンピックで走行する燃料電池バスにグリーン水素を供給するために、棄風を利用したpower-to-gasプロジェクトを開発することに成功している。その他のプロジェクトは、主に北部地域や四川省で行われている。
 
図7
 
中国のpower-to-gasプロジェクトは、廃棄電力資源の分布と同様のレイアウトを示している(図8)。中国では、再生可能エネルギーは中国の西北部と西南部に集中している。新疆や内モンゴルは風力や太陽光発電の資源が豊富で、水力発電は四川省に集中している。  このような分布の類似度から、棄電を減らし、電力使用率を高める方法として、水素が推奨されている (図9)。
 
図8
 
図9
中期的(2026年~2035年)には、全国の水素燃料の大半は、工業副産物や廃棄電力資源によって供給されるだろう。
 
図10
 
2035年までに、副生水素の年間生産量は300万トン程度と低迷し、燃料電池車の年間需要(430万トン程度)には及ばないと予測される。グリーン水素は、中国西北部の低コストの廃棄電力資源を活用することで、競争力のある製造コスト(12.2-15人民元/kg)を実現し、供給不足を補うことができるが、水素製造の設備投資額は依然として高いままである。さらに、電力の需給ギャップを最小化するためのパワーバランスマネジメントの重要な手段として、power-to-gasが行われていることも、供給量が着実に増加している理由である(図11)。しかし、地域の資源や貯蔵・輸送技術の制約から、製造したグリーン水素をすべての需要地に供給することは難しい。したがって、精製技術やCCS技術が進歩し、価格競争力が形成されれば、石炭ガス化は、山西省などの石炭資源地域においてもう一つの主要な水素供給オプションとなるだろう。 
 
図11
長期的(2036年~2050年)には、再生可能エネルギー(主に風力・太陽光)の設備容量の増加と発電コストの削減により、グリーン水素が主流の供給となるだろう。 
 
図12
 
再生可能エネルギーは、中国における有望な水素供給源であり、中国水素連盟の試算によると、2050年には水素の約70%を供給するとされている。その理由の一つは、巨大な生産能力である。中国は北部と西南部の豊富な再生可能資源を利用し、国内外の水素燃料需要に対応している。もう一つの理由は、水素製造の設備投資額が抑えられたことで、水素が廃棄電力資源やオングリッド電力を消費することができるからである。これは、中国が2060年までにカーボンニュートラルの目標を達成するために、再生可能エネルギーの導入規模が拡大するにつれ、再生可能エネルギーの発電設備投資額が徐々に火力発電の水準を下回ると予測されるためでもある。これまでに、SPIC、CNE Energy、China Huaneng Groupなど、いくつかの国有エネルギー投資グループや発電事業者が、中国各地で廃棄電力資源を利用したpower-to-gas実証プロジェクトを開始している(図7)。しかし、再生可能エネルギーの発電コストが高いことから、オングリッド電力を利用したグリーン水素の集中管理型生産は現在経済性が無く、再エネ発電コストと水素製造の設備投資額が将来十分に低下した場合にのみ、経済的な供給源となりうるだろう。 
 
 主流の水電解法に加え、長期的にはバイオマスガス化と微生物変換が先進的な製造技術である。バイオマスエネルギーは、グリーン水素製造に大きな可能性を秘めており、1日400トンの生ゴミから燃料電池バスや物流トラック1000台分の水素を供給することができる。Hynertech、Tri-Ring Group、Wuhuan Engineeringは、1日約12000トンの廃棄物が供給される武漢で、生活廃棄物から製造した水素キャリアの実証プロジェクトを開始しており、中国において大きな未開拓の市場になる可能性がある。
 
 中長期的には、再生可能資源地域と主要な水素需要地との間にギャップがあることが注目される。このギャップを埋めるためには、国内での水素流通のための様々な規模の貯蔵・輸送技術を開発する必要がある。例えば、大量の水素を西から東へ輸送するために、液体タンクローリーを使用することができる。水素貯蔵・輸送手段の今後の発展についてのより詳細な分析は、【中国の水素サプライチェーンの今後(2)--- 貯蔵・輸送】を参照されたい。 
 
ビジネスチャンス
 中国のグリーン水素製造への移行は、投資家やメーカーが注目すべき、いくつかの有望な新興市場を示している。
 
1. PSAおよびCCS技術。短期的には、精製技術や炭素回収技術の未熟さとコストの高さから、化石燃料を原料とする水素製造の商業化は不可能である。現在、国内のプレーヤー(Jaran Hydrogen Energy Technology、Ally Hi-techなど)が精製のデモプロジェクトを開始しているが、商業化には至っていない。一方、複数の国有エネルギー企業(CNPC、Sinopec、CR Powerなど)が率先してCCS実証プロジェクトを立ち上げているが、炭素回収コストは300-900人民元/トンCO2と依然として高い。このように、低コストで高度な精製技術やCCS技術に特化した国際企業は、中期的な水素燃料市場におけるブルー水素の普及が見込まれることから商機があるだろう。特に、中国政府は大量の化石燃料を環境に優しい方法で利用しようとしているため、CCS事業は新疆、山西、遼寧、山東などの石油・石炭資源地域で奨励される可能性が高い。 
 
2. 電解槽。 大規模で費用対効果の高いグリーン水素製造を長期的に実現するためには、電解槽とその主要部品の進歩が不可欠である。これまでのところ、中国は大規模水素製造用のALK電解槽においてコスト面で優位に立っており、 Suzhou Jingliがその一角を担っている。PEM電解槽は製造コストが高く、生産量が限られているため、大規模生産には至らず、SOEC電解槽はまだ研究段階にある。電解槽メーカーや主要部品メーカーは、グリーン水素の新興市場、特に棄電問題を解消するために地方政府が水素を積極的に推進している中国北部や西南部の市場に注目する価値がある。
 
3. 水素燃料の不純物試験。水素燃料の需要が高まると想定される中、国家燃料規格 (GB/T 37244-2018) の規制により、不純物試験の需要が大きくなる (図5) 。認定された試験装置がないため、中国は将来の試験需要を満たすことができない。今のところ、自社開発技術で水素燃料の不純物試験作業を行う資格を持つ国内機関は1社(Sinopec Research Institute of Petroleum Processing)のみである。中国の水素燃料市場にサービスを提供するためには、より多くの国際的な試験機関や試験機器サプライヤーが必要である。 
 
■ 新規入会登録はこちらから(会員登録は無料。ご登録頂くと会員限定のサンプルレポートの閲覧・ダウンロードの閲覧が可能になります)
 
この記事に関して自由なご意見・ご質問を募集しています!下のコメント欄に記入お願いします。
 

1つのコメント有り