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 ■ 日付: 2021年5月14
【中国の水素サプライチェーンの今後(2)--- 貯蔵・輸送】
 
 
前回の記事「中国の水素サプライチェーンの今後(1) --- 製造」では、2050年の水素製造について、ブルー水素、グレー水素からグリーン水素へと移行する3つの開発段階を紹介した。 今回の記事では、グリーン・トランジションに伴い、需要と供給の架け橋となる、水素の貯蔵と輸送について紹介し、それに基づいて将来の水素供給システムについて議論する。
 
中国における水素貯蔵・輸送の概要
 
 水素は、大別すると、圧縮気体水素、極低温液体水素、水素キャリアの3つの形態で貯蔵・輸送することができる。(貯蔵技術の詳細については、【中国における水素貯蔵技術の概要】をご参照されたい)圧縮ガス輸送は、短距離や小規模な需要に適しており、チューブトレーラーやパイプラインで輸送する。極低温液体水素は、長距離輸送や大規模な需要に適しており、ガス状水素を液化して大きな断熱タンクに貯蔵する液体タンカーで輸送する。水素キャリアとしては、極低温液体水素よりも液体有機水素キャリア(LOHC)の方が、貯蔵中に化学的に安定しており、輸送中のボイルオフ損失が非常に少ないため、長期貯蔵や長距離輸送に適している。また、マグネシウム基水素化物に代表される金属系水素化物は、耐熱性、振動吸収性、可逆性、リサイクル性などの機能性に優れている。現在、LOHCも金属水素化物も研究開発の初期段階にあり、中国では商業化に至っていない。しかし、このような新しいキャリアを適用することは、現在の水素供給のあり方を大きく変えることになる(図1)。
 
図1
 
水素貯蔵・輸送の3つの開発段階
 
 中国水素連盟によると、水素製造のグリーン・トランジションとともに、水素貯蔵・輸送の開発も2050年までに3つの段階を経ると想定されており、水素・燃料電池技術の発展に向けて水素貯蔵・輸送方法も多様化していくとしている(図2参照)。 
 
図2
 
INTEGRAL社の推計によると、2025年までに燃料電池車の水素需要は年間89万トンに達し、主に長江デルタ地域、京津冀地域、珠江デルタ地域から供給され、工業副生水素が主な供給源となり、同地域における2022年の副生水素供給能力は年間120万トンを超えると推定されている(図3参照)。
 
図3
 
図4に示すように、地域の副生水素により、地域の水素需要を完全に満たすこと(地産地消)ができるため、チューブトレーラーは小規模かつ短距離の輸送に最も経済的なツールである。
 
図4
 
今のところ水素輸送の主流手段となっているが、チューブトレーラー輸送にはまだいくつかの欠点がある。 例えば、チューブトレーラーの貯蔵容量は、他の方法に比べて非常に小さい(約1.1wt%)。さらに、チューブトレーラーの輸送コストは距離に左右されるため、輸送半径が約300kmを超えるような長距離輸送には向かない。
 
中期的(2026年-2035年)には、INTEGRAL社の試算では、中国における燃料電池車の総需要は年間430万トンに達すると予測される。燃料電池車市場が成長を続ける中で、工業副産物と再生可能エネルギーが全国で最も多くの水素燃料の供給源となり、CCS技術を用いた化石燃料由来のブルー水素がそれを補完することになるだろう。水素貯蔵・輸送については、2つの問題が考えられる。一つは、拡大し続ける地域の水素需要により地域の副生水素供給だけでは需要を十分に満たすことができないことである。もう一つは、再エネ資源地域と主要な水素需要都市との地理的な距離である(図5)。 
 
図5
 
この場合、チューブトレーラーによる輸送は非常に高コストとなり、また水素貯蔵容量も低いため、最適なソリューションとは言えなくなる。そこで登場するのが、極低温液体水素とLOHCだ。
 
 より高い貯蔵密度(約14%)と水素純度を持つ極低温液体水素は、大量かつ長距離の輸送においてより経済的な選択肢となる。しかし、極低温液体輸送の課題としては、ボイルオフの可能性(ボイルオフ率は1日あたり通常約0.6-1%)、大量の電力を消耗する液化プロセスなどが挙げられる。
 
 極低温液体水素に比べ、LOHCは常温常圧で輸送できるため、安全性が高く、エネルギー消費量も少ない。また、漏洩や爆発のリスクがないため、極低温液体水素よりも長期貯蔵に適している。将来的には、再エネ廃棄電力資源で生成された水素が大量に製造・貯蔵されている生産拠点で、集中管理型にLOHC水素化プラントを稼働させるなどの応用が考えられる。しかし、LOHCの(脱)水素化プロセスが不安定なため、高純度水素を保証する点において課題がある。
 
 車輌輸送以外の方法としては、天然ガスのようにパイプラインで水素を輸送することも可能で、特に大規模な輸送に適している。現在、中国では、初期投資の高さ、水素脆化 (HE) 防止に必要な特殊鋼材、政府の支援などの理由から、水素パイプラインの拡充は進んでいない。もう一つのソリューションは、既存の天然ガスパイプラインを活用した水素混合圧縮天然ガスであり、この方法により水素輸送規模を拡大し、排気ガスを削減し、エネルギーを節約することができる。欧州では水素混合圧縮天然ガスの実証プロジェクトが開始されているが、中国では1件の実証プロジェクトしか実施されていない。今後の課題としては、水素と天然ガスの混合比率の最適化、漏洩や爆発のリスクの低減などが挙げられる。
 
 長期的(2036年-2050年)には、再生可能エネルギーが水素製造の主な供給源となり、再エネ資源地域と主要な水素需要市場との地理的なギャップが深まると予想される(図6)。この時期には、多様な輸送技術が共存し、多様な水素需要や省をまたいだ長距離輸送の需要を満たしていくことになるだろう。
 
図6
 
新規の水素キャリアは、その利便性と安全性から、長距離輸送の手段として商業化されることが期待される。新しい水素キャリアのボトルネックは、寿命が短いこと、貯蔵容量が少ないこと、(脱)水素化プロセスの高温要件などが挙げられる。また、中国から海外へ水素を輸出するための手段として、極低温液体水素や鉄道・船舶で輸送する水素キャリアが開発されるだろう。
 
水素サプライチェーンのビジョン
 
 2035年以降、中国の水素サプライチェーンは、さまざまな水素貯蔵・輸送手段と超高圧送電網で構成され、再生可能資源地域と主要な水素需要市場との地理的ギャップを埋めるもう一つの解決策となる(図7)。
 
図7
 
このビジョンでは、再エネ発電コストの低減が大幅に進み、超高圧送電網の構築が全国的に普及することにより、水素製造拠点が再エネ資源地域側から水素需要地域側に拡大することが予想される(図8)。超高圧送電網により、再生可能資源地域から水素需要地域まで、グリーン電力を低損失かつ大容量で送電することができる。例えば、±1100kV/12GW超高圧送電線の平均損失率は1.5%/1000kmで、通常の±500kV/3GW送電線よりも5.4%低い。(超高圧送電網の詳細については、【ゲームチェンジャー:スマートグリッド】をご参照ください。)ちなみに、日量2000kgの極低温液体水素を供給する場合の理想的なボイルオフ損失は、1.2-2%/1000km程度で、超高圧送電線と同様である。しかし、送電コストは5.5-12人民元/kg H2と、極低温液体水素の輸送コストである13-15人民元/kg H2よりも、超高圧送電網の方が有利である。
 
図8
 
中国国内での水素の流通については、大きく分けて3つのシナリオが共存することが予想される(図8)。
 
シナリオ1では、中国北部および西南部にある集中型の再エネ発電所で水素を製造し、大量に貯蔵し、タンカー、船舶、列車などを利用し、需要地に輸送する。中期的には、現在のpower-to-gas実証プロジェクトで行われているように、再生可能エネルギーの導入拡大に伴うパワーバランス調整を行うために、再エネ発電の余剰電力による水素製造が継続されるだろう。このシナリオでは、需要のピーク時に水素の一部が発電に再利用され、余った水素は水素需要家に販売されることが想定され、水素の製造に伴い、水素キャリアのような大容量の水素貯蔵技術が必要となる。液体タンカーや船舶のような輸送手段は、省間、地域間、さらには国際輸送にも使用されるだろう。
 
 シナリオ2は、水素ステーション、工場、建物などの再エネ資源地域から超高圧送電網を介して送電されるオングリッド電力を利用し、需要地で水素を製造するものである。このシナリオで製造される水素は、主に地産地消で消費される。このシナリオでは、オングリッド電力価格の低減、水素製造設備投資の低減、超高圧送電網の整備という3つの前提条件があることに注目すべきである。理想的には、個々の水素需要に応じてその場で水素を製造し、輸送コストをゼロにすることである。小規模な水素貯蔵のケースでは、定置式ガスシリンダーが利用されるだろう。
 
 シナリオ3は、需要のオフピーク時の余剰電力を利用し、集中型水素製造プラントで水素を製造するものである。このような水素プラントは、実際の水素需要や輸送コストに応じて柔軟に設置できる。増え続ける水素需要に対応するために、オングリッド電力から大量の水素を製造し、水素供給の不安定さを補う。例えば、発電事業者が国営電力会社と提携し、需要地の水素製造プラントに投資し、オフピーク時の電力を利用して水素を製造するケースが考えられる。この方法で製造された水素は、超高圧送電網の輸送コストが低いため、より安価に販売することができる。水素を販売する前の大量貯蔵には、水素キャリアが使用されるだろう。省内の需要地へのラストマイル配送には、チューブトレーラーとパイプラインが使用されるだろう。輸出企業の場合は、液体タンカーや船舶などの長距離輸送手段を使って海外に輸送するだろう。
 
まとめ
 
 今後 30 年で、超高圧送電網と組み合わせた多様な水素貯蔵・輸送手段が共存し、中国における包括的な水素供給システムが構築されるであろう。中期的(2026 年-2035 年)には、再エネの普及に伴うパワーバランスマネジメントの需要とスケーラビリティを考慮し、シナリオ 1 が主流の供給となると想定される。長期的な水素供給契約は、安定した川下市場と合理的な投資収益を確保するための鍵となる。長期的(2036年-2050年)には、再エネのパワーバランスの問題が解決され、超高圧送電網が完成すると、シナリオ2と3が登場し、シナリオ1と共存することが予想される。大容量・長距離の貯蔵・輸送手段と超高圧送電網のインフラは、国内外の配送システムの要となるだろう。
 
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