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 ■ 日付: 2021年5月19日
【中国でグリーン水素への道を拓く:水電解装置メーカーの取り組み】
 
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はじめに
 中国は現在、グリーン水素(再生可能エネルギーによる水の電気分解で製造される水素)の可能性を引き出している。2060年までにカーボンニュートラルを目指す中国では、炭素強度が最も低いグリーン水素が、経済の脱炭素化とバリューチェーン全体での新たなビジネスチャンスの創出に重要な役割を果たしている。 
 
 中国では、2035年までにグリーン水素が経済的に実現する可能があるが、中国国内の水電解装置メーカーは、この急成長する市場を取り込むための布石を敷き始めている。しかし、このビジネスを完全に商業化するためには、まず経済的・技術的な障壁を取り除かなければならない。この記事では,これらの問題点にどのように対処し,それらの観点からグリーン水素の可能性を実現する方法について考察する。
 
障壁1:グリーン水素の製造平準化コストは、他の種類の水素と比べて優位性がない。 我々の推計によると、水電解からの水素は,グリッド電力を使用する場合には40-50人民元/kgで、工業副生水素(14-16人民元/kg)または石炭ガス化による改質水素(-11人民元/kg)の2-3倍のコストがかかる。
 
障壁2:中国では再生可能エネルギーが急速に普及しており、発電電力の変動が大きいため、再生可能エネルギーへの適応性は、水電解装置に新たな技術的課題をもたらす。
 
1. グリーン水素のコスト削減
 一般的にグリーン水素の平準化コスト(図1参照)は、固定費(水電解装置、純水装置、設置工事、土地など)と変動費(電気代、水代、メンテナンス代)で構成されている。その中でも 1)グリーン水素のコストの約85%を占める最大のコスト要素は電気であり、2)二番目に大きいコスト要素は水電解装置である。次に、この2つの領域でのコスト削減の取り組みについてそれぞれ紹介する。
 
図1. 中国におけるグリーン水素の平準化コスト構造
出典:香橙会研究院¹
 
1.1 水電解装置の高効率化による電力コストの削減と再生可能エネルギーのコスト削減
電力コスト(人民元/Nm3 H2)=消費電力(kWh/Nm3 H2)× 再生可能エネルギー電力価格(人民元/kWh)
 
この式で示されるように、1)水電解装置の消費電力、2)再生可能エネルギー電力価格が電力コストの二つの要因である。 
 
電力消費量:水電解装置の重要な指標
 コスト削減の方法としては、水電解装置の効率を向上させ、生成される水素単体あたりの消費電力を低減することが挙げられる。現在、中国にはアルカリ型とPEM型の2つの水電解技術が普及している(表1参照)。中国のアルカリ水電解技術はより成熟し商業化されているが、電解効率は60-75%と限られている。一方、PEM型水電解装置は電解効率が70-90%とより電気ロスが少なく高度な技術であるが、まだ商業化の初期段階にある。
 
表1. アルカリ型とPEM型の水電解装置の比較
出典:INTEGRAL社のまとめ
 
 中国の主要水電解装置メーカー(アルカリ型、PEM型とも)の現状を見ると、消費電力効率の面では、製品開発の歴史が長いアルカリ型がリードしている(図2参照)。しかし、この2つの技術開発ロードマップを見ると、PEM型は、最終的な目標値は3.8kWh/Nm3という低消費電力の実現を目指しており、今後アルカリ型よりも技術改良の余地が大きい。
 
図2. 中国の主要メーカーの電力消費量
出典:INTEGRAL社のまとめ
 
再生可能エネルギーの電力価格:再エネ廃棄電力資源の利用と将来のオングリッド価格の低減
 グリーン水素の製造は、オングリッド電力もしくは再エネ廃棄電力を消費することで行われる。実際、水素は、特に中国の北部・西北部において、再生可能エネルギーの発電変動性がもたらす電力供給不安定化や棄電などの問題点に対応するための重要なエネルギーキャリアとして位置付けられている。【中国が水素エネルギーを推進する4つの理由(その1)】2018年に算出された水力、風力、太陽光発電の棄電総量(図3のデータによると~837.2億kWh)は、年間で167.44億Nm3まで達しており、149万トンの水素に相当する(消費電力を5kWh/Nm3とした場合)。さらに、再エネの廃棄電力は通常は発電機会の損失として利用されることがないため、中国最大の国有電力会社であるChina Energy社によると、廃棄電力部分の電力価格は0.2人民元/kWhという低コストで利用することができる。
 
図3. 中国における廃棄された再生可能電力(2018年) 
出典:NEAおよびNDRCのデータに基づくINTEGRAL社のまとめ
 
 産業界では、水素のコストがディーゼル燃料と比較して競争力を持つためには、35人民元/kg以下まで低下する必要があると考えられている。貯蔵、輸送、燃料補給の総コストが理想的には10-15人民元/kgであることを考えると、水素製造コストは15人民元/kg以下でなければならない。我々の試算では、これを達成するには、水電解の場合、電力コストは0.22人民元/kWh以下に抑えられなければならない。再生可能エネルギー発電の規模拡大に伴い、2050年には中国の一次エネルギーの61%を再生可能エネルギーが占めることが目標とされており、再エネ普及に伴い発電コストは今後も一定のペースで下がり続けることが予想される。例えば、太陽光の発電コストは2025年には0.3人民元/kWh、2035年には0.2人民元/kWhまで低下するという試算も存在する²。我々の考えでは、これが実現した場合、それまでは経済性が無かったグリッド電力を直接利用した目的製造での水素製造が可能となり、国内の水素需要を満たすためにその製造スケールは飛躍的に拡大するだろう。
 
1.2 中国のコア競争力となる低コスト水電解装置
 現在、中国製の水電解装置は、海外の競合他社に比べ、アルカリ型で5分の1、PEM型で10分の1という絶対的なコスト優位性を持っている。中国の電解装置メーカーに取材したところ、アルカリ型のベストケースは1500人民元/kW(1000m3/h装置で750万人民元)という低価格であることがわかった。その理由は以下の通りである。
 
・市場ポジショニング
 中国と海外の電解装置は異なる顧客層をターゲットにしている。例えば、Air Liquid社、Linde社、Air product社などのハイエンド顧客は、製品の高純度化、起動時間の短縮などを要求し、一定の認証も必要とする。一方、品質への要求が相対的に低い顧客に対しては、中国メーカーは材料費や研究開発投資などのコストを抑え、低価格で提供する余地がある。
 
・国内供給
 さらに、部品や労働力を現地で調達することで、さらなるコスト削減が可能となる。PEMやダイヤフラムを輸入している場合もあるが、これらの部材のシステム全体のコストに占める割合は僅か5%以下である³。例えば、バイポーラプレート(総コストの3-24%)³、コンバーターやインバーターなどのパワーエレクトロニクス部品(総コストの20-30%)³など、その他の部品を現地で調達することにより、大幅なコスト低減を実現している。
 
・政府支援
 政府はクリーン水素の製造を促進するために、国や地方レベルでいくつかの政策を発表した。例えば、最近中央政府が発表した水素燃料電池車商業化に関するモデル都市奨励金政策では、低炭素水素(ブルー水素)とクリーン水素(グリーン水素)の製造を奨励しており、クリーン水素は3人民元/kgの水素製造補助金を得ることができる。また、多くの地方政策が水電解水素製造の開発を促進している。これとは別に、中国の電解装置メーカーは政府が後援する研究プロジェクトに参加し、研究開発費を補助するための資金援助を受けることができる。
 
 具体的には、中国の電解装置メーカーは、内部でコストを管理し、外部からの融資を確保するという独自の方法をとっている(表2参照)。例えば、触媒に使われる貴金属の使用量を減らすための研究を開始したり、PEMやダイヤフラムなど、未だに輸入に頼っている主要技術の内製化のための研究開発を進めている。製造能力を拡大してスケールメリットを実現する一方で、政府の資金援助や設備投資支援などの財政支援を受けている。 
 
 
表2. 中国の主要メーカーのコスト管理と財政支援
出典:INTEGRAL社のまとめとインタビュー
 
2. 再生可能エネルギーへの適応性
 従来、水電解装置は小規模な産業用に製造されていたが、水電解の規模が大きい再生可能エネルギー発電の特徴に合わせて再設計する必要がある。第一に、電解装置の水素製造能力を拡大すること、第二に、広範囲の電力変動に対応することが必要である。 
 
2.1 水電解装置の水素発生量の増加
 再生可能エネルギーによる水素製造の潜在的な市場性を引き出すため、中国メーカーは電解装置の容量を拡大している。ml/minレベル、Nm3/hレベル、そして現在はMWレベル(~200Nm3/h)と段階を踏んでいる。現在、中国の最先端アルカリ型水電解装置の水素発生量は1000Nm3/hを超え、PEM型は200Nm3/hに達し、いずれもMWクラスに突入している(図4参照)。 
 
 製造能力の拡大は、パートナーとの協力や、国や省の研究開発プロジェクトへの参加を通じて現在も進行中である。 例えば、Suzhou Jingliは、China Energy社が主導する国家重点研究開発プロジェクト「風力・太陽光ハイブリッド発電を利用した大規模水素製造」(2019年-2022年)に参加しており、中国最大級の容量となる1500Nm3/hの電解装置の開発に着手している(この製品は、2020年の発売を予定していたようであるが、企業ホームページにはそれに関する情報が見当たらない)。また、2021年には3000Nm3/h、2023年には5000Nm3/hまで容量を増大する計画も発表している。また、欧州の再生可能エネルギー水素製造市場に参入するため、ベルギーのJohn Cockerill社と合弁会社を設立し、同社の資本支援を受けるなど、国内外の需要取り込むための計画を進めている。 
 
 同様に、山東省のSaikesaisiは「MW級固体高分子型水電解水素製造」という国家重点研究開発プロジェクトに参加し、水素発生能力を130Nm3/h(単機)と260Nm3/h(システム)に拡大している。中国船舶重工集団公司(CSIC)第七一八研究所(PERIC)も次の開発段階として、水素発生量を1500Nm3/h(アルカリ型)、300Nm3/h(PEM型)にすることを計画している。 
 
 
図3:中国の主要メーカーを対象とした単機電解装置の水素発生量の比較
出典:INTEGRAL社のまとめ
 
2.2 広範囲な電力変動への対応
 再生可能エネルギーを利用するためには、日・季節ごとの気候変動や異なる気象条件の変動による電力負荷に柔軟に対応できる電解装置が必要となる。そのため、広範囲な電力変動にいかに対応するかが、各電解装置メーカーの研究開発活動や研究プロジェクトの焦点となっている。 
 
 一般的に、PEM型水電解装置は、アルカリ型(公称負荷15-100%)に比べて負荷範囲が広く(公称負荷0-160%)⁴、再生可能エネルギーの消費に適していると言われている。例えば、中国船舶重工集団公司(CSIC)第七一八研究所(PERIC)は、水素出力の大きいアルカリ型と水素出力の小さいPEM型の両方の技術を保有しているため、これらを組み合わせて広い出力範囲を調整するという戦略をとっている。現在、第七一八研究所は、アルカリ型とPEM型の両方を含む技術を検証するために、いくつかの実証プロジェクトを開始している(表3参照)。 
 
 
表3. 中国船舶重工集団公司(CSIC)第七一八研究所(PERIC)のPower to Gasプロジェクトリスト
出典:INTEGRAL社のまとめ
 
まとめ
 現在、水電解による水素製造は、中国の水素製造量のごく一部(2016年は1%)を占めるに過ぎず、グリーン水素はブルー水素やグレー水素に比べ、普及は遠い先のものとして考えられてきた。しかし、直近の政府支援と業界のプレイヤーの積極的な参加により、水電解による水素製造が既に活発化し始めている。 
 
 将来、グリーン水素の普及が実現する条件としては、1)再生可能エネルギーの発電コストと電解装置の設備コストの低下により、2035年までにグリッド電力を利用したグリーン水素の平準化コストが経済的に実現可能になること、2)再生可能エネルギーの特性に適応した電解装置の開発、などが挙げられる。安定した大容量のベースロードグリッド電力を消費するアルカリ型、変動する再エネ発電における電力供給量を調整するためのPEM型など、再生可能エネルギーを利用する様々なシナリオが検討されている。グリーン水素のスケールアップを加速させるために、今後さらなる研究、実証プロジェクト、産業チェーンの連携が期待されている。
 
出典:
1.香橙会. 2020.12 可再生能源制氢经济账: 电价低于2毛6就有成本优势(附实测数据模型)
https://www.163.com/dy/article/FUP4SN5B0519EFR3.html
2. China EV100. 2020.10 中国氢能产业发展报告2020 
http://www.ev100plus.com/content/details1041_4302.html
3. International Renewable Energy Agency (IRENA). 2020 Green Hydrogen Cost Reduction: Scaling up Electrolysers to Meet the 1.5℃ Climate Goal  
https://irena.org/-/media/Files/IRENA/Agency/Publication/2020/Dec/IRENA_Green_hydrogen_cost_2020.pdf
4. IRENA. 2018 Hydrogen from renewable power: Technology outlook for the energy transition 
https://www.irena.org/-/media/Files/IRENA/Agency/Publication/2018/Sep/IRENA_Hydrogen_from_renewable_power_2018.pdf
 
 
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