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■ 日付: 2022年1月4日 
*こちらの記事は、2021年7月23日の弊社英文ブログ Blockchain – Game Changer in Energy Industryを翻訳したものになります。
ブロックチェーン - エネルギー産業のゲームチェンジャーとなるか
この記事の筆者
 
<ポイント>
1. 暗号通貨(仮想通貨)のマイニングは、主にその基盤となるアルゴリズムであるプルーフ・オブ・ワーク(PoW)が原因で、エネルギーを大量に消費する。しかし、他のコンセンサス・アルゴリズム(PoS、Po A、PoB)を採用したブロックチェーンにおいては、深刻なエネルギー問題は発生しないと考えられる。
 
2. 中国のエネルギー分野では、分散型電力市場や炭素排出権取引市場などでのPeer-to-peer取引、EV向け充電ステーションにおける個人所有者間でのEV充電サービス、そして、発電所から消費者までの再生可能エネルギーのトレーサビリティという、3つの将来性のあるビジネスエリアにおいて、ブロックチェーンが、事業効率を大幅に向上させる可能性がある。
 
このブログの内容に関心のある方は、こちらのレポートもご参照ください。:【中国におけるブロックチェーン】

ビットコインのマイニングには、かなりのエネルギーがかかることが、よく知られている。マイニングによる気候変動への影響が懸念されることから、テスラのCEOであるイーロン・マスク氏は、マイナー(採掘者)による合理的な(50%程度)クリーンエネルギーの使用が確認されない限り、ビットコイン取引を拒否すると発表した。(出典:CNBC. 2021.6.14. Musk says Tesla will accept bitcoin again as crypto miners use more clean energy)。一方で、中国では、政府が厳しい禁止令を出したため、現在、暗号通貨は、全国的に閉鎖されている状態である。 
 
しかし、ブロックチェーン自体がエネルギーを大量に消費するわけではない。それどころか、中国では、この技術はエネルギー分野を含む多くの分野をカバーして高度に推進されている。この記事では、まず、ブロックチェーンではなく、暗号通貨が禁止されている理由を、エネルギー消費の観点から説明した上で、エネルギー産業におけるブロックチェーンのビジネスチャンスを明らかにする。また、中国におけるブロックチェーンのインフラ整備、主要プレイヤー、一般的活用事例については、前回、掲載したブロックチェーンの記事も参照いただきたい。(暗号通貨(仮想通貨)なくして、中国のブロックチェーンはどこに向かうのか?  – インフラ、主要プレイヤー、活用事例参照)
 
ブロックチェーンにおけるエネルギー消費問題
 
ビットコインが世界中で最も人気のあるデジタル資産になるにつれ、エネルギー消費量が多いことで批判されるようになった。ビットコインのマイニングビジネスでは、年間133.68TWhのエネルギーを消費する(最低効率のマイニング・コンピューターを使った場合の推定値)。これは、スウェーデンの年間電力消費量に相当するエネルギー量である。
 
これを踏まえると、電気代が安い地域というのは、ビットコイン・マイニング企業にとって、当然、魅力的に映る。世界的に見ても、中国は豊富な資源、十分なインフラ、安価な電力と労働力というメリットがあり、エネルギーを大量に消費するマイニング・コンピューターを置くのに理想的な国であった(2021年7月に国内での暗号通貨マイニングが禁止される前)。中国西南部では、特に四川省、重慶市、雲南省が、莫大な水力発電に支えられたメガワット級のマイニングの中心地であった。そして、中国北部では、黒龍江省、遼寧省、内モンゴル自治区、新疆ウイグル自治区などの地方政府が、太陽光発電や風力発電の高い棄電率を低減したいと考えているため、より安価に電力を獲得することができる。(再生可能エネルギーの棄電については、中国が水素エネルギーを推進する4つの理由(理由一つ目)を参照)
図1 中国の暗号通貨マイニング拠点の分布
参考文献:Investopedia. 2019.6.25. China May Curb Electricity for Bitcoin Miners: Will Prices Tank?
 
ビットコインのマイニングは、なぜ、それほどまでに多くのエネルギーを消費するのか?その主な理由は、基盤となるブロックチェーンにおけるコンセンサスの仕組みにある。ビットコインは、パズルを解くためにマイニング作業を必要とし、たった1人のプレイヤーだけに報酬(ビットコイン)を与えるというコンセンサス(合意)メカニズムであるプルーフ・オブ・ワーク(PoWを採用したパブリック型ブロックチェーンに基づいている。そのため、PoWを支えるマイニングでは、高価なマイニング・ハードウェアが要求され、消費電力も大きくなる。また、この一人勝ちの仕組みは、マイナー間の激しい計算能力の競争を引き起こす。(参考文献:Wallstreetcn. 2021.5.22. 肮脏的比特币!挖矿耗电量为什么比一个国家还高?)
 
実際のところ、ブロックチェーンはさまざまな技術の複合体である。ブロックチェーンのコアであるコンセンサス・アルゴリズムは、参加者が計算作業やコインの所持量などによって、取引を承認・有効化するプロセスに取り組むための指針となり、取引を有効にするための合意として機能する。
 
・高エネルギー消費問題への解決策
しかし、すべてのブロックチェーンが、このエネルギーを大量に消費するコンセンサス・メカニズムを採用しなければならないわけではない。これまでに、以下のようなメカニズムが検討されている。
 
1. プルーフ・オブ・ステーク(Proof-of-StakePoSとは、安全性を保証するためにマイニング作業を採用する代わりに、関連する暗号通貨のトークン保有量比率に基づいて、バリデーター(検証する、有効化を判断するプレーヤー)を選択する仕組みを指す。これは、極端なエネルギー消費を促さない仕組みとなっている。
 
2. プルーフ・オブ・アサインメント(Proof-of-AssignmentPoAとは、PoWやPoSよりも、はるかに低消費電力であり、簡単な機器で合意を認証できる仕組みを指す。これらのデバイスは、マイクロプロセッサ、コントローラー、メモリモジュールを搭載した家電製品や産業機器などがありえる。このアルゴリズムは、単純だが重要な暗号を割り当てることで、IoTにおける一連の分散する機器を調整するために採用されている。(参考文献:Ambcrypto. 2018.7.23. PoA vs PoW vs PoS.)
 
3. プルーフ・オブ・バーン(Proof-of-BurnPoBは、計算機器への大規模な投資を避けるために開発されたもので、マイナーが仮想通貨トークンを「燃やす」(捨てる)ことができるようにPoWを修正したものを指す。「燃やす」とは、アクセスできない、二度とコインを取り返せないアドレスへコインを送ることである。コインを燃やせば燃やすほど、マイナーは、より実質的なマイニングパワーがあるとみなされ、マイナーは燃やしたコインに比例して、認証の権利を付与される。これは、使用機器が少ない点で、エネルギー浪費の少ない、効果的なPoWの代替手段と考えられている。(参考文献:Investopedia. 2021.6.21. Proof of Burn)
 
その中でも、PoSはPoWの代替として主流になると予想されている。最近、投資家や市場関係者の間で注目を集めているのが、PoSをベースにしたイーサリアム(Ethereum)だ。ここで、PoWとPoSの比較について詳しく見てみよう。PoWのコンセンサスは、計算能力に基づいており、勝者だけに報酬が与えられるので、多くのエネルギー消費を促すことになる。PoSのコンセンサスでは、より多くのコインを持っている参加者が新しいブロックの有効化を認証する確率が高くなり、認証報酬としてネットワーク料金(取引料金)を受け取ることができる。マイニングを使用しないため、PoWと比べ、エネルギー効率が非常に高くなっている。 
 
つまるところ、エネルギーの過剰消費問題を引き起こすのは、ビットコインのマイニングだ。しかし、ブロックチェーンは、ビットコインだけを指すものではない。以下のセクションでは、中国の再エネ移行を加速させるブロックチェーンの有望な使い方を3つ紹介する。
 
中国のエネルギー分野におけるブロックチェーンの可能性
 
概して、中国のブロックチェーンとエネルギー改革の勢いの中で、非中央集権性(分散性)匿名性不変性というブロックチェーンのこれらの特徴を電力産業に活かす、多くの機会が生まれている。ここでは、ブロックチェーンと電力分野をかけ合わせた潜在的なビジネスを3つ紹介する。
 
1. Peer -to-peer取引
 
中国では再生可能エネルギーの普及に伴い、電力消費者の中に「プロシューマー(Prosumer)」という存在が増えてきている。プロシューマーとは、自分で発電した電力の一部または全部を消費する電力消費者のことである。例えば、彼らは、自身の家の屋根に太陽光発電パネルを設置し、余剰電力を他の消費者に販売する(または、蓄電し電気代の節約につなげる)。
 
こうしたプロシューマーが増加するにつれ、分散型ネットワークによる売電・買電への需要が高まり、分散型電力市場が生まれつつある。(中国ではまだパイロット段階にある)(【RE100達成へのロードマップ:中国における100%再エネ電力への道】参照)
 
 
図2 分散型パイロット市場を試みようとしている省・都市(省・市内の一部で実施しようとしている。)
出典:国家能源局. 2019-05-23. 两部门关于公布2019年第一批风电、光伏发电平价上网项目的通知
 
ブロックチェーンを利用した理想的な取引プラットフォームでは、参加者は工業団地やマイクログリッドなどの小規模なコミュニティ内で、余剰に発生したエネルギーを取引することができる。中央管理者の代わりに分散型台帳システムを使用することで、すべての取引は一度だけ記録すればよく、重複作業が排除される。また、すべての参加者がデータにアクセスでき、取引の安全性も高めることができる。
 
 
図3 ブロックチェーンを利用した分散型電力市場におけるPeer-to-peerの小売プラットフォーム
参考文献:Emerton. 2017.10.18. Rewiring energy markets: an opportunity for blockchain technologies?
 
地域や国レベルでも、ブロックチェーンに基づくプラットフォームは、全国・地方の炭素排出権市場が、炭素排出量/炭素クレジットの取引において、高い安全性、透明性、匿名性を保証する上で役立つ。(中国の炭素排出権取引については、【エコチャイナ:炭素排出権取引がいかに低炭素経済を育むか】を参照)
 
例えば、IBMとEnergy-Blockchain Labsは、ブロックチェーンベースの分散型台帳を備えた炭素資産取引プラットフォームを共同開発した。これにより、参加者は炭素排出を追跡し、市場での炭素資産の売買タイミングを把握することができる。また、ブロックチェーンの規制当局は、排出枠割当に対する参加者の排出量を監視することで、脱炭素化のプロセスをより簡単に評価することができる。(出典:Energy Blockchain Labs Inc.)
 
2. EV向け充電ステーション
 
中国の自動車市場は、最近では、EV購入者が増加し主流となってきている。しかし、急速に増加するEVの台数に比べ、充電スタンドの展開は、はるかに遅れをとっている。現在、EVの運転者にとって、利用可能で、しっかりと機能する公共充電ステーション(ほとんどの場合、状態が悪い)を探すことがしばしば課題となっている。一方で、多くのプライベート(家庭用など)の充電ステーションの稼働率(利用率)は低い状態である。(【Key Insights on China’s Policies on Developing New Energy Vehicles】参照)
 
2020年末には、中国全国に168万基のEV充電ステーションがあり、そのうち、公共の充電ステーションが80.7万基、プライベートの充電ステーションが87.4万基となっている*¹。現在、公共の充電ステーションの利用率は4%以下で、立地条件やメンテナンスの悪さなどから、北京では1.8%、上海では1.5%とさらに低くなっている*²。(出典:1) Eastmoney. 2021. 2.12. 2020年中国电动汽车充电桩市场发展现状与竞争格局分析 主要分布在东部和中部省市. 2) Sina. 2020.12.14. 数量近150万台,使用率却不到15%.)
 
また、プライベートの充電ステーションは、ほとんどが夜間に使用され、昼間は待機しているため、機会損失に繋がっている。このように、EV充電ステーションの非効率的な使用を解決し、運転者が近くの充電ステーションを素早く見つけられるようにするために、一つの解決策として、プライベート(家庭用など)のEV充電ステーションへのアクセスを、その他の利用者に提供することが考えられる。その中で、ブロックチェーンを応用することで、取引の安全性と正確性を保証することができる。​
 
図4 ブロックチェーンを利用したEV充電ステーションのプラットフォーム
出典:Emerton. 2017.10.18. Rewiring energy markets: an opportunity for blockchain technologies?
 
上図を見ると、ブロックチェーン技術によってプライベートの充電ステーションをより効率的に利用することができることがわかる。ブロックチェーンを基にしたプラットフォーム上で、EVの運転者は近くにあるプライベートの充電ステーションを素早く見つけ、モバイル・アプリケーション上でステーション所有者が定めた価格で、決済することができる。分散型台帳不変性という性質をもつブロックチェーン技術は、取引の安全性、透明性、自動性を高レベルで保証する。また、スマートコントラクト機能により、ステーション所有者が、EV充電ステーションの価格を変更したり、その他の支払い条件を追加したりすることが柔軟にできる。
 
これまでのところ、世界ではすでにいくつかのスタートアップが、EV充電ステーションのシェアというコンセプトを試験的に実施している。有名な例としては、ドイツのShare & Chargeというイーサリアムを用いたEV充電サービスのプロジェクトがある。このプラットフォームは、顧客(EV運転者)が、使用した電気代を充電ステーションの所有者に直接支払うことができるオープン・チャージング・ネットワーク(Open Charging Network、OCN)と呼ばれる。(出典:Share&Charge)
 
その例からヒントを得てか、他の国でも取り組みが進められている。中国では、EV充電ステーションの需要と供給の間に大きなギャップがある。一般家庭のEV利用者がEV充電サービスのメインユーザーであり、プライベートな(家庭用など)充電ステーションは、シェアエコノミーにおける一つの主要商品になる可能性が大きい。2020年7月、中国の国家電網とDouble Power Technology(特来电)は、EV充電ステーションの分散型シェアリングプラットフォームに関する計画を発表した。実際、このビジネスはまだ始まったばかりだが、EV台数が増え、EVへの電力供給が不足していることから、魅力ある潜在的な市場として注目されている。
 
3. グリーン電力証書・再生可能エネルギー属性証書(証明):トレーサビリティ
 
ブロックチェーンの主要な機能であるトレーサビリティは、食品産業や司法など、多くの業界の物流プロセス(サプライチェーン)で広く採用されている。そして、これは、再生可能エネルギーの供給源から消費までを追跡し、炭素排出量を追跡することで、認証・認定プロセスにおいても利用することができる。記録されたデータをもとに、電力消費者は証明書を取得し、再生可能エネルギー由来の電力消費を促進する国家的メカニズムであるグリーン証書市場で取引することができる。(What is Green Certificate in China? Does it lead to new opportunity?】参照)。類似のトレーサビリティシステムは、炭素クレジットや炭素排出権市場での取引にも適用できる。この2つ以外にも、再生可能エネルギーの100%利用を呼びかけるイニシアチブである「RE100」など、クリーンエネルギーを目的とした取組にも、ブロックチェーンの正確なトレーサビリティを利用することで、いわゆるダブルカウンティング(二重計上)の問題を回避することができる。(【RE100達成へのロードマップ:中国における100%再エネ電力への道】参照)
 
中国国家電網のブロックチェーン部門であるState Grid Blockchain Technology (国家电网区块链科技公司)は、中国のエネルギー消費分野における初のブロックチェーン施設として「Second Traceable Blockchain Smart All-in-One Machine (秒溯源区块链智能一体机)」を立ち上げた。その主な機能は、グリッド(電網)とロード(消費)の間の障壁を取り除き、ブロックチェーン上のデータとブロックチェーン外のデータを統一し、再生可能電力の消費におけるデータを正確に収集、監視、分析することである。
 
 
図5 再生可能エネルギーのトレーサビリティを実現する国家電網のブロックチェーンマシン
参考文献:Lianmenhu.2020.9.18. 国网区块链科技公司发布新能源消纳区块链智能装置
 
上記に加えて、政府や、地方自治体においても、認証システムの立ち上げや管理、再生可能エネルギー市場や炭素排出権市場などの地域エネルギー市場の維持・監督のために、ブロックチェーンベースのプラットフォームを必要とするケースが出てくるだろう。
 
ブロックチェーンの持つ強力なトレーサビリティは、その二つの性質、時刻が刻まれることと分散化していることに、由来する。各ブロックには、時系列で前のブロックの情報が含まれているため、強い不変性を持ったチェーンが形成される。また、複数の当事者が取引を監視できるため、すべての記録が高い精度で検証され、二重計上の問題やエラー、不正の余地がなくなる。 
 
まとめ
その他の産業と同じように、ブロックチェーンは、電力業界に変革を促す触媒として機能する。ブロックチェーンは、従来の関係者間の一方通行の関係を取り壊し、すべての参加者間で、常に分散された安全なつながりを形成する。そうすることで、バリューチェーンを本質的に変革し、分散されたネットワークの中で、より多くの潜在的な価値を引き出すことができる。とりわけ、この技術は、再生可能エネルギー由来の電力をベースとした分散型発電の導入と非常に相性が良い。カーボンニュートラルを求める全国的な動きの中で、再エネ電力市場や炭素排出権取引市場における、匿名取引の保証や、再生可能エネルギー属性証書(Renewable Energy Attribute Certificate、REAC)などの認証のために、ブロックチェーンの持つトレーサビリティ特性が注目されることが多いに期待される。
 
このブログの内容に関心のある方は、こちらのレポートもご参照ください。:【中国におけるブロックチェーン】
 
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