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 ■ 日付: 2022年4月25日
*こちらの記事は、2022年3月16日の弊社英文ブログ【China Raises Cap on Electricity Price: What has Changed and Possible Impact for Business】を翻訳したものになります。
【中国、電力価格の上限を引き上げ:変更点と業界への影響】
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まとめ
1. 石炭火力発電の電力価格は、ベンチマーク価格に対して、これまでの上限±10%から、±20%までの変動することが認められた。実際には、多くの省で最高値の上限価格まで、電力価格が急騰している。 
 
2. 高電力消費事業者の電力コストは、20%上限の制約を受けない。遼寧省と広西省では、高電力消費事業者に対する電力コストが50%近く上昇している。   
 
3. 石炭火力発電事業者の経営難は一時的に緩和されるが、将来的には市場競争の激化に直面することとなるだろう。
 
4. 市場改革により、特に需要家サイドで新しいビジネスが次々と生まれてくることが考えられる。その中で、ビッグデータは重要な役割を担ってくる。
 
キーワード #再生可能エネルギー #石炭火力発電 #電力価格 #電力市場 #ベンチマーク価格+変動幅 #送配電事業者電力代理購入 #小売電気事業者 #総合エネルギーサービス(IES) #エネルギーマネジメントシステム(EMS)  
 
このブログの内容に関する更なる詳細な情報はこちらのレポート:【中国の電力市場とグリーン電力取引にて記載しています。
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はじめに
2021年8月、北京電力工業協会は、京津冀地域の石炭火力発電事業者11社と共同で、石炭価格が上昇する中で廃業を回避するため、電力上限価格の引き上げを求める請願書を政府に提出した。これは決して法外な要求ではない。中国の石炭火力発電事業者は約10年間にわたって不合理な価格設定メカニズムに悩まされており、2021年は極めて深刻な状況になっていた。   
 
11社のうちの1社は、2021年7月の石炭価格が6月比で57%、前年比では65%上昇したと報告している。しかし、その間、この地域の電力のベンチマーク価格は下落した。これにより、電力価格(収入)に対する運用コストが大幅に上昇した。地域の石炭火力発電事業者の中には、操業を続けるとさらに損失が広がるため、発電を控えたいと考える業者まで出始めた。
 
最終的には、これが中国全土の深刻な電力供給不足を招く一つの原因となり、昨年は何度か深刻な電力不足が発生した。2021年9月には、中国各地、20近くの省で計画停電が発生した。これまでも中国では、毎年必ず停電問題が発生していたが、今回の停電は工業用電力の使用を制限するだけでなく、住宅や学校、病院、ショッピングモールなどの商業・公共エリアも制限され、危機的状況に陥った。特に、暖房が欠かせない中国東北部(遼寧省、吉林省、黒龍江省など)では、市民の中で、怒りと混乱が生じた。
 
図1:瀋陽で一部の信号機が停止し、深刻な交通渋滞が発生した。
 
電力供給の改善措置として、2021年10月11日に国家発展改革委員会(NDRC)が「石炭火力発電による電力卸売価格の市場化改革をさらに深化させる通知《国家发展改革委关于进一步深化燃煤发电上网电价市场化改革的通知》」を発表し、電力価格の変動幅の制限を20%に引き上げることを決定した。
 
この政策が一部の省で実施された後、平均電力価格は20%程度急騰し、上限価格にほぼ到達した。このため、国内外の企業から注目を浴びることとなった。
 
本稿では、まず新しい電力価格設定メカニズムの政策的背景を紹介し、次にメカニズムの詳細、各プレイヤーへの影響や将来像について詳細に検討する。
    
背景:なぜ、中国はこの政策を導入するのか。
 
中国では、高度成長時代が終わり、エネルギー総需要の伸び率が鈍化する新たな局面に入っている。この移行期において、中国は電力不足、再生可能エネルギーの普及に伴う棄電、カーボンニュートラルなど、一連の新しい課題に直面している。電力産業における市場志向の改革は、この移行を実現するための基盤となり、その理由は次のとおりである。
 
(1) 電力市場化は将来の電力不足を防ぐ。中国の資源の種類を見ると、現在、中国の総発電量と供給量のほぼ6割を石炭が占めている。再生可能エネルギーが普及しつつあるとはいえ、今のところ石炭火力発電が主なエネルギー供給源であることに変わりはない。
 
図2:2020年 中国のエネルギー源別発電容量
 
中国は2019年に石炭火力発電の電力価格について「ベンチマーク価格+変動幅」メカニズムを設定したが、需要家側の電力コストを抑制するため、2020年は政府による上方改定は実施されなかった。さらに、ベンチマーク価格は年間を通じて固定され、翌年が始まるまで修正されることはなく、石炭火力発電電力の約7割は、激しい競争により、市場でベンチマーク価格より割安な価格で取引されていた。 
 
図3:2021年の石炭価格高騰時の発電コストと電力ベンチマーク価格の比較(単位:人民元/kwh)
 
中国人民大学が発表したある報告書によると、中国の従来の電力価格システムでは、石炭価格の高騰があった場合、石炭火力発電事業者が最も大きな影響を受ける(図3参照)。短期間での石炭価格の高騰により、平均0.369元/kwhの損失が発生している。
 
より低いベンチマーク価格が設定されていた内モンゴル自治区、山西省、山東省などの北西部や東北部の都市はより深刻な影響を受けていた。河北省の秦皇島市では、5,500kcal/kgの一般炭の平均価格は2020年には580元/トンであったが、2021年には906元/トンまで上昇した。このままでは、92.5%の石炭火力発電事業者が損失を被ることになり、さらに市場化を進めなければ、電力不足が深刻化する可能性があった。
 
この通知は、政府の統制が市場の歪みを招き、停電などの問題を引き起こす需給のミスマッチを助長したことを認めるものであるとも考えられる。今のところ、北京当局の見えざる手は、まだ働いているものの、電力業界におけるさらなる自由化への一歩と見なすことができる。 
 
(2) 電力の秩序ある利用」を促進し、需要家サイドの電力消費を管理する。ピークバレー価格設定(時間帯別価格設定)を含む市場メカニズムは、需要のピーク時の電力不足やオフピークの時間帯における再生可能エネルギーの棄電を避けるため、需要家サイドが通常とは異なる時間帯にエネルギーを使用するよう誘導すること(負荷管理)が可能である。
 
(3) 電力取引市場化はカーボンニュートラルの達成を促す。中国のカーボンニュートラル実現に向けた主な取り組みとしては、非化石燃料エネルギーの割合の増加や、国家規模のグリーン電力市場の確立などが挙げられる。しかし、再生可能エネルギーの普及は、停電や棄電などの問題をもたらす。ただ、自由化された市場であれば、そのような問題を、ある程度解決することができる。また、市場は競争を生み、革新的なビジネスモデルを促進する。仮想発電所(VPP:バーチャルパワープラント)、デマンドレスポンスマイクログリッドなどの新しい事業が消費者行動を変え、より多くの再生可能エネルギーを消費するインセンティブを生み出すことができる。 (再生可能エネルギーに関する記事:【RE100達成へのロードマップ:中国における100%再エネ電力への道】、炭素排出権取引に関する記事:エコチャイナ:炭素排出権取引がいかに低炭素経済を育むか】、中国の地球温暖化政策に関するレポート:2020年中国の地球温暖化の取組・政策)
 
中国の新しい電力価格設定メカニズム
図4. 2021年12月の山東省における価格比較 (同じ電圧レベル(業務用及び産業用の電力需要家 1-10kv)で比較)
 
国家発展改革委員会が2021年10月に発表したこの通知には、4つの重要な事項が含まれている。
 
1. すべての石炭火力発電事業者の電力取引市場への参入が義務付けられ、従来の70%から100%に参入量が増加する。ベンチマーク価格に対する変動幅が、±20%に拡大される。つまり、石炭火力電力の市場取引価格は、各省で発行されるベンチマーク価格をもとに、20%以内の上下変動が許されることとなった。2021年1月31日の時点で、すでに20%の変動幅を実施した14省では、平均取引価格が上限価格(20%)にほぼ達している。
 
2.高電力消費事業者*の電力取引価格は20%制限の対象外である。一部の省はすでに政府の呼びかけに反応している。例えば、広西省では、高電力消費事業者の価格変動上限を50%に設定した。そして、遼寧省や広西省では、2021年10月に一部の高電力消費事業者の電力価格が40%以上、値上がりした。一方、多くの省では、この変更がいつから適用されるかは明確に示されてはいない。
 
3.商・工業用(C&I)の電力需要家向けのカタログ電力価格を取りやめる。10kV以上のC&I需要家は、市場取引(市場での直接購入または小売電気事業者を経由した購入)を行う必要がある。中国では、C&I需要家が多く、大量に市場参入すると現在の市場システムに負荷がかかり複雑になることを考慮し、10kv以下のC&I需要家は当面、送配電事業者(電網会社)からの購入を選択することができる(電力代理購入)。
 
4.家庭用および農業関連の電力需要家は、この政策の影響を受けず、現行のカタログ電力価格に従う。また、この政策は電力スポット取引市場には適用されない。 
 
*高電力消費事業者とは、以下の6業種を指す。 
1. 石油・石炭等の燃料加工業  
2. 化学原料・化学製品製造業 
3. 非金属鉱物製品製造業  
4. 鉄金属製錬・圧延加工業
5. 非鉄金属製錬・圧延加工業
6. 公益事業・熱供給事業
 
5. 政策の実施状況
 
送配電事業者電力代理購入
 
2021年10月23日、国家発展改革委員会は「送配電事業者の電力代理購入の組織化に関する事項の通知《关于组织开展电网企业代理购电工作有关事项的通知》」を発表した。この通知は、上記の政策を補足する政策である。
 
図6. この通知における各市場主体への影響
 
この政策の主な目的は、すべてのC&I需要家の市場参入を促進することである。市場参入が困難な小規模事業者に対して、代理購入は、過剰な電力消費を部分的に管理する方法であるとも言え、電網会社が代理人となって、特定の需要家(主に10kV以下のC&I需要家)の電力を購入することが言及されている。この電力代理購入の範囲は徐々に狭められることから、この政策は将来的に特定の需要家が市場メカニズムを導入するための移行措置に過ぎないと考えられる。
 
 送配電事業者(電網会社)から購入できるのは、誰?
  • 10kv以下のC&I需要家(代理取引価格)
  • 妥当な理由で電力市場から撤退する需要家(代理取引価格の1.5倍
  • 市場参加できない高電力消費事業者(代理取引価格の1.5倍
 
10kv以下のC&I需要家を除き、送配電事業者から電力購入するその他の需要家には、市場からの離脱、市場に参入しないことに対するペナルティとして、1.5倍の取引価格が適用される。こうすることで、中国は市場規模を拡大し、最終的にはすべての主体を、市場に参入させようとしている。
 
電力代理購入は、以下のグラフに示すように、価格が構成される。 
図7. 送配電事業者の電力代理購入の価格構成
 
図7に示すように、「代理取引価格」の部分のみが(部分的に)市場化されている。送配電事業者は毎月、当月の平均価格と取引量から来月の代理取引価格を決定する。
 
この政策が各プレイヤーに与える影響とは?
政策変更の時期は、2021年の深刻な電力不足の影響を受けているように見えるが、その内容は、電力供給不足の解消だけに焦点を当てた短期的な対策をはるかに超えるものである。その中で、全てのプレイヤーの中で、石炭火力発電事業者と高電力消費事業者が主に影響を受ける。 
 
発電側:
 
1.石炭火力発電事業者
石炭火力発電事業者は現在、電力価格を最大20%まで値上げすることが認められている。つまり、価格が上昇している石炭を購入した際に、そのコストを、ある程度、消費者に転嫁できるようになったのである。この政策は、短期的には石炭火力発電事業者のコスト回収を助けるものであるが、中長期的には市場での競争がより激しくなり、彼らにとって好ましくない状況になる可能性もある。
 
他の石炭火力発電事業者との競争が激しくなる。これまであった送配電保証の特権が剥奪され、発電事業者は市場で他の発電事業者と競争しなけばならなくなる。これにより、効率が悪く、送配電時間を確保できない発電事業者は、公開市場で競争することが難しくなり、閉鎖に直面する可能性さえある。そのため、今後はより、価格戦略や顧客獲得能力がカギとなるだろう。 
 
2. 再生可能エネルギー発電事業者 
この政策は、再生可能エネルギー発電事業者にとっては有益である。第一に、より大きな需要が生まれる。市場規模が拡大しする中、増加するであろう卸売市場に参入する全てのプレイヤーは、再生可能エネルギー・ポートフォリオ基準(RPS:Renewables Portfolio Standards)の対象となり、一定量の再生可能エネルギーを購入しなければならないという責任を負うことになる。(RPS制度については、こちらのレポートで詳細に説明しています。:【中国の電力市場とグリーン電力取引)第二に、再生可能エネルギーの価格競争力を高めることができるかもしれない。再生可能エネルギー電力は、石炭火力電力のベンチマーク価格を基準として決定される。もし、現在の仕組みのまま石炭価格が上昇し続ければ、再生可能エネルギーはより安い価格を生み出し、その結果、再生可能エネルギーを代わりに購入する顧客が増えるかもしれない。第三に、電力価格が高騰し続ければ、それに対応するために、分散型太陽光発電などの分散型再生可能エネルギーにおける自家発電の需要も高まると考えられる。
 
消費側:
 
1. 高電力消費事業者。
エネルギー集約型事業者の卸売市場における上限価格が撤廃されると、その価格は40%以上に急増する可能性がある(遼寧省では2021年10月に49.37%まで上昇した)。ピークバレー価格メカニズムに関する政府の政策と、クリティカルピーク価格(CPP:Critical Peak Pricing、ピーク時価格より更に20~25%高い)の影響を考慮すると、エネルギーを大量に消費する需要家の電力価格は、ピーク時には最大175%上昇する可能性がある。さらに、これらの需要家が卸売市場に参入する場合、一定量の再生可能エネルギーを消費しなければならないRPS責任があることは言うまでもない。これにより、エネルギーコストが大きく上昇する可能性が高い。中国政府は、この政策を実施することで、高電力消費事業者の消費行動を改善し、脱炭素化を誘導したいと考えられる。また、グリーン電力への移行を加速させる可能性もある。 そのため、分散型太陽光発電や蓄電、エネルギーマネジメントシステム(EMS)等の導入など、エネルギー効率の向上が強く求められるようになると考えられる。(EMSに関するレポート:2021年中国のエネルギーマネジメントシステム(EMS)市場の動向)。 
 
2. C&I電力需要家。
従来、C&I需要家が電力を購入する経路は2つあった。(1) 入札や二者間交渉で価格が決まる卸売市場経由、または小売電気事業者から購入する。(2) 各省の条件によって価格が決まるカタログ電力価格経由。しかし、現在では、すべてのC&I需要家を対象とするカタログ電力価格が撤廃された。 
 
10kV以上のC&I需要家は、すべての電力消費について卸売市場を経由することになる(より変動が大きくなる)。10kv以下のC&I需要家は、電力市場に参入することが推奨される。参入の意思がない需要家に対しては、地域の送配電事業者が代理で電力を購入するよう指示されている(代理購入)。送配電事業者の代理購入価格はよりコストを反映したものとなり、変動が大きくなると予想される。これまで小売電気事業者から購入していたC&I需要家は、小売電気事業者も市場の高い価格変動にさらされることになるため、同様のことが予想される。 
 
中長期的には、中国が推進するピークバレー価格設定メカニズムにより、C&I需要家向けの価格変動が大きくなることが予想される。代理購入が段階的に廃止されることはもちろん、全てのC&I需要家はいずれ電力市場に参入しなければならないため、電力市場の仕組みを理解する必要がある。また、C&I需要家は、電気料金を下げるためにエネルギー効率向上や脱炭素化への投資を増やすか、それを助けてくれる優良な小売電気事業者を見つける必要があることも予想される。
 
小売電気事業者:
全体として、電力市場は小売電気事業者にとってより競争が激しくなるが、同時に大きなチャンスをもたらす。価格の変動幅が大きくなることで、市場競争は激化する。また、より多くの小売電気事業者が市場に参入すれば、価格競争が起こり、市場価格が安くなるため、小売電気事業者の利幅が縮小する可能性もある。つまり、卸売と小売の価格差から利益を得るという、これまでの収益モデルが通用しなくなることを示唆する。これは、小売電気事業者、特に単一の収益源を持つ小規模の小売電気事業者にとっては、難しい問題である。 
 
しかし、このような困難の中にこそ、大きなチャンスが潜んでいる。小売電力市場における競争の激化は、ビジネスモデルの革新を促し、付加価値サービスのような将来有望な市場機会を生み出すだろう。 例えば、エネルギーマネジメントシステム(EMS)、蓄電、分散型再生可能エネルギーなどの総合エネルギーサービス(IES)は、消費者が小売電気事業者を選択する際に、ますます影響を与えることになるだろう。中国では、すでに国内企業がIES事業を展開し始めている。例えば、GoldwindやJinko Solarなどの再生可能エネルギー発電事業者は、すでにIES事業に参入し、電力小売サービスも提供している。 
 
他にも、サービスの利便性も集客では需要な要素となる。現代の消費者はデジタルチャネルでビジネスを行うことを求めているため、デジタル化されている小売電気事業者は有利である。小売電気事業者にとっても、顧客データを活用することで、他社に先駆けることができる。情報を活用して顧客の行動を予測し、ターゲットを絞った提案をすることで、顧客一人一人から得られる利益を最大化できる。 
 
送配電事業者:
 
短期的には、電網会社が代理購入を行って「小売事業者」としての役割を担っていることに変わりはない。しかし、電網会社の役割は今後も減少し、小売業者としての役割は弱まり、最終的には送配電サービスのみを提供するという政策の兆しが少し見えている。したがって、送配電事業者は、収入源を拡大するために新しいビジネスを検討する必要があり、その一例がIESである。送電最大手の国家電網と南方電網は、多くの省でIESの子会社を設立している。国家電網は、VPPV2G(Vehicle to Grid)ロードアグリゲーターなどの事業を積極的に展開している。その中に、国家電網傘下にあるState Grid EV Service (国网电动汽车服务公司)は、2019年の華北仮想発電所(VPP)プロジェクトで、最大の調整可能負荷を提供した(下図8参照)。このプロジェクトでは、同社が103万元を収入を記録した。
 
図8. 華北仮想発電所事業の収益成果
このプロジェクトで、電網IES会社は160万元を獲得した。プロジェクトを通じて、国家電網は中国におけるVPPとV2Gの商業化を主導すると同時に、再生可能エネルギーの棄電を減らそうとしていた。このような役割の変化が、新たなビジネスモデルの多様化や革新につながっていることは間違いない事実である。
 
以上をまとめると、これらの政策変更は、消費側が電力価格に影響を与え、発電側が市場の需要に基づいて投資するという、電力市場の自由化に向けた北京の最新の試みであると言える。今はまだ部分的な市場化だが、将来の完全な市場化に向けて大きな一歩を踏み出したと言える。​
 
将来のビジョン
図9. 電力市場の発展段階
 
今後、中国は電力部門の自由化を、さらに進めていくと予想される。ここで注意したいのは、市場改革が進んだからといって、電力価格が上昇し続けるということではない。自由化によって、市場原理による影響が大きくなり、発電の実質コストや需給関係がより反映された価格になることを意味しているだけである。今後、石炭価格の高騰が続くようであれば、価格シグナルが歪まないように、ベンチマーク価格や変動幅を見直すような政府の一貫した取り組みが望まれる。 
 
自由化を進めるには、市場規模や取引量の拡大が不可欠である。活発な参入者がいなければ、効果的な競争は実現しにくい。また、棄電、電力需給バランス、電力品質などの問題に対処するため、多くの新産業が生まれることが奨励されている。 
 
主な傾向としては、次の諸点が挙げられる。
1. 消費側は、市場における価格やサービスの形成に、より大きな役割を果たすだろう。小売電気事業者にとって、顧客ロイヤリティを維持することはコア・コンピタンスの一つである。これを実現するためには、アプリを含むデジタル化されたプラットフォームの提供(例:図10参照)、様々なニーズに合わせたより良い価格パッケージなど、サービスの質を高める努力が必要である。このすべては、顧客行動のより良い分析を要するものである。実際、一部の小売電気事業者では、すでに顧客向けのアプリを開発している。アプリ上では、料金プランの確認、契約、電力購入、電力使用量のモニタリング、電力政策のアップデートや業界ニュースなどを受け取ることができる。 
 
 
図10. 晋能售电のアプリ「易售电」の一例
 
2. 市場競争の激化により、発電事業者、送配電事業者、小売電気事業者などに正確な予測スキルが求められる。例えば、Envision Digitalは、世界最大のIoTプラットフォームEnOS™を所有している。この予測システムは、データの分析と監視を行うだけでなく、デマンドレスポンス、グリッド安定化、蓄電最適化や、エネルギー取引を目的とした、高解像度気象予報に基づいた発電出力を高精度で予測することができる。
図11. EnOS™の太陽光発電予測(出典:Envision社ウェブサイト)
 
3. 市場競争の激化と、電力系統に接続される再生可能エネルギーの増加により、総合エネルギーサービス、マイクログリッド、VPP、ロードアグリゲーター、V2G、ESCO事業などの新しい産業が活性化されるだろう。(ESCO事業に関するレポート2021年中国のエネルギーマネジメントシステム(EMS)市場の動向
 
4. ビッグデータは必須のツールとなり、デジタル化が主流となる。しかし、技術的な優位性を獲得するだけでは、決して競争力を維持することはできない。需要家側の主要な課題や真の需要を見つけることは、常に最優先事項である。 
 
5. 石炭価格が急激に下がるかどうかは不確実であるものの、現行の価格設定メカニズムが維持されるのであれば、全般的に再生可能エネルギーに有利な方向と考えられる。
 
出典:
[1] 北极星电力网,2021-8-30,求涨电价、求改合同!亏损面达100%后,11家发电企业联名呼吁.
[2] Carbon Brief, 2021-9-29, ‘Wave of power curtailment’ expands to 20 provinces across the country, three provinces in the north-west begin to restrict residential electricity”.
[3]北极星售电网,2021-11-5,电价新时代来临!“能涨能跌”机制在多省持续落地!(附电价上涨情况).
[4] NDRC,2021-10-11, 国家发展改革委关于进一步深化燃煤发电上网电价市场化改革的通知.
[5] NDRC, 2021-10-23, 关于组织开展电网企业代理购电工作有关事项的通知.
[6] 北极星售电网, 2021-11-29, 2021年12月29省区市电网企业工商业用户代理购电价格公布!(附电价表).
[7] 北极星售电网, 2021-11-5,电价新时代来临!“能涨能跌”机制在多省持续落地!(附电价上涨情况).
[8] The Lantou Group, 2021-10-15, Measures to Accelerate and Deepen Power Sector Reforms Announced
in China. 
[9] 中国人民大学双碳研究院,2022-1,中国人民大学双碳研究院发布 《中国煤电转型成本分析与风险评估》研究报告.
 
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