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 ■ 日付: 2023年1月3日
*こちらの記事は、2022年10月24日の弊社英文ブログ 【Unlocking the Potentials of Hydrogen Credits: See How Chinese Companies are Leading the Change in Bringing Hydrogen to Carbon Trading】を翻訳したものになります。
【水素クレジットの可能性を探る:中国企業による水素エネルギーエリアにおける炭素クレジット先行事例】
この記事の筆者
 
まとめ
1. 中国における2件の水素プロジェクト (グリーン水素製造プロジェクト、水素燃料電池物流トラックプロジェクト) が、国際的なカーボンクレジットの発行を目指し、クリーン開発メカニズム (CDM) に申請している。また、水素燃料電池商用車プロジェクトも、中国国内でのCCER(中国認証排出削減量 ) の発行を目指している。
 
2. 水素クレジットの発行者は、グリーン水素製造業者、水素燃料電池車オペレーター、自動車エンドユーザーと上から川下で各存在し、様々な排出削減量のベースラインに基づいて、事業を展開しようとしている。
 
3. 水素クレジットは、単体で販売されるもの (アンバンドルクレジット) と、水素とセットで販売されるもの (バンドルクレジット) がある。発行者は、クレジットを単体で販売する際には、クレジット償却者と物理的水素製品の購入者のダブルカウンティング(二重計上)に、特に注意する必要がある。
 
キーワード: #カーボンクレジット #炭素排出権取引 #グリーン水素 #水素燃料電池車(FCEV) #CDM #CCER #カーボンインセット
 
このブログの内容に関心のある方は、こちらのレポートもご参照ください。:中国の炭素排出権取引制度にて記載しています。また、English PodcastのEpisode 1: China's Carbon Market Quick Updatesもご拝聴ください。
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水素は、カーボンニュートラル実現に向けた代替エネルギーキャリアとして広く認知されている。しかし、低炭素の水素エネルギーは、現状ではコスト競争力において不利となっている。水素経済への新たな資金調達の道を探ることは重要であり、カーボンクレジット市場に参入することは突破口の一つと考えられる。新たな資金調達手段として、低炭素水素プロジェクトを開発し、ボランタリーカーボン市場で取引可能なクレジット、すなわち水素クレジットを発行することが、一つの有効な打ち手として挙げられる。世界最大級のクレジット発行機関であるVerra (VCR) Gold Standardは、世界的に連携し、低炭素水素プロジェクト向けの様々な手法的枠組みを開発し、水素に関するあらゆる活動をクレジット化することを目指している。
 
中国国内では、主要な地方政府が炭素排出権取引を通じて水素の資金調達を行うよう、強い政策的シグナルを送っている。現在、中国の全国炭素排出権取引制度では、北京グリーン取引所がCCERの 取引を、上海環境エネルギー取引所が炭素排出権 (CEA) の取引をそれぞれ管轄している。炭素排出権市場におけるリソースと経験を考慮すると、水素クレジットのパイロット取引は、近い将来、この2都市のいずれかで最初に行われる可能性が高い。実際、北京市の水素発展5カ年計画「北京水素エネルギー産業発展実施計画 (2021-2025)」には、認定された低炭素水素プロジェクトがCCERを発行・取引できる水素クレジット制度の設立が盛り込まれている。上海でも、炭素排出権取引に関わる低炭素水素プロジェクトを支援する政策「中国 (上海) 自由貿易試験区の臨港新区における水素エネルギー産業の高品質な発展を促す関連政策」が最近発表され、同様の動きが見受けられる。(【中国における排出権取引制度:どのようなビジネスチャンスが考えられるのか】をご参照ください)
 
水素クレジットの発展が国内外で花開き始めている一方で、一連の問題はまだ解決されていない。特に、どのようなプロジェクトが水素クレジットを発行できるのか?低炭素水素事業から生じる排出削減量をクレジットとして認められ、発行できるのは誰なのか?水素クレジットの取引フローはどのようなものか?水素バリューチェーンにおけるダブルカウンティングの問題にはどのように対処すればよいのか? こうした課題は、基準や政策立案者だけでなく、水素クレジット取引を通じてビジネスチャンスを狙っている企業にとっても重要なテーマである。この記事では、グリーン水素製造業者、水素燃料電池車 (FCEV) メーカー、FCEVオペレーターといった中国企業の最新の取り組みから、水素クレジットビジネスモデル構築の戦略、ダブルカウンティング問題への対応について詳しく見ていきたい。
 
事例1:冬季オリンピック期間中の、バスへグリーン水素を供給するグリーン水素製造プロジェクトにおけるCDMを通したカーボンクレジット発行
 
2022年5月に、中国の3つの組織、北京国水素中聯水素エネルギー科学技術研究院(北京国氢中聯氢能科技研究院)、龍源 (北京) 炭素資産管理技術、上海環境エネルギー取引所は、クリーン開発メカニズム (CDM) において、グリーン水素製造プロジェクトによる排出削減量を算出してカーボンクレジットを販売する新しいメソドロジーを提案し、承認を待ちの状態である。このメソドロジーの第一弾として、風力発電による水素製造プロジェクト「国華河北赤城風力水素貯蔵マルチエネルギー補完実証プロジェクトの水素製造ステーション(第1期)」が提案され、CER(認証排出削減量)クレジットを獲得する最初の事例となる見込みである。
 
メソドロジーとは、カーボンクレジットの発行を見据えたあらゆる炭素排出削減プロジェクトの共通標準である。この提案されたメソドロジーが承認されれば、最初のプロジェクト事例にならい、さらに多くのグリーン水素製造プロジェクトによるクレジット発行の実施がなされることになる。
 
中国国内における自主的な(ボランタリーの)排出削減プログラムであるCCERの承認が、現在、停止中であるが、国際市場でCDMの承認を得ることでCCERの再開後に同様のプロジェクトを国内市場へ迅速に展開することができるだろう。 
図 1:北京冬季オリンピック期間中の燃料電池バス
 
プロジェクト概要:
このプロジェクトは、国家能源投資集団 (CHN Energy) の子会社であるプロジェクト所有者の国華赤城風力発電有限公司が投資・建設したもので、国華赤城の風力発電所で発電した再生可能エネルギーを利用して水素を製造するものである。プロジェクトの年間製造量は1,600万Nm3/aで、水素純度は99.999%である。水電解装置は、John Cockerill Jingli(蘇州)水素エネルギー科学技術(考克利爾競立 (蘇州) 氫能科技)から提供された。 河北省張家口市に位置するこのプロジェクトは、2022年北京冬季オリンピックで、1,200台以上の水素燃料電池バスにグリーン水素を供給したステーションの内の一基である。 
 
図2:国華河北赤城風力発電水素プロジェクト第1期の水素バリューチェーンの概要 
 
プロジェクトによる排出削減量:
プロジェクト計画書によると、このプロジェクトでは、10年間のクレジット対象期間中に、年間41, 457 tCO2eの排出削減を達成する見込みである。このプロジェクトのベースライン排出量は、石炭からの水素製造である。つまり、このプロジェクトの排出削減は、化石燃料を再生可能エネルギー源に置き換えるという、水素製造の資源転換によるものである。
 
図3:プロジェクトの排出削減量の簡易計算式
 
水素クレジットの取引フロー - クレジット発行者としてのグリーン水素製造業者
プロジェクト所有者である国華赤城風力発電は、クレジットを単体で販売するか (アンバンドルクレジット)、水素とセットで販売するか (バンドルクレジット) を選択することができる。バンドルクレジットとアンバンドルクレジットの主な違いは、水素製品にクレジットの属性が付与されているかどうかである。アンバンドルクレジットを販売することは、現在のボランタリーカーボンオフセット市場では一般的な方法である。クレジット償却者と物理的製品の使用者が異なる主体であり、それぞれの価格はカーボンクレジット市場と水素取引市場の2市場に左右される。
図4:カーボンオフセットモデル
 
一方、バンドルクレジットとは、カーボンインセット」と呼ばれるクレジットの属性が物理的製品と一体になったものである。排出削減製品 (例えば、グリーン水素) は、その属性を川上のサプライヤー (グリーン水素製造業者) から川下の取引先 (グリーン水素を原料とする工業製品生産者) へ単一のサプライチェーンで移譲される。
図5:カーボンインセットモデル
 
水素クレジット発行者の立場から見たバンドル販売とアンバンドル販売の比較
 
バンドルクレジットを販売する場合
メリット:
・ダブルカウンティングの回避。クレジット償却者と物理的製品の購入者の間のダブルカウンティングを避けることができる。
・グリーン属性の可視化。発行者は、可視化されたグリーン属性を付与し商品を販売することで、より高い交渉力を持つことができる。
 
デメリット:
・買い手の数は、地理的位置と水素消費の実需要の両方において、制限されうる。水素製造業者は、水素貯蔵と輸送の実現可能性とコストを考慮し、現地の買い手を優先する必要性が出てくる。
 
アンバンドルクレジットを販売する場合
メリット:
・柔軟な取引。クレジット発行者は、クレジットの買い手が必ずしも水素を消費する必要がないため、業種や地域を問わず、いつでも、どんな買い手にもアンバンドルクレジットを販売できる (例えば、国内・海外両方の買い手が可能)。
・より多くの収益を生み出す可能性。アンバンドルクレジットは、金融派生商品等として販売することができ、クレジット発行者の収益拡大につながる。
 
デメリット:
・ダブルカウンティング(二重計上)・ダブルクレーミング(二重請求)には注意が必要。クレジットが売却されると、排出量取引の算定上、物理的水素製品は「グリーン」とはみなされず、そうでなければダブルカウンティングの原因となる。つまり、グリーン水素製造業者がクレジット償却者にクレジットを発行・販売すると、その属性はクレジット償却者に属するため、物理的水素製品の買い手に低炭素水素製品を販売したと主張することは難しい。
 
同一バリューチェーン内における複数の事業体間のサプライチェーン (Scope3) 排出削減量のダブルカウンティング(二重計上)・ダブルクレーミング(二重請求)への対応
しかし、バンドルクレジットを販売することも、企業とその川上のサプライヤー・川下の取引先との間でダブルカウンティング・ダブルクレーミングという別の懸念を引き起こすことがある。例えば、グリーン水素製造業者が、「カーボンフリー」水素を製造し、川下の取引先に販売することで、Scope3排出量を削減できると主張する(すなわち、排出量をScope3の販売製品の区分に分類)ことがある。一方、その取引先である工業製品生産者は、「カーボンフリー」水素を購入し、原料として使用することで、Scope1排出量を削減すると主張することができる。このような場合、1つの温室効果ガス削減量に対し、ダブルカウンティング・ダブルクレーミングが生じるおそれがある。
 
これまで、サプライチェーン (Scope3) の排出削減量のダブルカウンティングを避けるために、どのように属性を設定すべきかを規定したガイドラインが存在しなかった。Scope3排出量算定には、ダブルカウンティングの問題はつきものである。同一バリューチェーン内のプレイヤーは、それぞれ排出削減量に対してある程度の影響力を持っている。
 
GHGプロトコル企業バリューチェーン (Scope3) 会計報告基準 (Scope3基準) によると、Scope3内のダブルカウンティングは、利害関係者へのScope3排出量の報告、バリューチェーン排出量の削減推進、Scope3削減目標に対する進捗の確認という目的で、ある程度容認される。透明性を確保し、データの誤認を避けるために、企業は、Scope3の削減量を主張する際に、削減量やクレジットのダブルカウンティングの可能性を明確にする必要がある。例えば、ある企業は、Scope3の削減量を独占的にクレジットとして計上するのではなく、提携先と共同で排出量削減に取り組んでいると主張することができる。(【中国における排出権取引制度:どのようなビジネスチャンスが考えられるのか】をご参照ください。)
 
事例2:従来のディーゼルトラックに代わる水素燃料電池物流トラックプロジェクトがCDMクレジット発行を申請し、世界初のFCEV排出削減量算定方法を提示
 
中国の大手燃料電池システムインテグレータであるRefire Group(重塑集団)は、Sinopec Sales、Sinopec Capital、Climate Bridge、中国水素エネルギー連合(中国氢能联盟)、上海環境エネルギー取引所、福州大学の6機関と共同で、FCEV排出削減の新しいメソドロジーを構築し、CDM最終承認を待っているところである。このメソドロジーに基づき、水素燃料電池物流トラックプロジェクトが提案されている。
 
プロジェクトの概要:
このプロジェクト所有者は、Refireの川下取引先であるQingliqingwei (QLQW、氢力氢为) というFCEVオペレーターである。広東省仏山市に320台の燃料電池物流トラックを導入することで、QLQWがこれまで貨物輸送に運用していた相当数のディーゼルトラックを置き換える計画である。
 
プロジェクトによる排出削減量:
このプロジェクトは10年間のクレジット対象期間中に、年間7,671 tCO2eの排出削減を達成する見込みである。ベースラインの設定は、320台のディーゼルトラックと同等の現地輸送能力である。言い換えれば、このプロジェクトの排出削減は、ディーゼルトラックをFCEVに置き換えるという、車両切り替えによるものである。FCEVで使用される水素は、再生可能エネルギーから生成されるため、このプロジェクトはゼロエミッションとみなされる。
 
図6:プロジェクトの排出削減量の簡易計算式
 
水素クレジットの取引フロー - クレジット発行者としてのFCEV運営事業者
FCEVオペレーターは通常、FCEVエンドユーザーに、リアルタイム通信、ドライバー指導、ルート効率化、 車両コンプライアンス、車両データモニタリング・トラッキングなどの車両リース・管理サービスを提供する (B2B)。水素クレジットの取引フローは、QLQWから川下の取引先へ流れ、取引先はQLQWと契約を結び、物流運用サービスを受けることが考えられる。
 
これまでQLQWは、アリババに次ぐ中国第2位のeコマース企業であるJD.comと提携し、仏山市でFCEVの物流サービスを提供している。さらに、IKEAやAB InBevといったグローバル企業も、QLQWの川下取引先となっている。
 
QLQWが目指しているのは、物流運用サービスを包括的に提供することである。しかし、現実には、特に中国でFCEV運営の足場が固まっていない現在、オペレーションサービスにお金を払うプレーヤーはほとんどいないのだろう。このような川下取引先は、価格に非常に敏感であるため、物流サービスに追加料金を支払うよりも、FCEVをリースして元のディーゼルトラックを置き換えることだけを考えているのが現状ではある。
 
その上、IKEAやAB InBevのような多国籍企業は、保有車両運用のプロバイダーと長年にわたって提携関係を構築している。したがって、彼らにとっては、ディーゼルトラックをFCEVに切り替えることは、車両管理チーム全体を入れ替えるよりもはるかに効率的になっている。
 
その中で、QLQWは、自社のオペレーションサービスをより充実させるために、FCEV運用サービスとバンドルクレジットをセットで販売し、付加サービスをよりよく売り込むことができる。さらに、可視化されたクレジットの属性を販売することで、QLQWはより多くの企業、特にカーボンニュートラル宣言をし、属性保有に慎重なグローバル企業を惹きつけることができる。
 
注意すべき点は、QLQWのバリューチェーン外の第三者に、クレジットが単体で販売された場合、その属性はクレジットを償却する第三者に属するため、QLQWの川下FCEVユーザーは排出削減量の帰属を主張することができない点である。
 
図7:水素クレジットの取引フロー - クレジット発行者としてのFCEV運営事業者
 
もう一つの重要な点として、FCEVオペレーターと水素製造業者、水素ステーション、FCEVメーカーの間で、排出削減量のダブルカウンティングを回避するための合意が必要ということである。
 
事例3:FCEVメーカー飛馳科技が、エンドユーザーのカーボンクレジット発行を促進する国内初のFCEV向けメソドロジーに取り組む
 
2021年6月、山西美錦能源 (Meijin Energy) 傘下の中国大手燃料電池商用車メーカー飛馳科技 (Feichi Technology)は、第三者検証機関の中国船級協会品質認証会社 (中国船級社)、IoTデータプラットフォーム事業者のHydrogen Mountain Technolog(氢山科技) と提携し、国内初のFCEV向けの排出削減メソドロジーを共同開発した。このメソドロジーは、FCEVセクターが排出削減量を定量化し、取引可能なクレジットを発行するために、 統一された基準を提供し、同様のプロジェクトにカーボンクレジット市場参入の早道を提供することを目的としている。
 
飛馳科技が水素燃料電池プロジェクトをカーボンクレジット市場に持ち込むのは、これが初めての動きではない。2021年5月、同社は、中国省エネ協会、Hydrogen Mountain Technolog(氢山科技)、中国汽研、中国船級社と戦略的協力協定を締結した。飛馳科技が試みているのは、同社のFCEVエンドユーザ向けのクレジット取引プラットフォームを構築し、実際の排出削減に寄与するこれらのエンドユーザが検証を受け、CCERを発行できるようにすることである。クレジット取引から得られる収益は、飛馳科技とその取引先の間でシェアされる。
 
最近、美錦碳資産管理とHydrogen Mountain Technolog(氢山科技)の両社は、国家知識産権局から温室効果ガス排出削減データモニタリングシステムを専門とする特許を取得した。このシステムはFCEVに搭載され、走行状況や水素消費量をリアルタイムで観測し、排出削減量を正確に算出することができる。
図8:飛馳科技の提携先
 
事例2と同様に、プロジェクトの排出削減は、ディーゼルトラックをFCEVに置き換えるという燃料転換によるものである。(注:CDMメソドロジー草案:CDM-MP88-A05: 水素燃料電池車によると、副生水素で走行するFCEVはゼロエミッションとみなされる。)
 
図9:プロジェクトの排出削減量の簡易計算式
 
飛馳科技が提案した当初の目的は、親会社である中国最大級の石炭・コークスメーカー山西美錦能源の石炭・コークス製造による排出量をオフセットすることである。飛馳科技の取引先が水素クレジットを発行した後、親会社である山西美錦能源がそのクレジットを購入・償却し、あるいは少なくともそのクレジットの一部で、石炭・コークスからの排出量をオフセットし、グループレベルでカーボンニュートラルとなることを想定している。注意すべき点として、飛馳科技の取引先が水素クレジットを発行し、第三者 (例えば、山西美錦能源の水素事業部門とは無関係の他社) に販売した時点で、そのクレジットの属性は第三者に譲渡され、この場合、山西美錦能源およびFCEVエンドユーザーはその排出削減量の帰属を主張することができなくなる。同様に、山西美錦能源がこの水素サプライチェーン外の事業活動でこのクレジットを償却した場合、FCEVエンドユーザーは排出削減量の帰属を主張できなくなる。この場合、山西美錦能源は第三者と同じ扱いを受けることになる。 
図10:水素クレジットの取引フロー - クレジット発行者としてのFCEVエンドユーザー
 
異なる2つのサプライチェーンの脱炭素化取組におけるダブルカウンティング
この水素クレジットの取引フローで避けるべきダブルカウンティングは、飛馳科技の取引先がクレジットを発行し、第三者に販売した時点で、その削減量は、山西美錦能源のグループカーボンニュートラル目標に向けた排出量のオフセットにカウントされてはならない、というものである。このようなオフセットのダブルカウンティングは、通常、クレジットの買い手とカーボンフリー製品のユーザーの2つのバリューチェーンで発生し、両者がそれぞれ排出削減目標を達成するために同じ削減量をカウントしてしまう。GHGプロトコルによれば、このようなダブルカウンティングは、取引されるすべてのクレジットにシリアルナンバーを割り当てるレジストリ (CCER、VCSなど) が、一度使用したシリアルナンバーを確実に償却することで対処すべきとされている。レジストリが存在しない場合、ダブルカウンティングは売り手と買い手の間の契約によって対処される。元来存在する一企業のサプライチェーン (Scope3) でのダブルカウンティングとは異なり、異なる2つのバリューチェーンでのダブルカウンティングは慎重に対処する必要がある
 
まとめ‐3つの要点
1. 水素クレジット発行者が川上から川下へ広がる。従来のカーボン・オフセット・プロジェクトでは、クレジット発行者は主に川上の再生可能エネルギー発電事業者であったが、水素クレジット・スキームでは、サプライチェーンに沿ったより多様なクレジット発行者を受け入れ、将来的には、水素燃料電池車の所有者など、To Cのエンドユーザーの消費者も含まれることが予想される。 
 
2. バンドルされた水素クレジットとバンドルされていない水素クレジット。水素クレジット発行者は、クレジットを水素製品とセットで販売するか否かを検討する必要がある。発行者がアンバンドルクレジットを販売することを選択した時点で、その製品はもはや炭素排出量の算定において「グリーン」とみなされるべきではなく、そうでなければ、クレジット償却者と物理的製品の購入者の間で排出削減量のダブルカウンティングを招くことになる。この観点から、クレジットと水素製品をセットにしてプレミアム付きで販売することは、最適なダブルカウンティング回避策だと考えられる。水素クレジット発行者が、アンバンドルクレジットを発行することを選択した場合、水素製品の購入者との契約上の合意などを通じて、ダブルカウンティングを回避する何らかの措置を講じる必要がある。
 
3. Scope3排出量におけるダブルクレーミング。ダブルクレーミングは、Scope3排出量の算定につきものの問題である - 取引先のScope3排出量が自社のScope1と重なったり、自社のScope3排出量が取引先のScope1であったりする。Scope3関連の排出削減においては、このような問題はある程度容認される。企業がクレジットを主張する上での特別なガイドラインはまだ発表されていない。将来的には、ブロックチェーンがこの問題を解決するソリューションになることができるかもしれない。(【 ブロックチェーン - エネルギー産業のゲームチェンジャーとなるか 】をご参照ください)
 
このブログの内容に関心のある方は、こちらのレポートもご参照ください。【中国の炭素排出権取引制度にて記載しています。
 
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