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 ■ 日付: 2023年8月10日
*こちらの記事は、2023年7月14日の弊社英文ブログ VPP (Virtual Power Plant): Growing as China’s Energy Market を翻訳したものになります。
【VPP(バーチャル・パワー・プラント):中国のエネルギー市場での発展】
この記事の筆者
まとめ
1. 中国のVPPの構築は、現在、主に招待モードで行われており、その観点から世界の先進エネルギー市場に遅れをとっていると言えるものの、中国のVPP市場規模は、2025年に300億人民元を超えると予想されている。
 
2. 負荷変調市場は、特に華中、華西、華北地域において、屋上設置型太陽光発電のような分散型発電措置を含む、様々なエネルギーリソースを変調する能力をもつ、VPPプレイヤーにとってより好機となる。国家デモプロジェクトでは、2020年から2021年のVPPステークホルダーにおける平均利益は0.18人民元/kWhであった。この数字は、AS市場(補助サービス市場)の市場化が進むにつれて増加していくと考えられる。
 
3. 周波数変調市場は、例えば華南地域で蓄電システム (ESS) を所有するなど、効率的な周波数制御能力を持つVPPプレイヤーにとって見込みのあるビジネスとなりうる。南方電網は、2022年の周波数変調市場規模を11億1000万人民元と発表した。
 
4. 新興のスポット市場は、発電量、消費量、市場価格の優れた予測能力を持つVPPに収益性の高いビジネスチャンスをもたらすだろう。広東省、山東省、山西省、内モンゴル自治区、甘粛省のスポット市場では、0.195人民元/kWhから0.548人民元/kWhの価格差があり、アービトレージを通し、VPPが利益を生む余地がある。
 
キーワード: #VPP #AS市場 #負荷変調 #周波数変調 #スポット市場 #容量市場
 
またPodcast: Episode 2: VPP in China: Is it a good bet?もご視聴ください。
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2022年5月、国家電力投資集団 (国家電投:SPIC) は、深圳でバーチャルパワープラント(VPP:仮想発電所)を立ち上げ、広東省の電力スポット市場に参加した。中国でVPPがスポット市場の恩恵を受けたのは今回が初めてで、平均取引価格は0.274人民元/kWhであった。
 
需要サイドのリソースをより多く活用することが求められる中、VPPはグリッドの電力逼迫を緩和する最適なソリューションの一つと考えられる。中国はVPP産業を推進する一環として、アンシラリーサービス (AS、補助サービス) 市場やスポット市場など、複数の市場をVPPに開放し、好機を提供している。これは、VPPの市場化が軌道に乗ってきたことを示している。
 
I. 中国と他国との比較
概ね、VPPの展開は3段階に分けられる: 1) 招待型VPP、 2) 市場化型VPP、 3) 自律型VPP。中国は既に第1段階である招待型VPPを実現し、現在は第2段階である市場化型VPPが登場し始めている。
 
図1. 中国におけるVPPの展開状況
 
トップダウン方式のような招待モードでは、VPPは通常、デマンドレスポンスという手段でグリッドをサポートする (【中国電力業界におけるデマンドレスポンスの活用状況とビジネスシナリオ】をご参照ください。) 送配電事業者は、電力消費量の調整に参加したいかどうかをVPPに尋ねる。招待を受け入れ、それに応じて調整した後、VPP参加者は補償を受けることができる。中国では、いまだに大多数のVPPが招待方式であり、「デマンドレスポンス」の一つだと考えられている。目下の課題としては、電力需給バランスをとる上で、依然として石炭火力発電所に依存しているため、デマンドレスポンスの実施頻度が限られていることが挙げられる。
 
中国のVPPは、招待型VPPに続き、市場化型VPPの段階に入った。この段階では、VPPは電力市場に参入し、市場で積極的に入札を行うことができる。中国はまだ市場化型VPPの段階に入ったばかりだが、VPPがAS市場、容量市場、電力スポット市場など、様々な市場に参入しやすくなるような政策の発表傾向が強まっている。その結果、より多くのビジネスチャンスが見込まれる。
 
図2. AS市場を持つVPPの仕組み
 
第3段階である自律型VPPは、負荷変調の概念をさらに超えたものである。エネルギーリソースの種類、参加者数、対象となる地理的範囲が増えるにつれ、VPPは実際には仮想電力系統のようなものになる。この段階でのVPP運営者は、グリッド・ディスパッチャー (電力系統の指令者) の役割を果たし、電力消費量を調整するほか、分散型発電の調整も行う。これまでのところ、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアなど世界各地で自律型VPPの構築が試験的に行われている。
 
図3. 中国、オーストラリア、アメリカ、ヨーロッパのVPPの開発環境比較
 
中国、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアを比較すると、中国は市場化の段階で他の3カ国に遅れをとっていることがわかる。欧米豪では、VPPは様々なエネルギー市場で取引し、利益を得ることができる。対照的に、中国では、大多数のVPPは政府資金による補助金という形で補償を受けており、市場に参入するVPP実証プロジェクトはわずかである。また少数の市場参入可能なVPPプロジェクトにおいては、収益を獲得するのは、未だ困難な状況でもある。
 
エネルギーリソースの種類においても、各国は大きく異なっている。ヨーロッパのVPPは、分散型再生可能エネルギー発電を中心とし、オーストラリアのVPPはユーザーサイドの蓄電システム(バッテリー)を主に取り込んでいることを特徴としている。アメリカのVPPは主に住宅用負荷を利用し、中国のVPPは基本的に商業・産業用(C&I) 負荷を利用している。こうした違いは、各個の技術格差を示唆する。欧米豪のVPPは、複数種類のエネルギーリソースを同時に大量に調整することに長けているため、分散型再エネや住宅用負荷、バッテリーを利用することができる。変調技術にそれほど長けていない中国では、高度な調整技術を必要としない商業・産業用負荷を活用する傾向にある。
 
図4. Next KraftwerkeのVPPモデル
 
例えばヨーロッパでは、Next Kraftwerkeが、EU8カ国で6,000GWの太陽光発電リソースを含む13,000以上の分散型エネルギーリソースをアグリゲートしている。対照的に、中国は、2023年3月時点で、河北省、上海市、山東省、浙江省、河南省、山西省などの複数地域で、合計4.8GWのVPP電力プールを構築している。
 
​​II. AS市場と中国VPP
市場化の段階にある現在、中国のVPPはAS市場、スポット市場、容量市場の3つのエネルギー市場に参入することができる。AS市場は最も成熟した市場であり、現行および中期的なものである。一方、スポット市場はより長期的なものである。容量市場はVPPを歓迎しているが、まだ一部の地域で開始されたばかりであるので今後の発展に期待したい。また、省によって市場の成熟度は異なる。そのため、VPPプレイヤーが中国市場に参入する際には、省または地域の市場について、調べることが必須となる。
 
図5・6. 2019年*のAS市場の状況
* 中国がAS市場規模に関する公式統計を発表したのは2019年が最後となっている。
 
中国には9種類のサービスがあり、そのうち負荷変調と周波数変調が主にVPPの収益機会につながり、アンシラリーサービス全体の90%以上を占めている。中国電力企業聯合会 (CEC:China Electricity Council) によると、社会全体の電力消費量は、2025年に9.5兆kWh、2030年には11兆kWhに達すると推定されている。アンシラリーサービスの、総電力消費料金に対する比率は、2023年の2.5%から2025年には3%に上がる見込みである。仮に平均電力料金が0.6人民元/kWhとすると、AS市場規模は2025年に約1,710億人民元、2030年に約1,980億人民元となる。
 
負荷変調市場周波数変調市場をそれぞれ見てみよう。
 
1. 負荷変調市場
中国では、VPPに開放された最初のエネルギー市場は、中央送電網の電力需給バランスを保つための、負荷変調市場である。主に華中・華西と華北の地域に集中している。2020年、華北地域は初めてVPPの負荷変調市場への参入を許可した。4ヶ月間のパイロット期間中、翼北VPPは3,200時間以上、平均価格0.18人民元/kWhで収益を得た。このプロジェクトのVPP運営者と参加者の総収入は624万人民元であった。その後、上海、浙江、その他の地域の負荷変調市場も徐々にVPPの参入を受け入れ始めている。
 
図7. 中国の負荷変調市場(2023年1月時点)
 
VPPが負荷変調サービスを提供するにあたっては、変調可能な負荷、中断可能な負荷、蓄電システム、分散型発電装置、EV充電パイルなど、多様なリソースがあることが重要な要素となる。VPPのリソース種類が多ければ多いほど、より柔軟な負荷変調が可能になるが、一方でVPPの構築が技術的に難しくなる。
 
中国のVPPは、招待モードから市場化モードへと移行しつつある中、大多数のVPPは空調制御 (HVAC) システムや照明などの負荷リソースをベースにしたもので、その多くが商業・産業サイドからのものである。こうした負荷サイドに頼るVPPには限界があると言える。第一に、商業・産業用電力ユーザーの多くは、これまでの消費行動パターンをすぐには変えたがらない。第二に、工場では主力生産機械を停止できないため、商業・産業用電力ユーザーにおいて、変調可能な (あるいは中断可能な) 負荷は限られるため、変調能力に限界がある。例えば、中国のVPPの先駆者であるDFE (東方電子) は、主に産業用負荷と住宅用負荷をアグリゲートしているが、クイックレスポンスにおいては、89MWの容量においてでしか変調できないという現状がある。
 
図8. 翼北における中国初の市場化VPPプロジェクト
 
そこで、商業・産業用以外の負荷サイドからより多くのリソースが求められる。負荷変調市場が成熟するにつれ、複数種類のエネルギーリソースを持つVPPは、より効率的に市場に対応でき、容量も大きくなることが多く、需要が増えると予想される。前述したように、中国のVPP変調技術は、現時点では欧米やオーストラリアに遅れをとっている。こうした国々のVPPは、各種のエネルギーリソースを自動的に変調できる。代表的なのは、ドイツのVPP開発・運営者 Next Kraftwerke である。分散型再生可能エネルギー発電装置、負荷・蓄電システムを含む合計11GW以上のエネルギーリソースを統括しており、市場価格や指令に自動的に対応することができる。
 
このように、河北省、河南省、山西省などの一部の省では、分散型発電装置を中心としたマルチリソースVPPが、地元プレイヤーとの連携など、中国の負荷変調市場でチャンスをつかむことができると考えられる。
 
2. 周波数変調市場
負荷変調市場と同様に、周波数変調市場もまた、分散型エネルギーリソースを利用することで、電力品質を向上できる主要な分野である。周波数変調市場は主に南東、南西地域の省にある。国家能源局のデータによると、華南地域の周波数変調市場規模は、2022年に11.1億人民元にのぼるとのことである。現在、同地域では1日250TWの周波数変調が行われている。ただし、これまでVPPに開放された周波数変調市場は、重慶 (後期段階) と湖北 (政策草案のみ) の2市場のみである。
 
図9. 中国の周波数変調市場(2023年1月現在)
 
では、なぜ、多くの周波数変調市場でVPPは、適格とされないのだろうか?
 
周波数変調サービスを提供するにあたっては、VPPは市場の需要に数秒以内に対応する必要がある。また、双方向の調整 (周波数の増減) も可能でなければならない。したがって、VPPが安定した周波数帯に達するように電力出力をより柔軟かつ効率的に切り替えることができればできるほど、つまりより良くなる程、より技術的に困難になる。現在、周波数変調の理想的なソリューションは蓄電システム (ESS) である。Clues Electronics (科陸電子) のエンジニアによると、ESSを導入することで、石炭火力発電機 (1GW×2台) のAGC周波数性能 (Ki値) を2.1以上に改善することができ、その結果、市場平均で0.274人民元/kWhの収益が得られるという。
 
中国のVPPは、オンデマンド調整が困難な商業・産業用負荷をアグリゲートしていることが多いため、稼働中の機械のオン・オフで即座に周波数を調整することが難しい。この点からも、VPPには、商業・産業用以外の負荷サイドからのエネルギーリソース、特にESSが必要になってくる。例えば、中国企業のAI Power Tech (蘇州均灝) は、1.2MWhグリッドサイド蓄電システムと分散型太陽光発電を含むVPPを建設し、地域のグリッドシステムに周波数変調サービスの提供を開始した。
 
図10. 石家荘市西柏坡鎮におけるAI PowerによるVPPプロジェクト
 
調整技術が成熟している国の中には、より容量の大きい分散型エネルギーリソースを使用している国もある。前述した国家間のVPP比較によると、オーストラリアは、特に家庭用バッテリーをVPPリソースとして利用している。南オーストラリア州では、Teslaが家庭用バッテリーPowerwall (13.5kWh) を用いた16MW VPPを建設し、2019年から高速周波数応答 (FFR) (1秒未満) サービスを提供している。
 
このことから、高度な調整技術を持つESSプレイヤーにとって、中国南東部や南西部の新興市場は、蓄電システムの高い設備投資コストの緩和策として理想的な地域である。さらに、V2G (Vehicle-to-Grid) のような双方向エネルギーリソースも、周波数を制御するVPPリソースとして検討される可能性がある。
 
3. スポット市場
中国では、「電力スポット市場基本規則」 (2022年11月草案) に基づき、VPPがスポット市場に参入することを認める方針だ。2023年末までに、主に華東、華中、南東地域を中心に、13の省がスポット市場を立ち上げた。そのうち、山東省と広東省は、スポット市場をいち早く立ち上げ、VPPの入札に試行した省である。
 
スポット市場の価格差は省によって大きく、例えば、広東省では2022年の平均価格が0.366人民元/kWhから0.556人民元/kWhとなっている。VPPにとって、価格スプレッドは、アービトラージ取引による利益獲得に重要である。山西省と内モンゴル自治区のパイロット・スポット市場では、価格差は0.5人民元/kWhを超えることもあるが、より確立された広東省のスポット市場では価格差は約0.195人民元/kWhとなっている。
 
図11. 中国のスポット市場
 
VPPが、スポット市場で収益を得る為には、発電量と消費量 (負荷)、そして市場価格を予測することが重要である。一つのVPPは、様々な電力パターンを持つ多様なエネルギーリソースをアグリゲートすることができる。特に、分散型再エネ発電装置がリソースに含まれる場合、総電力曲線が不安定になる可能性がある。また、負荷リソースは、より安定しているかもしれないが、照明、空調、テレビのような小規模なユニットが多いため、調整が複雑になる場合がある。したがって、電力予測については、負荷管理に基づく正確な発電予測と負荷予測が、VPPの入札パフォーマンスに影響を与える。市場価格については、スポット市場が形成されつつあるため、過去のデータが少なく、正確な価格予測はやや難しい。例えば、深圳では、SPIC広東 (国家電投広東) のVPPが広東スポット市場に参入し、中国で初めて収益化を実現した。このVPPは、EV充電パイルをベースに、負荷と市場価格の予測をもとに入札を実施した。
 
図12. SPICによる中国初の黒字化VPPが深圳で実現
 
よって、VPPに高度な予測技術を備え付けることは重要であると言える。VPPは、分散型発電装置、ESS、充電パイルなど、より多様なエネルギーリソースをアグリゲートしていくため、負荷予測だけでは、将来の需要をまかなう上で十分ではなくなる。現時点で予測能力を持つ中国企業は、Acrel (EMS運営者) 、Haier Cosmoplat (ESCO事業) などの負荷リソースの予測か、Sungrow (分散型太陽光発電) 、Sprixin (再生可能エネルギー予測) などの発電リソースの予測と、いずれか一方に集中している。
 
一方で、ヨーロッパでは、前述したように、複数種類のエネルギーリソースを取り扱うVPPがスポット市場に参入することから、VPPが高度な予測管理をしていることがうかがえる。例えば、Next Kraftwerkeは、日中のスポット市場において、発電量と負荷量の双方を予測するとともに、顧客のデータをもとに、市場価格と量を予測する。こうした情報から、最終的に市場での入札を決定する。
 
中国においても、VPPがスポット市場に参入するのは必然の流れとなるだろう。スポット市場への参入に備えるには、そのための技術を確立する必要がある。正確な予測アルゴリズムと計算技術を持つ企業は、このビジネスチャンスを掴むことができる。
 
III. 技術ボーナスと展望
結論として、中国はVPP市場の発展という点で、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアに追いつこうとしている。各エネルギー市場には、複数種類のエネルギー変調、周波数制御技術、電力・負荷・価格予測能力など、様々な技術が強く求められている。現地の推定によると、中国のVPP市場規模は、成長するエネルギー市場に牽引され、2025年には300億人民元を超えると予想されている。
 
海外のVPPプレイヤーは、中国のVPP参加者にソフトウェアやハードウェアを提供する以外に、自社でVPPを運営したり、現地プレイヤーと連携したりすることで、このチャンスをつかめる。実際、ABBと日立エナジーは、中国のVPPプロジェクトに参加している (図13参照)。さらに、甘粛省や西北、湖北などの一部の地域では容量市場が開始されており、ESSを備えたVPP運営者にとってより多くのチャンスがもたらされることになるだろう。引き続き、中国のエネルギー市場の発展に関する最新情報をアップデートしていきたい。
 
図13. ABBと日立のプロジェクトを含む国内主要VPPプロジェクト
 
こちらの記事の内容にご関心のある方は、以下のレポートもご参照ください。
1. 「中国のVPP/EMS市場」2023年6月30日
 
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