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  Date: Dec 25, 2023
*こちらの記事は、2023年11月1日の弊社英文ブログ【Twilight in the Nuclear Fusion Industry: Rise of Private Companiesを翻訳したものになります。
【中国核融合産業の黎明期:民間セクターの台頭】
 
この記事の筆者
 
"核融合エネルギーは何年先に実現するのか"と問いかけることから始まる核融合産業に関する有名なジョークがある。興味深いことに、この質問に対する答えは"常に30年先 (西側) "と"常に50年先 (中国) "で異なっている。どちらの答えが科学的に正しいか、真相を究明する術はない。むしろ、最近ではこれを揶揄し、"今は常に20年先と言うべきだ "と訂正する科学者もいる。確かに、科学的ブレークスルーの側面でも、社会的・民間投資の側面でも、制御核融合技術は今や我々の日常生活に一歩近づいたように見える (しかし、残された道程はまだ999歩あるかもしれない)。
 
核融合の略史
欧米諸国に比べ、中国の核融合産業への参入は比較的遅く、先進国より約40年遅れている。欧米諸国が核融合の研究開発を始めた当初、将来の見通しについて科学者らは非常に前向きな姿勢を示していた。核分裂発電所の急速な発展を目の当たりにした科学者らは、核融合技術も核分裂技術と同様に急速な発展を遂げるのではないか、つまり50年後には核融合発電所があらゆる地域で実用化されるのではないかと期待していた。しかし、冷戦や金融危機といった歴史的な理由や各種技術のボトルネックにより、核融合研究開発の進展は過去数十年にわたり停滞局面を続けている (詳細は図2参照)。
 
工学的パラメータの制限により、既存の装置で三重積 (トカマク型核融合炉の性能を示すパラメータ) を大きくすることに明らかなボトルネックがあったため、各国の科学者は、エネルギー閉じ込めに対するスケーリング則が正しければ、より大型の装置を構築することが重要であるとのコンセンサスに達した。その結果、直径28m、高さ30mのトカマク型核融合装置を建設する超大型国際プロジェクト「ITER」が1985年に開始された。ITERはQ>10 (実用化の可能性を測るパラメーター) を達成するよう設計されている。この目標を達成できれば歴史的なブレークスルーとなり、各国は次の段階で相対目標を定めることになる。残念ながら、ITERは2023年に最下部の設置工事を終えたばかりだ。残り部分の製造と設置が完了するまでには、まだ15年かかると予想される (楽観的な見方だが)。
 
図1: 世界の主要核融合発電装置の三重積
出典: 聚变点火原理概述, 谢华生,"文献中给出的各实验装饰所达到的参数 (Wurzel, 2022)" に基づいて作成されたもの。
 
中国は、トカマク装置を発明した国でもある旧ソ連から譲り受けた装置から研究開発を始めた。当初、中国の試作トカマク装置は、旧ソ連やドイツから贈与されたトカマク装置を改良しただけのものだった。数回の改良を経て、中国科学院等離子体物理研究所 (ASIPP) は独自に中国最初のトカマク装置EAST (Experimental and Advanced Superconducting Tokamakの略) を開発した。EASTは2006年に最初のプラズマが生成され、中国の核融合研究開発の最初のマイルストーンとなった。2023年までに、EASTはHモードでの4分間運転を含む数々の世界記録を打ち立てた。
 
近年、外国の国立核融合研究所や外国の民間核融合企業で働いていた著名な中国人科学者の何人かが、中国へ帰国することを決めた。その多くが中国の新興民間核融合企業に加わり、核融合研究開発の第二波をリードしている。脱炭素化の取り組みが多くの民間投資を呼び込む中、中国における核融合産業の発展もいよいよ加速するかもしれない。
 
図2: 世界と中国の核融合産業の歴史年表
出典: 公開情報をベースにINTEGRAL社整理
 
D-T核融合反応の実用化を妨げている技術的問題は主に、第一壁材料トリチウム増殖材料超伝導材料の工業化が挙げられる。この3つの技術的問題は、いずれも小型トカマク装置と従来型トカマク装置の両方に当てはまり、近い将来、潜在的な投資機会を生み出す可能性がある (DTトカマク型核融合装置のボトルネックとその解決策については、【中国核融合産業の最新動向レポート】をご参照ください)。
 
各国立研究機関が従来型トカマク装置の技術路線を選択するのに対し、民間企業は小型トカマク装置の開発に集中する傾向がある。現行の小規模トカマク装置は実用化を目的としたものではなく、この技術路線 (中心ソレノイドコイルの空間を狭める球状構造) の実現可能性を検証するためのものである。その実現可能性が確認されれば、必然的に大量の社会資本が流れ込み、商業的発展が一気に促進される。中国では現在、2社の新興核融合企業が世間から評価されているが、これについては後ほど紹介する。
 
核融合産業への投資が世界的に急増
近年、政府・国立研究機関に限らず、これまで以上に核融合に対する取り組みが盛んになっている。数十億ドルの資本を集めた民間核融合産業も出現している。世界の核融合産業への投資額は、2022年の48億ドルから累計62億1000万ドルに達した。
 
図3: 米国の民間核融合投資と中国の核融合投資の比較
出典: DOEの公開データ (米国部分) とINTEGRAL社の調査結果 (中国部分) をもとにINTEGRAL社が作成したもの。
 
この2021年の急増は、著名投資家が核融合への可能性に確信を持った結果もたらされる投資のへの先駆けかもしれない。今年は画期的な出来事が複数あった。マサチューセッツ工科大学 (MIT) が開発したYBCO超伝導コイルは、現在の3倍近い約20Tの磁力に達することができる。また、米国国立点火施設 (NIF) は慣性閉じ込めプロジェクトが世界で初めて出力エネルギーが入力エネルギーを上回るQ>1という歴史的ブレークスルーを達成したと発表した。最後に、民間投資の額は大きく変動しているが、公共投資の額は変わっていない。これまで風力や太陽エネルギーに注目してきた多くの投資家が、次なる好機として核融合に関心を寄せている。
 
核融合発電を手がける中国の民間企業が世間の注目を集める
2022年、Mihoyo (海外市場で最も有名な中国ゲーム会社のひとつ) がEnergy Singularityという核融合スタートアップ企業に投資したというニュースが世間を賑わせた。その時点では、Energy Singularityが何なのか、核融合について何をしたのか、正確なことは誰も知らなかった。核融合は50年来のジョークのようなものと認識されている中 (現在も多くの人がそう認識している)、Mihoyoはなぜモバイルゲームとは全く関係のないこの業界に投資することにしたのだろうかと、多くの人が推測し始めた。その後、ネット上に流出したWeChatの履歴によると、MihoyoのCEO劉偉氏は、純粋に国内の核融合産業の自主的発展に関心を持ち、Energy Singularityに投資したようだ。ここでは、そのチャット履歴の信憑性について論じないが、むしろ、民間の投資会社以外に、億万長者らがこの業界に投資を始めているという傾向を表している (Bill Gates、Jeff Bezos、Sam Altmanなど) 。劉偉氏のように、彼らのなかにはクリーンエネルギーと何の共通点もない者もいる。しかし、彼らは全員、実現には長い時間がかかるかもしれないが、核融合エネルギーの未来を信じている。
 
こうした新興核融合企業を育成する大きな力となっているのは、著名な個人のほか、ベンチャーキャピタル各社である。核融合産業協会によると、特に2021年以降、民間投資額が政府からの公共投資額を大きく上回っている。核融合エネルギー企業以外にも、一部の川上サプライヤー (超伝導材料企業や構造材料企業など) が新たな投資家を引き寄せている。
 
米国エネルギー省とホワイトハウスは、ITERの不確かな開発に時間をかけることなく、小型トカマク装置の実用化に向けて官民連携を奨励し始めている。この傾向は中国でも同様で、2021年には、ENN (クリーンエネルギー・ソリューション・プロバイダー) とSWIP (別の国立核融合研究機関) の提携、および地方政府とNIO (大手NEV OEM) の出資によるNeo Fusionの設立という2例が確認されている。
 
企業1: Startorus (星環聚能)
図4: Sunist-2 Tokamak
出典: Startorus 公式ウェブサイト
 
Startorus Fusionは2021年に設立され、清華大学からインキュベートされた。清華大学は20年以上にわたって核融合エネルギーの研究開発を行っており、中国で核融合研究を進めることを表明したトップ大学である。Sunist-2は閉じ込め性能の高い高温超伝導球状トカマクで、磁気リコネクションを用いて核融合反応が起きるまでプラズマを加熱することで、装置のコンパクト化、小型化、低コスト化を実現している。清華大学からの技術移転である。
 
企業2: Energy Singularity (能量奇点)
図5: Honghuang-60 Tokamakのコンポーネント
出典: Energy Singularity  公式ウェブサイト
 
Energy Singularityは2021年、海外勤務・留学を経て中国へ帰国した医師らによって設立された。現在、従業員は80人で、博士号取得者が30%、修士号取得者が28%、海外で学歴・職歴のある者が20%いる。Energy Singularityは、YBCO超伝導コイルと同じ材料を使い、20Tコイルのテストを希望しているCommonwealth Fusion Systemsと同様の見解を示している。Energy Singularityの現CTOは、アメリカ物理学会のフェローであり、DIII-D(米国General Atomics社が運営する核融合研究機関)のディレクターでもあった。また、TAE Technologiesのチーフ実験ストラテジストでもあった。
 
この2社以外にも、ENN (p-B反応に着目、理論的には高効率だが高温になる別のメカニズム) やNEO Fusion (構想段階のみで、今のところ公開情報はない) といった新興企業がある。このような不確実性にもかかわらず、両事業には官民から多額の資本が流れ込んでいる。図6は、中国の核融合産業における最近の投資活動をまとめたものである。
 
 
図6: 中国の核融合産業への投資概要
出典: 公開情報をベースにINTEGRAL社整理
 
まとめ
球状トカマクは、そのコンパクトな構造と低いエンジニアリングコストにより、民間核融合企業の主流としてあり続けるだろう。分散型発電プロジェクトの実証にはより適している。その結果、発電所などの大規模なプロジェクトはITERの結果に依存することになるが、小規模なプロジェクトは、投資家が期待しているように、より早く実用化される可能性がある。
 
核融合発電所 (あるいは分散型発電用簡易装置) のTCOを計算する明確な仕組みはこれまでなかった。そのため、実際にどの程度の経済効果があるのか、議論になることが多い。しかし、現在の投資はより速い技術的ブレークスルー及び実用化を目指すものであるため、投資市場の熱気を妨げるものではない。
 
核融合技術企業に加え、川上の企業も核融合分野への進出を始めている。すなわち、第2世代高温超伝導材料の低温・高磁場での超大電流通電能力を利用した核融合マグネットを開発する超伝導材料企業である。こうした川上企業の技術的ブレークスルーは、核融合の実用化推進に直結する。また、核融合企業とこのような材料企業との連携がさらに進むことが期待される。
 
この記事の内容にご関心のある方は、こちらのレポートもご参照ください。【中国核融合産業の最新動向レポート
 
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