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  日付: 2024年1月24日
*こちらの記事は、2024年1月12日の弊社英文ブログ【How China's Hydrogen Industry Benefit from Regulatory Flexibility on Hydrogen Production? を翻訳したものになります。
 
中国の水素産業は水素製造に関する規制緩和からどのようなメリットが得られるか?
 
この記事の筆者
 
【まとめ】
1. 燃料電池車 (FCEV) の著しい普及は、水素供給不足にまつわる課題を浮き彫りにしている。中国では、この課題は国家規制の欠如に起因し、そのため水素ステーション事業者は、化学工業団地からの水素輸送に伴うコストを負担しなければならない。
 
2. 広東省が率先して水素ステーションでのオンサイト水素製造に関する規制を緩和したことで、今後さらに多くの都市がこのような規制緩和策を実施し、運輸セクターでの「水素供給回廊」の構築を目指す見込み。
 
3. 一方、河北省と吉林省はいち早く、グリーン水素製造の促進を目的に、規制緩和策を運輸セクター以外にも拡大し、製造能力の増強と川下への投資促進を図っている。同じような目標を掲げる他の都市も、このような規制の柔軟性を導入する可能性が高い。
 
キーワード: #規制 #グリーン水素 #オンサイト水素製造
 
この記事の内容にご関心のある方は、当社の総合分析レポート【2023年中国水素サプライチェーンの最新動向】と【2023年中国水素・燃料電池産業の最新動向】もご参照ください。
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中国では、中央政府の推進により、燃料電池車 (FCEV) における水素エネルギーの利用が伸びている。2021年に始まった中国の政策イニシアチブは、モデル都市群でのFCEVの実証、特に長距離走行でのアプリケーションに重点を置いている。
 
水素供給不足がもたらす課題
水素利用セクターでは、強力な補助金政策や野心的なロードマップが示されているにもかかわらず、水素自動車の実用化には不確定要素がある。世界で見ると、収益性の低い水素ステーションが閉鎖に追い込まれるケースは珍しいことではない。中国の一部地域においても、この現象が 「成長痛」 として捉えられている。中国でFCEVの普及に最も意欲的な目標を掲げている広東省は、2025年までに水素ステーションを200カ所設置し、FCEV1万台を市場に投入することを目指している。ところが、物流車両やバスの1/3近くが、水素需給の逼迫で一時的に正常に運行できなくなり、やむなく停車したり、駐車場に停めたままになったりする事態が見られる (図1) 
 
 
図1:燃料電池車は水素供給不足で休止状態
出典:中国中央電視台
 
広東省では、現時点でFCEVの実用化に必要な水素エネルギー源も水素ステーションも十分に整備されていない。水素製造は、主に石炭や天然ガスなど、地方での限られた一次エネルギー源で行われている。陸上の再生可能エネルギー源には資源面での制約がある一方、洋上風力発電は軌道に乗るには時期尚早である。これまで水素供給の大半が、東部地域(恵州)や西北地域(湛江、茂名、韶関)にある石油化学企業から供給される副生水素に頼っている。しかし、水素エネルギー産業の川下アプリケーションは十分に開発されていない。佛山や広州などの地域では、FCEVの川下ロジスティクス・アプリケーションに商業的需要があるが、国の規制による制限下で、水素供給を現地で賄うには、化学工業団地からチューブトレーラーで都市をまたいで水素を輸送しなければならず、コストがかさむ。
 
現行国家規制の枠組みでは、燃料またはエネルギー源としての水素は重視されていない。水素は国家エネルギー法ではエネルギー製品に分類されているが、規制の具体的な内容は明らかになっていない。一方、水素エネルギーは、引火性が低く、爆燃する確立が高い性質から、「危険化学品目録(2015年版)」において「危険化学物質」に分類される。後追いの規制は、水素製造業務を基礎化学原料の製造と同等とみなすことである。水素の製造場所は厳格に化学工業団地内に定め、環境安全リスクを最小限に抑えるため指定された運用管理に従わなければならない。水素の輸送については、「危険貨物道路輸送管理規定」に則り、 輸送方法、安全管理、輸送時間に関する厳格な規制とともに、輸送ルートについて交通管理当局の認可を得る必要がある。こうした現行の国家規制により、水素貯蔵・輸送システムは未熟なままで、国内水素サプライチェーンに欠かせない部分となっている。ロングチューブトレーラーに搭載される水素貯蔵容器の自重が大きい分、実際に輸送される水素の重量は、輸送重量全体のわずか1~2%に過ぎない。また、輸送コストは長距離になるほど大幅に増加する。
 
水素の長距離輸送にかかるコストは、実質的には水素ステーションを運営する事業者の負担になっている。水素ステーションの運営を対象とした補助金は、販売価格に応じて交付される。例えば、京津冀モデル都市群では、「水素サービスを提供し、30人民元/kgを上限とする価格で市場で水素を販売することを約束する事業者に対し、補助金として10人民元/kgを交付する」と政策に明記されている。上海のモデル都市群では35人民元/kgである。しかし、実態としては、自動車への燃料補給用水素の販売価格は、多くの場合はこの上限価格よりもはるかに高い(60~70人民元/kg)。補助金受給資格を得るために、多くの水素ステーション運営者は水素の販売価格を引き下げなければならないが、補助金を受け取ったとしても、運営上の損失を十分に補填できるものではない。このような状況により、多くの水素ステーション運営者は、補助金を諦め、その代わりに本来の高価格でエンドユーザーに水素を販売せざるを得ない。エンドユーザーの立場からすると、FCEVを購入する初期段階で一時的な補助金のメリットを得られても、実際に走行する際には安価な水素を手に入れることはできない。その結果、FCEV購入者の運行意欲を著しく削ぎ、購入した自動車が走行距離の条件(FCEV購入補助金の給付を得る条件の一つ)を満たした後は、アイドル状態にしてしまっている。
 
 
水素ステーションをめぐる規制緩和
 
広東省における水素エネルギー源が不均一に分布していることから、このコスト負担の問題は、一層顕著なものとなっている。野心的な政策目標と運営上の厳しい現実のギャップを埋めるには、水素製造能力を確保するだけでは不十分であることに、地元政府関係者と専門家達は気づき始めている。広東省12部門は2023年6月、「広東省燃料電池自動車水素ステーション建設管理暫定弁法」を発表した。同文書は、以下3点について緩和措置を講じている:
 
1. 敷地:水素ステーションと既設ガソリンスタンドでのオンサイト水素製造を推進し、統合ステーションへの転換を図る。新規建設のガソリンステーションは、同時に水素供給施設を計画・建設することが推奨される。
2. 規模:オンサイト水素製造ステーションの水素製造規模は3000kg/日以下、水素貯蔵タンクの総容量は3000kg以下とする。オンサイト水素製造ステーションの建設は化学工業団地以外の区域でも許可される。
3. 許可:危険化学品製造安全許可の取得は不要に。但し、水素ステーションの対外事業活動は、事前にガス貯蔵容器の充填許可を取得しなければならない。
 
FCEV向けの水素利用を前提とする水素ステーション設置のケースに限定されるが、化学工業団地以外の範囲を対象とした水素製造に関する緩和策は今回が初めてとなる。このように、こうした緩和措置は、地域のFCEV産業発展を後押しする支援と見ることができる。水素ステーションの位置選定は、自動車の走行ルートに近い場所へと拡大される。オンサイトで水素製造と燃料補給を一体化することで、大幅なコスト削減余地が生まれ、収益化への道筋が見えてくる可能性がある。
 
図2:発表されたオンサイト水素製造に関する規制緩和策
出典:公開されている政策をもとにINTEGRAL社がまとめたもの
 
注目すべきは、このような規制緩和の動きは広東省に限ったことではないことだ。今年に入り、複数の地域でも同様な動きが見られるようになり(図2)、オンサイト水素製造施設の建設が進んでいることは、大規模な水素輸送実証計画の戦略的枠組みとも合致している。この計画の重点はFCEVの拡大フェーズにある。自動車の専門家である万鋼氏の解説によると、まず「両縦四横」の幹線を結び、その後に「水素供給回廊」を構築するというレイアウトだ。現在、主に華東と東南地域に位置する5モデル都市群には40以上の都市が点在している。だが今後、こうした都市がつながることで、地域間の高速道路で縦横無尽の輸送が可能になる。水素燃料電池を燃料とする大型トラックは、主に固定ルートで運行され、管制高速道路沿いの長距離物流に適している。将来的には、水素ステーションを高速道路網内の交通ハブに建設することができる。例えば、高速道路沿いの坂道を利用したり、工業副生水素が豊富な地帯を活かしてローカルの水素供給回廊を構築したりする。その意味で、我々はオンサイト水素製造に関する規制緩和は、水素回廊沿いの都市が先行して実施される可能性が高いと見ている(図3)。
 

図3:オンサイト水素製造に関する規制緩和の見通し
出典:INTEGRAL社によるまとめ
(注:地図上、Form 1の規制緩和は水素ステーション、Form 2の規制緩和は水素安全管理を指す。)
 
水素安全管理をめぐる規制緩和
 
では、 規制・制度の改革はFCEV業界のみに限られるのだろうか? 現在、数多くの大規模なグリーン水素プロジェクトが内モンゴルや中国西北地域で進められており、川下でのアプリケーションはFCEVの運用に限られることなく、化学工業にまで及んでいる。しかし、現行の国家規制により、グリーン水素製造は、場合によっては産業用水素の需要家の近くに建設することができない。
 
 
図4:発表されたグリーン水素製造に関する規制緩和策
出典:公開されている政策をもとにINTEGRAL社がまとめたもの
 
規制緩和の動きは、河北省と吉林省の水素製造拠点においても見られる(図4)。広東省とは異なり、河北省はほぼ同時期に、水素エネルギーの安全管理チェーン全体を対象とした「河北省水素エネルギー産業安全管理弁法(試行)」を発表した。水素ステーションに焦点を当てた広東省の緩和措置に比べ、河北省の同奨励措置は次の点において異なる:
 
1. 敷地:化学工業団地外の水素ステーションでのオンサイト水素製造のみならず、一般的なグリーン水素製造が推奨されている。
2. 規模: 特になし。
3. 許可:グリーン水素プロジェクトの場合、危険化学品安全生産許可証は必要ない。オンサイト型水素ステーションについては、天然ガススタンドのモデルに従って管理される。運営にあたっては、ガス事業許可とガス供給事業許可を取得しなければならない。
 
こうした緩和措置は、規制上の柔軟性を提供し、許可要件を合理化することで、水素ステーションでのオンサイト水素製造、特にグリーン水素を含む水素製造の発展促進を目標としているように見える。
 
河北省では数年前から、水素の川下アプリケーションを運輸セクター以外にも拡大する動きが見られる。張家口市には太陽光と風力による再生可能エネルギー導入ポテンシャルがあるため、河北省は水素開発でいち早く先陣を切るチャンスをつかんでいる。低炭素型2022年北京冬季オリンピックの共同開催都市に選ばれ、さらにFCEV実証アプリケーションの実施に向けた京津冀モデル都市群の一員となったことで、河北省は中央政府から直接支援を受け、一連の試行プロジェクトを開始することができた。また、河北省はグリッドサイドのピーク変調用に世界最大級200MW/80MWh水素貯蔵発電プロジェクトを建設した。今年、水素製造の規制が緩和されたことで、地域の水素貯蔵ニーズに応じ、水素製造場所の地理的要件に関してより柔軟に対応できるようになった。
 
吉林省も河北省と同様に、2023年11月に「吉林省水素エネルギー産業安全管理弁法(試行)」を発表し、規制緩和措置を打ち出した。河北省のような先行優位性はないものの、吉林省はより意欲的にグリーン水素製造の計画実現に向けて取り組んでいる。中国の重点重工業地域である吉林省は、長年にわたる供給サイドの構造改革により、そのGDPは回復基調にある。だが、同省は依然として経済活性化に向けた新たなビジネス創出に力を入れており、同省の第14次5ヵ年発展計画では水素エネルギーが戦略的焦点となった。吉林省は2022年11月に「氢動吉林」という省構想を積極的に策定し、豊富な再生可能エネルギー資源を活用するとともに、先端的な研究開発と設備製造に取り組んでいる。川下では、グリーンケミカル(アンモニアやメタノール)を重要な消費手段として活用し、輸出能力を構築することに重点を置いている。2023年12月に発表された「水素エネルギー産業の新軌道を先行配置する実施計画」によると、吉林省の2025年グリーン水素製造目標は20万トン/年に引き上げられ、「氢動吉林」イニシアティブの少なくとも2.5倍となっている。規模に制限のないグリーン水素製造プロジェクトを推進するには、このような後押しが必要なのである。
 
ここで予見できるのは、このようなグリーン水素製造を対象とした規制緩和は今後、大規模なグリーン水素製造の目標を掲げる地域や、川下でのグリーン水素利用促進を目指す地域においても見られるだろうということだ(図3)。
 
まとめ
 
補助金は産業発展の初期コストを軽減することができるが、規制の柔軟性によって軽減される目に見えないコストの方が、より大きな意味を持つかもしれない。本稿では、異なるセクターを対象とした規制緩和が、地域レベルでいかに有益な環境を作り出せるかを概説した。今後規制緩和の動きが広がることで、将来の水素産業発展への道が開かれるかもしれない。
 
この記事の内容にご関心のある方は、当社の総合分析レポート【2023年中国水素サプライチェーンの最新動向】と【2023年中国水素・燃料電池産業の最新動向】もご参照ください。
 
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